「本当に沖縄は大丈夫なのかしら」「うん・・・」最近、梢は寝る前に酒を飲んでいるとオランダのテレビ局も取り上げるようになった日本の若狭湾の原子炉の破壊と放射能漏れのニュースと解説を見ながら不安そうな顔で訊くようになった。言葉だけでの会話では原子力発電所がない沖縄を心配する意味が理解できないが、私と梢は赤く太いケーブルで精神が結ばれているので即答するのをためらうほど深刻に受け止めた。
「昔、貴方が教えてくれたとおり、在日アメリカ軍に手を出せばアメリカとの戦争になるから中国も迂闊に手を出せない。だから沖縄が日本で一番安全だって言うのは納得できるの。それから在沖縄アメリカ軍は日本じゃなくて台湾を防衛するために存在する。だから空軍と海兵隊が主力なんだって言うのも理解できるわ」「沖縄では絶対に口にできない理論だろうけどな」この安全保障理論は私が高校時代に地政学の入門書「悪の論理」「新・悪の論理」を読んで戦略と言う視点で世界情勢を見るようになり、大学時代に学生運動の活動家の友人に読まさせられた機関紙でソ連と中国の世界共産化戦略を学んだ中で導き出したものだ。私としては一般空曹候補学生に入隊すればプロにこの理論の正否を確認できると期待していたのだが、空曹には不必要な思索だったようで区隊長たちも明確に回答しなかった。それどころか自衛隊では戦略を考えるのは将官の仕事と役割分担しているらしく幹部候補生学校、富士学校でも披瀝する機会はなく、パジャマ・ミーテイングで私との戦略談義に励んでいた佳織は将軍閣下になった。一方、梢は私とつき合っていて沖縄のマスコミの反アメリカ報道を見ながら解説を受けたのだが、それを自分なりに熟成させてきたらしい。
「今回の北朝鮮の弾道ミサイルの発射が中国の指示によるものだとするとかなり焦っているのは間違いないわ。中国共産党指導部は異例の3期目の実績を挙げなければならないから日本が駄目ならやっぱり台湾、そうなるとアメリカ軍が駐留している本島には手を出さなくても八重山や宮古島を占領してから台湾に侵攻しないかしら」「鋭い」梢の素人としては高度な見解に私はモリヤ佳織将補閣下と比較して感嘆の賛辞を贈ってしまった。
「中国の狙いは一貫して台湾で、3期目の実績作りに何としても占領・併合しなければならなかったんだ。ところが民主党のバイデン政権がロシアのウクライナ侵攻を切っ掛けに台湾の防衛責任を明言するようになったから日本の部分占領に戦略転換したんだな。中国とすれば宣伝媒体に過ぎないマスコミを使った世論操作で簡単に民政党に政権交代させた日本人なら軍事占領しても宿敵のアメリカに占領されると飼い犬になって尻尾を振ったように手懐けられると見ていたんだろう」「おまけに数少ない強敵だった加倍首相が元自衛官に暗殺されたから日本は崩壊寸前と見切ったんだね」梢が補足した危ない意見は、私が出勤している間にインターネットで閲覧している世界各国の報道サイトで読んだ極論だ。そのサイトでは以前、天皇の姪の皇女が駆け落ち同然にニューヨークに逃避行したことも「日本の崩壊の予兆」と書いてあったそうなのでかなり悪意を持った組織が運営しているようだ。
「ワシとしては宮古島や八重山でも日本の領土が侵略されれば日米安全保障条約の発動要件になるから可能性は低いと見ているよ。ましてや在沖縄アメリカ軍の台湾派遣の妨害が目的なら断固阻止するはずだ。むしろ本土で失敗した武器の持ち込みによる内乱の方が危険性は高いぞ。今の沖縄には本土で定年退職した日教組や自治労の活動家どもが退職金で家を買って移住しているから在日中国人じゃあなくても武器を渡せば自発的に反乱を起こすはずだ。ワシたち世代以下の沖縄本島の人間は小中学高校で反米反日親中の洗脳教育を受けている上、マスコミも真っ赤で洗脳の濃度は濃くなる一方だから強力な支援者になる。おまけに県知事以下が自衛隊の治安出動に反対とくれば鎮圧は不可能。アメリカ軍基地を攻撃しないで街中のアメリカ兵を射殺すれば私的な刑法犯罪の被害者扱いで国際問題にはならない。これがワシが考えている最悪な事態だ」前回の訪日で私は若い頃に抱いていた沖縄県警に対する不信感は払拭できたが、同時に治安維持に関わる問題点も数多く見聞してきた。特に梢と名城慶文元警視の3人で飲んだ時、「中国は沖縄の本土復帰の時点から配下の労働組合を使って工作員を送り込み、反米反日親中の社会制度を構築してきた」と断定したのを聞いて納得する一方で中国の恐ろしさに背筋が冷たくなった。中国共産党は日本が敗戦すると上海に開設された日本人居留者の収容施設に党員を送り込み、毛沢東主義を教育した。そのため戦前に大アジア主義者として渡中した知識階層が帰国後は共産革命を主導するようになり、大学で洗脳教育を施したエリートたちが大手企業や教職員、官公庁と地方自治体の労働組合を革命軍化した。沖縄の本土復帰では現場の管理職が持て余していた労働組合員だけが赴任を熱望したため本土式業務の指導者が毛沢東主義を伝授し、沖縄を紅一色に染め上げていったのだ。
- 2022/07/23(土) 15:03:46|
- 夜の連続小説9
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0