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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ182

「事ここに至れば防衛出動の下令以外にありません。おそらく安全保障理事会でも中国は常任理事国として韓国軍の我が国への侵攻を放射能の汚染の影響を防ぐための自衛措置と肯定するはずです。そうなる前に我が国の意思を内外に宣言する必要があります」閣議室が沈黙に包まれた後、オンライン画面の浜防衛大臣は重々しく口を開くと一気に所見を述べた。やはり中央指揮所でも韓国国防部長官の会見は見ていたようだ。
「しかし、韓国側の主張も今では日本以上の核アレルギーが蔓延している海外では賛同する国が多いんじゃあないかな。防衛出動で強硬に拒否すれば福島の二の舞になるぞ」浜防衛大臣の所見を聞いて考え込んでいた閣僚の1人が反論した。東北地区太平洋沖地震の巨大津波による福島第1原子力発電所の崩壊と放射能漏れ事故では「日本全土が放射能に汚染された」と言う事実誤認が海外に拡散した上、マスコミが放射能による健康被害が過大に報道されたため日本産の農・水産物だけでなく工業製品まで輸入を拒否する国が続出した、この事実誤認はA日新聞が流した「このままでは日本全土が汚染されてしまう」と言う警告記事が発生源だったが、民政党政権は公式に強く否定しないまま放置し、外務省も事業仕分けの後遺症で機能停止状態に陥っていため復活した加倍政権の努力でようやく沈静化した。
「韓国にはアメリカ軍の専門部隊が対処するから派遣は不要だと回答しましょう」「それでも無理押ししてくるようなら完全非武装の丸腰を絶対条件にするしかありません」日本では自衛隊が災害派遣で非武装の丸腰なのを当然視しているが、海外では大規模災害によって物資不足が発生すると略奪や不満による暴動に発展するのが常識だ。そのため「自衛隊に宿営地の警備だけでなく治安維持に必要な最低限の武装を携行させるべきだ」と言う意見が一部にはある。実際、東北の大震災では民政党政権が警察にも多くの人員を被災地に派遣させたため監視が行き届かなくなった都市部で在日外国人による犯罪が急増した。だから加倍政権は熊本の震災では自衛隊を主力にして対処しただけでなく全国各地からの抽出で戦力減を分散した。
「その丸腰を誰が検査するんだ。法務省の入国審査で武器を発見しても発砲されれば終わりだぞ」閣僚たちの意見は空回り気味だが的を得た指摘もある。韓国軍が核対処部隊を派遣してくるとすれば空軍の輸送機と見るのが常識だが、石川県の小松空港や鳥取県の米子空港であれば自衛隊基地なので対処は可能でも他の民間空港に強行着陸されれば手の打ちようがない。それどころか今回の通常弾頭の弾道ミサイルによる核攻撃を宇宙ロケットの発射実験の失敗と弁解している北朝鮮と同様に日本が拒否できない核爆発と放射能流出への対処を口実に陸軍の部隊を侵攻させ、摘発を逃れている在日中国・韓国人の武装組織と連携して国内戦を発生させる可能性もある。石田首相は沈痛な面持ちで同じ派閥の双木外務大臣を見た。派閥の長である石田首相にとって「万能大臣」と言う仇名を持つ双木外務大臣は立場を脅かす間近な脅威である一方で最も信頼する側近でもあった。
「やはり総理自らが記者会見で韓国側の申し入れを拒否することです。理由としては西側最高峰のアメリカ軍の専門部隊の派遣を受けて我が国はその支援に全力を傾注するので韓国軍部隊の受け入れは不要な混乱を招く可能性が高い・・・」毎度のことながら理路整然とした見解に閣僚たちも聞き入ってしまった。東京大学を極めて優秀な成績で卒業し、ハーバード大学の大学院も修了して博士号を有する双木外務大臣は大臣の学歴を見下す優越感を楽しむ中央官僚たちに劣等感を与える数少ない政治家だ。その点、外務省は他の上級職国家公務員試験とは別枠の外交官試験で採用された一風変わった人種が集っているので、双木外務大臣も今まで立て直しを命ぜられて送り込まれた中央官庁とは違う刺激があって意外に楽しんでいる、
「・・・防衛出動待機命令と治安出動、海上における警備行動を維持して韓国軍の強行派遣には不法侵入と関係法令違反の犯罪行為として自衛隊に警察権を行使させる。その代り原子炉や放射能の状況とアメリカ軍の対応については在韓米軍を通じて韓国政府に逐次情報を提供し、質問も在韓米軍を介して回答する」「なるほど、早急に準備しましょう」双木外務大臣の見解が区切りになったところで立野官房長官は石田首相の同意を確認すると席を立って退室した。
「国内的には福井県南部と滋賀県北部、京都府北部の市町村は無人にしなければいけませんね」「自治体単位で考えるのはどうでしょう。福島の時のように距離の数字の方が対象者も納得するのでは」「距離は風向きによって放射能が波及する範囲が変わるから自治体単位の方が間違いない。避難先でも行政を維持できるメリットもある」「受け入れ先はどうする。今度は人数が多いぞ」やはり日本の政治屋たちは国内向けの議論の方が得意なようだ。妙に熱を帯びてきた議論から外れた双木外務大臣はオンライン画像の浜防衛大臣が苦笑いしたのを見て軽いうなずきを返した。それにしてもこれが戦争の危機に直面している国家の指導者たちなのだ。
  1. 2022/07/11(月) 13:37:59|
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