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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ188

「北朝鮮は事実上の核攻撃を行った」中部方面隊の化学防護派遣隊とアメリカ海兵隊のCBIRFの調査報告を受けて石田首相は在東京の外国人記者を含むマスコミを招集して緊急記者会見を行った。イージス護衛艦・こんとうと経ヶ岬のガメラ・レーダー、車力のアメリカ軍のXバンド・レーダーが捕捉・追尾していた北朝鮮が発射した宇宙ロケット=弾道ミサイルの航跡と日本の情報収集衛星=偵察衛星の破壊された原子力発電所の画像の解析が完了し、空中分解した宇宙ロケットの部品の落下による偶発的な事故ではなく誘導された弾頭が命中し、強力な炸薬の破裂によって極めて堅牢な原子炉が破壊されたと判断したのだ。
「しかも韓国は北朝鮮の発表を肯定しただけでなく、それを利用して我が国に軍を派遣しようとした。共謀の疑いを抱かざるを得ない」石田首相は就任後に韓国で政権交代が行われ、マスコミが保守派と報じている新大統領との対話による関係修復に意欲を見せていたが、加倍元首相から新大統領が関係修復の条件としている「歴史認識の共有」が何を意味するのかを説明され、安全保障上の協力再開に留めている。今も表面上は冷静を演じていても最も恐れていた核攻撃が自分の政権下で発生したことに内心では鎮めようがない怒りを抱いているようだ。
「したがって我が国としては韓国軍が領土は言うまでもなく領空、領海に立ち入ることには断固たる排除を行うことを通告する」日頃の石田首相からは考えられない厳しい発言に記者席に困惑の囁きが広がった。特に韓国人の記者たちは怒りの表情を作ることも忘れていた。
「これらのことをご理解いただいた上で日本国民の皆さまに申し上げます」ここで石田首相は演台に置いた台本を1枚めくり、軽く天井を仰ぐと深く息を吸ってから口を開いた。日本人の記者たちは手に掲げているスマート・ホンを更に突き出した。
「政府は民政党政権、野畑政権下で改定された生活放射線数値の安全基準をそれ以前の国際標準の100ミリ・シーべルトに引き上げることを決定しました」この発言に外国人記者は特に反応しなかったが日本人の記者たちのスマート・ホンは一斉に着信のライトが点滅し始めた。編集部はこれが日本人にとって最大の関心事であり、追及すれば批判的世論を生起させられる急所と判断したようだ。ただし、福島第1原子力発電所の事故の時は日本のマスコミが全力で支えていた民政党政権だったので単純に国民の関心に応える目的だったが今回は攻撃材料だ。
「この新たな安全基準に基づく避難対象地域はこの一覧表の通りです。福井県南部と京都府北部の若狭湾沿岸、山を隔てて接する滋賀県北部になります。なお、一般市民が個人的に保有するガイガー・カウンターで測定した数値と異なっている場合があるかも知れませんが、政府としては3府県知事からの災害派遣要請で出動した陸上自衛隊化学防護隊が現地で測定した数値を判断基準としています」ここで石田首相は日本人の記者たちがスクリーンに表示した避難対象地域の一覧表にスマートホンを向けているのを壇上から見回した。
「避難者の受け入れ先については四国地方を中心に調整中ですが、対馬の島民を山口県が受け入れた成功例がありますから率直に期待しています。また、事態発生直後に多くの地域住民が自家用車で避難したため自治体も所在地が把握できておらず、健康診断などの案内連絡がつかない状況になっています。避難先で最寄りの自治体に申告をお願いします。以上です」「総理の説明は以上です。質問があればどうぞ」石田首相の説明が終わり、質疑応答に移ると早速、日本人の女性記者が手を挙げた。質問は予想できたがその通りだった。
「A日新聞の伊藤です。安全基準を引き上げると言うことですが、それは福島に比べて避難者が数倍増になるため、それを抑えることが目的ではないですか。国民の健康や安全よりも政府の都合を優先したのでしょう」「1989年4月1日の改定は当時、皆さんが福島原発からの放射線漏れによる健康被害を過剰に煽り立てて国民に不安を与えた結果、対策を求める世論が沸騰して窮地に追い込まれた民政党政権が数字を弄んで胡麻化しただけです。合理的根拠はありません」記者会見をスマート・ホンで傍聴している編集部もこの石田首相の強硬な回答は予想していなかったようで反論させる台詞のメールが途絶えた。
「それでも多くの国民は民政党政権が責任を持って改定した安全基準で不安を解消されて平穏な生活を取り戻してきたんです。新たな核の恐怖を目の当たりにしながら政府が国民の安全を守る責任を放棄するのには納得しないはずです」「国民を不安にしたのは貴方たちでしょう。貴方たちの論理で言えば広島や長崎で被爆した市民とその子供は全員が放射線障害で病気になっていなければならない。しかし、広島で生まれ育った私の周りの生存した被爆者の多くや残留放射能の中で育ってきた私も無事に人生を全うしています。今回は根拠のない不安の扇動は止めなさい」普段であれば首相による「言論封殺」としてマスコミ一斉の集中砲火を浴びて政治生命を失いかねない発言だが、今回は外国人記者まで沈黙した。
  1. 2022/07/17(日) 14:15:38|
  2. 夜の連続小説9
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