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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ193

「ボンズ(坊さん)、日本人は放射能を恐れていないようですが何か特別な防護方法があるんですか」若狭湾の原子力発電所3基が北朝鮮の弾道ミサイルによって破壊されたニュースはヨーロッパでも大きく取り上げられている。梢と夜の散歩に出ると立ち話になる巡回の警察官たちもテレビのニュースや新聞の記事の内容を確認してくる。ただし、沖縄には原子力発電所がないので梢はこの話題に参加できない。
「そんなことはないよ。福島の時も放射線が及ぶ範囲は自治体単位で移住したぞ」「それでも政府の指示が出るまで住民は黙って待っていたはずです。チェルノブイリの原発事故の時にはウクライナからの距離も考えずに放射能が風に乗って飛散してくる。放射能を浴びれば異常な遺伝子になる。白血病になって死ぬと大騒ぎしてドイツからフランス、フランスからスペインへ避難する人間が続出したんです。その点、日本人は常に冷静です」確かに福島県内の住民たちは無能極まりない民政党政権の場当たり的な対応を黙って待っていた。首都圏でもマスコミの扇動に乗った一部の市民団体を除けば不安そうな顔で話のネタにしていてもやはり他人事のように過ごしていた。あの時もアメリカを含む海外の政府は在日の自国民に放射線沃素剤の服用と行動制限、早めの国外退避を勧告していたが、ウクライナのチェルノブイリと比較すれば福島第1原子力発電所は至近距離になるのでそれも常識的な対応だったようだ。
「今回も政府が避難者の受け入れ先を決めるまで一時避難所で待っている。福井って言う場所は福島から近いのですか」「位置は全く違うな。福島は東京の北の太平洋側、福井は京都の北の日本海側だ」ヨーロッパ人に日本の場所を説明するには知名度が高い東京か京都を基点にしなければならない。今は旅行研究家の梢によれば最近は大阪も知名度が上がってきているらしいが、位置関係を理解するレベルではないようだ。考えてみれば私は沖縄に赴任した時、出身地を訊かれて「愛知県」と答えても誰も判らず、地図を書くと「名古屋に近い所だね」と納得された。それからはアメリカ兵相手に日本の地名の知名度を研究するようになったが、空軍なら三沢や横田、海兵航空隊なら岩国や厚木、地上部隊でもキャンプ富士などの本土の部隊を経験していると非常に詳しくなっていて在日アメリカ軍基地が所在する自治体は将兵や家族との友好関係を促進することが国際的知名度の向上に極めて有益であること実感した。それと真逆なのは山口県の防府市で最盛期には年間1000人を超える隊員を集めて3ヶ月程度の教育課程を実施していたが大半の隊員は教育隊だけでなく防府市に対しても嫌悪感を超える敵意を抱いて修了していた。その原因は山口県が誇示する「明治維新」が勝者の薩長土肥以外の土地の人間には郷土史上の凶事であって見る物聞く物全てでこの4文字を押しつけられれば「許せん」と憤懣を腹に溜め込むのは至極当然なのだ。
「福井県民は北陸人と言って気質が福島県民の東北人に近いところがあるから忍耐力が強いんだよ」「もう一度、言って下さい。両者の違いが判りません」私の英語の説明にベテランの警察官は困惑した顔で訊いてきた。私はオランダ人に理解できるように「ホクリク」「トーホク」と日本語ではなく「ノーザン・ピープル(北方の人)」「ウェスト・ノース・エリア・ピーピル(東北地域の人)」と意訳したのだが地図が頭に入っていない外国人は混乱しただけだった。それにしても日本の地名の多くは奈良・京都に権力が集中していた時代に成立したため琵琶湖がある滋賀県は近江、浜名湖の静岡県は遠江になり、琵琶湖から先は北陸、律令国名も近い方から越前(福井県)、越中(富山県)、越後(新潟県)で、越後の中では手前の方が上越だ。西日本でも九州が西国なのでその手前の山陰山陽地方は中国になった。したがって外国人相手の説明では意訳するよりは手書きでも地図を使った方が早くて確実だ。
「日本はウラニウム爆弾にプルトニウム爆弾が市街地で爆発した究極の核被害を2回も経験しているから放射能漏れくらい大丈夫と高を括っているのかも知れないな。ヨーロッパでは白と黒の両極端でしか判断しないから核爆発が起きれば全員が被曝者、放射線障害で健康を失って白血病になると極めつけている。同じ被爆者でも即死した人から今も普通の生活を送っている高齢者まで千差万別なことを理解できないんだ」「環境問題と一緒ね。ヨーロッパの人たちは現実を見極める前に評価を下して、その評価を証明するための証拠を集めるだけ。事実は何も分かっていない」ここで梢が厳しい顔で話に加わってきた。今回の訪日では私が首都圏と九州で調査していた1週間余り、梢は単独で沖縄に帰っていたが高齢化が進んだ両親とあかりといりえの4世代の家族で過ごして私の退官後に沖縄へ帰る決意を固めたようだ。
「核爆発と放射能についてはヨーロッパの反核市民運動が喧伝していることを鵜呑みにしないで客観的な研究資料を勉強することだね」「はい、ボンズの話を聞いて考えさせられました。警察官として勉強します」今夜はここまでにして敬礼と合掌を交わして別れた。
  1. 2022/07/22(金) 15:21:35|
  2. 夜の連続小説9
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