「アメリカは腹をくくったな」「いよいよ日米安保条約を発動しますか」小休止に入った安全保障理事会の記者席で松山1佐は同行させている近藤ジュウゾーに小声の日本語で呟いた。ジュウゾーはアメリカの国連大使が日本の3基の原子炉の破壊を北朝鮮の弾道ミサイルによる間接的核攻撃と断定し、中国やロシアの関与を臭わせると周囲の記者たちが同調し始めたことに混乱していたが松山1佐の見解には冷静に反応した。
「いや、アメリカが日米安保条約を発動するには日本が防衛出動を発令していることが前提だ。問題は武器の持ち込みによる内乱が自衛隊の治安出動を招いて不法在留中国人の一斉摘発を受ける結果になったから次にどのような手を打ってくるかだな」「アメリカが敵に回るとなると在日アメリカ軍も狙われますかね」ジュウゾーが間宮リンゾーとアメリカに来たのは中国の細菌兵器=新型コロナ・ウィルス感染症が蔓延してからだったので、株式を買収した大手マスコミとインターネットを使った世論操作で充満させていた親中の空気が抜け始め、ウクライナ侵攻で公然とロシアを支持したことで破綻したのを目の当たりにしてきた。今回、中国はそれを踏まえて在アメリカの中国系と半島系の移民による数万人規模の反日デモを全米の大都市で発生させ、ホワイトハウスに「日米安全保障条約を発動すれば暴動に発展する」と脅しをかけきたが、最近はそれも行き詰まりを見せている。
「アメリカ国内では中国系と半島系の移民の反日デモで公園や公共広場が占拠され続けていることに対する不満は爆発寸前だ。そもそも日系を除くアジア系移民はアフリカ系よりも地位が低いんだ。だから今回はヨーロッパ系だけでなくアフリカ系まで本気で怒ってるんだ。ここで在日米軍に手を出せば暴動を起こすどころか銃撃されかねないぞ」「下手すれば全米のチャイナ・タウンとコリア・タウンは破壊されますね」「それはないな」ジュウゾーのアメリカ人による中国系と半島系移民の制圧を期待しているような意見に松山1佐は苦笑して首を振った。日本のマスコミはアメリカ国内で発生する銃撃事件や暴動を過大に報道して読者・視聴者に治安が悪いような印象を流布しているが、アメリカはあくまでも法治国家であり、強大な警察力で厳格に合法的な市民生活を守っている。アメリカの警察は規制による犯罪防止を重視する日本の警察とは違い市民の自由を尊重するため、犯罪の発生件数ははるかに多いが迅速に犯罪者を処断し、暴徒を制圧する対応能力については両者の比較は難しい。何よりもアメリカ国民(移民は除く)は護身と民兵になるための銃器を保有しているのだ。
「アメリカで市街地が破壊されるほどの事態に陥ったのは独立戦争と南北戦争くらいだろう。どちらも内戦だ」「日本のニュースではアフリカ系男性がヨーロッパ系の警察官に殺された時にも暴動が起きたって言ってましたが」「あれはデモを口実に集まった不心得者が商店に乱入して略奪を始めるだけで、日本的には暴動と呼ぶかも知れないが国際標準では集団窃盗に分類されるな」「それじゃあ抑止力にならないじゃあないですか」松山1佐の詳細な解説にジュウゾーは反日デモの制圧だけでなく在日アメリカ軍への攻撃に対する抑止も期待できないと感じて不満そうに答えた。ジュウゾーは一般(部外)課程出身の1尉なので思考はまだ青い。
「アメリカ人の正義感は恐ろしいんだぞ。不正義を目の当たりにして抑えないのは同罪、カミへの背信行為と考えるから銃を持ち出して射殺することも珍しくない。今、アメリカの国連大使が北朝鮮の核攻撃を明言しながら中国の関与の疑いも表明したからアメリカ人にとっては不正義を犯していることになる。そこに公園や公共広場を長期間にわたり占拠されている不満が重なればデモ隊に発砲する過激な人間がいても不思議はない。1人が殺ってヒーローになれば後に続くのはアメリカの国民性だな」「在日アメリカ軍に攻撃を加えれば完全に敵ですね」ジュウゾーの理解に松山1佐は安心したようにうなずいた。海外に駐留するアメリカ軍は「キリスト教の正義を全世界に実現する」と言うアメリカの国是を担い、自己犠牲を払って赴任している英雄的存在であり、国内で勤務する軍人よりも尊敬を集めている。そんな在日アメリカ軍の施設に攻撃を加え、軍人や家族に危害を与えれば多くのアメリカ人にとっては絶対に許すことができない不正義の大罪だ。カミの名に於いて処断することになる。
「ここで一件お知らせします、我が国は現地で対応に当たっているCBIRFの提案を受けて放射能を封印するための特殊器具の開発を始めています。数日中には実用試験を実施する予定です」「そんな馬鹿な、アメリカのCBR専門部隊が現地に入ったのは数日前じゃあないか」小休止を終えて議場の席に戻ったアメリカの大使はロシアと中国の大使が戻ったのを確認して唐突な案内をした。当然、2人の大使は反論の前に疑った。
「確かに急ごしらえの器具なのでどの程度の効果を上げるかは不明ですが、ロシアと中国、それに韓国の関与はお断ります」この案内は結論を言うためのハッタリかも知れない。
- 2022/07/20(水) 15:02:02|
- 夜の連続小説9
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