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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ175

「親父、お帰り。お義母さん、お帰りなさい」「おう、やっと会えたな」私たちが日本を発つ前々日、淳之介と恵祥があかりといりえを迎えにやってきた。滅多に来日しない父親なので息子としても対面しない訳にはいかないようだ。私と梢はいりえと連れて日本トランスオーシャン航空の到着ロビーで出迎えた。淳之介は浅黒く日に焼けて海ンチュウの雰囲気を濃厚にしている。恵祥は小学校で唯一の高学年として児童会長と学級委員、通学団長などの全ての役職を兼務しているだけにかなり貫禄が付いてきた。幸いなことに来年から恵祥は同じ校舎内に開設される中学校に通うのでいりえが入学しても心配はない。
「今回は南城のオジイの墓参りとオバアに挨拶からだね」「レンタカーの運転は頼むよ」オランダへ移住してから私が車を運転したのはアフガニスタンでの現地調査だけなので全く自信がない。淳之介も雲島で農作業を手伝って軽4トラックに乗るくらいだが私よりは信頼できる。
「オジイ、一緒に酒を飲みたいけど今日は運転手だからゴメンネ」頂上に旧玉城松栄家、現在は玉城に改姓した夕紀子の家がある丘の麓の玉城家の亀甲墓に参ると淳之介は石垣島で買ってきた土産と波照間島の泡盛・泡波を供えて手を合わせた。これでは「ここから先は親父が運転しろ」と言われているようだが飲むにはグラスがないので単なる挨拶のようだ。
「淳之介、よく来てくれたさァ」墓参を終えて玉城モンチュウの家が並ぶ坂道を登って玄関前にレンタカーを止めると開け放しの玄関から元義母が飛び出してきて淳之介が車を下りるのが待ち切れないように抱きついて出迎えた。
「オバア、元気そうで安心したさァ」「いつも心配してくれて有り難う」淳之介が沖縄でも新型コロナ・ウィルス感染症が蔓延して行動制限が厳しくなっても玉城家と安里家の清明節や盂蘭盆会の墓参を欠かさないように最大限の努力を払っていたことはあかりからの電話で聞いている。やはり孝行者の孫は誰よりも可愛いようだ。考えてみれば私も親の命令に年3回の帰省を命じられていた頃、祖父の寺で大半を過ごして坊主の真似ごとに励んでいた。そんな私を祖父は他の住職に「跡取りとは別に弟子ができた」と自慢していたそうだ。
「モリヤ、淳之介は本当に親孝行さァ」「親孝行じゃあない。松栄さんとモンチュウのために参ってるんだな」座敷に通されてビールを勧められたが運転手は当然のように断り、私も安里家の墓参があるので控えた。その結果、麦茶での茶話会になったが私は元義母の誉め言葉を酔ったように否定してしまった。座敷に通されて梁に元義父と並べて掲げてある美恵子の遺影を目にした時から私はこの部屋に嫌悪感を覚えている。元義母が言うように淳之介が親孝行で墓参りしているのならば産んだ母親の美恵子の供養になってしまう。勿論、元義母が口にしたのが一般論なのは判っているが、今の私には黙過できなかった。オランダで梢との生活を再開させ、自衛隊を定年退役して振り返ると美恵子の介在が私の人生にどれ程大きな禍根を残したかが思い知らされた。淳之介が内心では美恵子の供養を勤めているにしてもそれは私がいない時でなければならない。実際、玉城家の亀甲墓には香港領事館から届いた美恵子の遺骨も埋葬されているはずだが、塀の脇に立つ墓碑銘の石盤に名前は刻まれていない。モンチュウの長・松泉が亡くなる時に美恵子が吐いた暴言は今も許されていないのだ。
「ごめんなさい。モリヤさんの前で軽率でした」「親孝行はワシがいない時に勝手にやれ。散歩に行きます」元義母は畳に手をついて深く頭を下げたが私は許さなかった。私は梁を見上げるとパスポート用か免許更新用なのかは判らない美恵子の真顔の遺影を睨みつけて立ち上がった。梢もついて一緒に玄関に向かった。
「自衛隊生活に後悔が残ってるのね」「うん、防府の教育隊に転属したことが悔やまれてならん。あんな部隊に行かなければ陸に転換しようとは思わなかったし、部外も海上か航空で受けただろう」手をつないで坂道を下りながら梢は私が胸の中に溜め込んでいる苦い感情を吐き出させようと話しかけてきた。やはりこの人は全てお見通しだ。
「今回、熊本で山中区隊長に会ったことは言っただろう」「卒業課程の区隊長ね」「山中区隊長の話では曹学の同期の森田が航空自衛隊の基地警備を改革したんだそうだ。ワシは空曹で教育隊に行ったから何もできずに逃げたけどアイツは見事にやり遂げた。今回、帰国して部外者として自衛隊を見るとワシにも航空自衛隊で別に為すべきことがあったように思えてくる。やはり傍にいるのはお前でなければ駄目だった」私は梢が握っている手を振りほどき、肩に回して強く引き寄せた。若い頃には美恵子と一緒に何度も上り下りしたこの坂道だが、やはり伴侶は梢でなければならない。航空機整備員としての才能・適性がないことを痛感して悩む私に梢は航空自衛隊の職種制度を説明させながら真剣に向き合ってくれた。あのまま梢と結婚していれば多分、警務官になって法律の世界で生きる航空自衛隊人生を全うしたはずだ。
  1. 2022/07/04(月) 15:34:29|
  2. 夜の連続小説9
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