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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ192

「何か情報を掴んでいるのか」「どう考えても有り得ないだろう」「しかし、アメリカ国連大使の安全保障理事会での公的発言だぞ」安全保障理事会の議論がアメリカの大使の想定外の発言で空転を始めると記者席ではヨーロッパの記者たちが顔見知りのアメリカの記者を取り囲んで質問攻めにし始めた。ヨーロッパのマスコミも数日前に現地入りしたCBIRFが予測以上に高濃度な放射線で接近することができなかったことは把握している。そのような状況で放射能の流出を封印する特殊用具の開発に必要な情報を提供できるはずがない。
「アメリカ軍は冷戦時代から核爆発直後に被爆地で行動するための研究開発に取り組んできたんだぞ」「しかし、ソ連や共産党中国と違って人体実験ができないからな」アメリカの記者の説明に核保有国で常任理事国でもあるフランスの記者が皮肉を返した。アメリカでは第2次世界大戦中のマンハッタン計画のネバダ砂漠での核実験のカラー映像がニュース映画として公開されるとその神々しいような光景が「カミに代わってアメリカだけが手に入れた新たな太陽」として評判になり戦後も繰り返された核実験を見物するツアーが人気を呼び、多くの見学者が放射線を浴びて健康被害が社会問題化した。アメリカは終戦直後に広島と長崎で被爆者の身体を調査しただけでなく現地で活動した将兵にも放射線傷害が多発していて原子爆弾が絶大な威力だけでなく放射能汚染の危険も孕んでいることを認識していたが最高度の軍事秘密を保全するため国民の安全確保は放棄した。一方、ソ連や中国は放射能から人間を防護する装備や方法を実証試験するため核実験と並行して至近距離での陸軍の演習を繰り返したがやはり十分な効果はなく多くの将兵が死亡したらしい。それでも実態は完全に隠蔽している(実験直後に技術力の誇示として写真を公開したが結果は公表しなかった)。
「どちらかと言えば新用具の開発ではなく現有の装備品の転用の可能性の実験だな」「つまり放射能を無毒化する薬剤を開発したと言うことですか」「それに成功すれば開発した企業の株価が跳ね上がるから黙っているはずがない」ジュウゾーの推理は単に小休止の前にロシアの大使が口にした提案の流用だが松山1佐の認識はアメリカ社会の構造にまで及んでいた。この口ぶりでは松山1佐は独自の人脈からCBIRFが出発する前からアメリカ軍が開発に着手している特殊用具の情報を入手しているのではないか。
「結局、中国もロシアと同じ誤算を犯したんだ」安全保障理事会が閉会して職場に戻りながら松山1佐はジュウゾーに雑談的な教育を始めた。勿論、今日も在アメリカの中国系と半島系の移民が反日集会を開いている国際連合本部に近い公園を通り過ぎて周囲で憎々しげに眺めているヨーロッパ人の市民たちの様子を確認してきた。
「ロシアと同じって・・・ウクライナですか」「ロシアはクリミア戦争に侵攻したのに呼応して東部地区のロシア系住民が分離独立を要求してデモを起こしたのを見て国民の支持を失っていると確信したんだな。デモをウクライナ政府が武力鎮圧しようとすると住民はロシアが供与した武器で抵抗したからソ連時代のようにロシアへの併合を望んでいると判断したんだが、それはロシア系住民だけの民族意識で一般のウクライナ人はむしろソ連を憎悪していたから想像以上の激烈な抵抗を受けた。おまけにアフガニスタンとイラクから撤退したアメリカは他国の武力紛争に介入することを国民が許さないと踏んでいたんだが実際は逆になった。だから短期戦の準備しかしないで始めた侵攻が長期化して経済と政治で大打撃を受けた」ロシアのウクライナ侵攻はジュウゾーもアメリカで見ていたので松山1佐の認識は共有している。
「中国も加倍首相が元海上自衛官に暗殺されたのを見て自民党政権は支持を失っていると判断したようだ。在中国の日本のマスコミは『警察官も警護を放棄して暗殺に協力した』と言い触らしていたから共産党の指導者が耳にすれば『攻めるなら今』と思っても不思議はないな」ジュウゾーは中国国内の情報は聞いていない。最近は国務省のイラン担当者に接触する岡倉に同行して外出することが多いので事務所で日常的に行われている報告から始まる雑談的議論を聞き逃しているのかも知れない。
「それじゃあ中国は日本を簡単に占領できると思っていたんですかね」「少なくとも日米安保条約を封じれば自衛隊には単独で抵抗する能力や士気はないと考えていたんだろう。人数だけで比較すれば中国軍と自衛隊では単位が違うからな」確かに中国人民解放軍の140万人(公表していた2007年当時、現在は98万人としているが全部ではないことを認めている)に対して陸上自衛隊は15万人と10倍近い。戦闘機・攻撃機の機数も1800機以上(爆撃機も含む)に300機と比較にならない。何よりも日本のマスコミは蔑視する自衛隊を過小評価して国内外で広めているので軍事侵攻を企図している国家が赤子の手をひねるつもりになっても不思議はない。手を出してから痛い目に遭ったのも両国に共通している。
  1. 2022/07/21(木) 15:11:56|
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