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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ184

岩国から到着したUHー60ブラック・ホークは通常ならヘリコプター用の小松救難隊のエプロンに着陸させるところだが、今回はCBIRFに使用させる格納庫の前に降りた。そのため小松救難隊から地上誘導と飛行前後の点検をする航空機整備員が呼んであった。先客の海軍の輸送機は貨物を下ろし終えて待機基地に指定されている厚木基地に移動したが、これは小松基地への配慮と言うよりも搭乗員の放射線被曝を避けることが本当の理由のようだ。
「このブラックホークは耐核仕様だね」防衛部長と同行する陸上自衛隊化学防護隊の1尉と歩いてエプロンに来たマックハウアー中佐は機長のパイロットと握手すると判り切っていることを形式的に確認した。海兵隊としても搭乗員の安全確保には万全を期さなければならないのは当然だ。アメリカ海軍はトモダチ作戦では福島沖で活動した航空母艦の乗員が放射線被曝による健康被害を訴えて裁判を起こしているのだ。
「はい、中佐がインディアン・ヘッドから指示された通りです。床と外壁は鉛板で補強し、ガラスも鉛ガラスに交換し、空気取り入れ口には濾過器を設置しました。おかげで体重オーバーで動きが取れません」「人間なら強制ジョギングだな」ヘリコプターの高度では放射能の発生源である原子炉からの距離が短く搭乗員は濃厚に被爆してしまう。そのため放射能を遮る鉛板で補強したのだが、その分機体重量が増加して速度や上昇力、搭載量、運動性などの飛行性能は大きく落ちてしまう。アメリカ海兵隊が階級を問わず全隊員に身長から算出した基準体重を割り当て、維持を義務づけているのも運動能力を確保するためだ。しかし、この防護処置を施した機体でもガイガー・カウンターによる機内の放射線量の測定を欠かすことはできない。
「パイロットは防護衣を着ているな。私ももう一度着なければならん。少し待っていてくれ」「またバック・トゥ・ザ・フューチャーの宇宙人の格好か」「あれはジョークだ。日本人は異常に緊張するから困難な任務だからこそ防衛大臣にも笑ってもらいたかったんだ」マックハウアー中佐は整備員と話している副操縦士も同様に通常の飛行服よりも密閉性が高い飛行服を着ているのを確認すると機長に声をかけた。すると防衛部長は到着した時に着ていた時代遅れな防護服を持ち出してからかった。確かに映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では主人公のマイケル・J・フォックスが自動車式のタイム・マシーンの燃料のプルトニウムを取り扱うために防護衣を着たまま過去に跳んで馬小屋に突っ込み、母家から出てきた家族の前に現れると子供に宇宙人と誤解された場面があった。その点、現代の防護衣は生地と縫製の飛躍的発達によって外見は通常の戦闘服と大差がない。同行する化学防護隊の1尉にもアメリカ軍の防護衣を貸してもらうことになっている。自衛隊の化学防護衣は化学兵器用として開発しているため放射能の防護力は不十分だ。自衛隊では開発予算も会計検査院の検査対象になるので要求した目的以外の能力を併せ持たせることが困難だ。例えば航空自衛隊のTー4練習機は海外の同様の練習機が攻撃機としても使用できるようにバルカン砲を搭載し、翼に爆弾を装着するパイロンを設置しているのに対して開発に当たった川崎重工側から提案したにも関わらず内局の官僚は「練習機が武装することは会計検査院が認めない」と回答して潰した。また航空方面隊指揮所と防空指令所の地下基地は土木建設上の強度は核攻撃にも耐えられるように設計されたが、空気取り入れ口に放射能の濾過装置を設置する予算が認められず、長い間隊員たちは「核攻撃を受ければ身体は無事でも放射能障害で苦しみ悶えて死ぬことになる」と語り合っていた。それでも放射能濾過装置を通常の空気清浄機として予算要求して製造メーカーの他の製品を多数調達することで差額を分散補填して設置した。
「この地点で300ミリ・シーベルトを超えてしまう。やはり接近できんな」小松基地を離陸したブラック・ホークは海上から先ず美浜原子力発電所に向かったが、建物は識別できない程度に陸地が見えてきた時にはガイガー・カウンターの数値は300ミリシーべルトを超えていた。放射線障害は500ミリ・シーべルトを超えると場所に1時間所在すると白血球の減少が始まり、1000ミリ・シーベルトでは造血器障害が始まって歯茎や消化器から出血し、皮膚がただれてくる。4000ミリ・シーベルトでは骨髄障害による造血機能の破壊で重度の貧血によって意識を失い、多くの場合そのまま死に至る。搭乗員たちは放射線沃素を服用しているがこれはリンパ節の癌の予防薬であってこれらの放射線障害への効果は期待できない。
「原子炉破壊直後にジエー隊のヘリは生存者の救助で現地に着陸したんだろう。その時点での放射線量の数値はどうだったんだ」「それが飛行隊長はガイガー・カウンターを携行して数値が基準値を超えれば救助を断念しろと命じたんですが搭乗員が独断で強行したようです」「やっぱりフクシマ・フィフティだな。それを我々に期待されては困る」化学防護隊の1尉の説明にマックハウアー中佐は厳しい目で苦笑して首を振った。
  1. 2022/07/13(水) 15:00:12|
  2. 夜の連続小説9
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