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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ185

「この放射線量では救助に入ることは無理だ。おそらく生存者はいないだろう」マックハウアー中佐は小松基地に戻ると再び第6航空団の指揮所へ行って団司令以下に状況を説明した。この模様は中央指揮所にも中継されていて陸上自衛隊のヘリコプターで市ヶ谷地区へ帰った浜防衛大臣も聞いている。その時、化学防護隊の1尉は中部方面隊総監部に電話で報告していた。
「災害派遣として八尾飛行場を発進した陸自のヘリは海自の護衛艦が生存者を視認した地域を捜索したが見つからなかったんだ。そこで小学校のグランドに着陸して倒れている小学生たちの生命反応を確認して収容した」浜防衛大臣は団司令の正面の席に座ったマックハウアー中佐に報告を受けている陸上自衛隊の災害派遣の現状を説明し始めた。
「ところが防護衣を着用していた搭乗員たちにも放射線障害の症状が現れ始めて、機外で活動した隊員たちが救護中に意識を失い、続いて正副のパイロットも貧血の症状で大阪の八尾飛行場まで戻ることが不可能になった。そこで中間地点に当たる京都の大久保駐屯地に緊急着陸した」マックハウアー中佐は確認に同行した化学防護隊の1尉から概要は聞いているが浜防衛大臣の同時通訳を介した説明はオンライン画面の顔を注視しながら耳を傾けている。やはりアメリカの軍人にとってはアメリカ本土への武力攻撃に自衛隊を参戦させることを決め、日米安保条約を完成させた偉大なる政治指導者・加倍首相の弟に対する敬意は絶大らしい。
「結局、小学生は全員死亡し、搭乗員たちも放射線障害で入院している。おまけに搭乗員と小学生を搬送した隊員たちも機体と身体に素手で触ったため放射線被爆してしまった。これを我々はどう考えるべきだろうか」「おそらくグランド・ジエー隊(陸上自衛隊)のパイロットは飛行高度を距離と認識していなかったのではないでしょうか。高度6000フィート=1828メートルと言っても地上では目の前です」「なるほど・・・」マックハウアー中佐の指摘には浜防衛大臣だけでなく第6航空団司令も重々しくうなずいた。
「それから防護衣を過信していたのではないですか。防護衣は放射線を遮断して身を守ることはできても放射能までは防ぐことはできません。それも基準内の放射線量に限られます。今日、上空で測定してきた数値から見て着陸した地域は軽く1000シーベルトを超えていたはずです。ましてやジエー隊のヘリは我々のブラック・ホークのように放射線を遮断する補強を施していないでしょう」「八尾の飛行隊長は機内のガイガー・カウンターで100シーベルトを超えていれば救助を断念しろと命じていたんだが・・・やはり過信していたんだな」浜防衛大臣は深刻な顔で机上の紙に何かを書き込んだ。
「私もフクシマ・フィフティはDVDを見て原作も読みました。しかし、今回のパイロットたちの行動は勇気を賞賛される前に無謀を批判されなければなりません。アメリカ軍であれば軍事裁判の被告になります」マックハウアー中佐の評価は厳しかった。確かにアメリカ軍であれば指揮官になる機長は危険を認識しながら放射能に汚染された地域への進入を強行し、搭乗員に放射線障害を負わせた刑法犯罪に問われ、他の搭乗員たちも飛行隊長が命じた救出の実施基準に背く機長の決定に従った重命令違反の共謀、むしろ強行をけしかけた扇動・教唆の軍法違反に該当する。しかし、日本では一部のマスコミが報じ始めた「原子力発電所から流出する放射能によって死んで逝く多くの地域住民を自衛隊が見殺しにした」と言う無責任な批判をこのヘリコプターの独断専行が打ち消しているので賞賛しない訳にはいかない。同じマスコミは韓国軍の核対処部隊の受け入れも主張している。
「それで何か対策は考えているのか」「接近できないのであれば無理だろうな」「我々にできる範囲でだ」浜防衛大臣の質問に第6航空団指揮所の空気は一気に重量を増し、温度が低下した。おまけに照明まで暗くなったようだ。そんな追い詰められた雰囲気にマックハウアー中佐は到着時と同じ手法で硬直した思考を解きほぐそうと試みた。
「ゴジラを呼んで放射能を食べてもらいましょう。ゴジラは放射能が主食ですから完食してくれるはずです。後はビオランテを呼べば対決して去っていきます」このジョークは1989年公開の日本映画「ゴジラVSビオランテ」で両者が若狭湾で対決した話を題材にしているが、アメリカでは円谷プロの特撮技術を鑑賞する大人向けの映画でも日本では単なる怪獣映画なので真面目に勉強して防衛大学校に進学した幕僚たちには意味も理解できなかった。
「今、ジエー隊がやらなければならないのは放射線測定と住民避難です」「若狭原発群の周辺の自治体には測定機が設置されているが現在は応答する職員がおらず、連絡が取れない状況だから必要な対応だな。しかし、総務省との調整が・・・」マックハウアー中佐の提案に浜防衛大臣は同意したが、準・有事になっても手間を煩わされる閣内調整を想って渋い顔をした。石田政権では加倍政権のように総理の決定が上意下達される体制は確立していないのだ。
  1. 2022/07/14(木) 15:57:17|
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