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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ201

「やはり現用のヘイプウェイですかね」「だろうな」アメリカ軍では極めて異例な試行錯誤による破壊された原子炉を封鎖するコンクリート投下弾の開発が進んでいた。現代のアメリカでは軍に限らず巨大組織では日本で言う思想統一や周知徹底に相当する計画の立案が重要視されるためこのように場当たり的な研究開発は組織として未経験だった。したがって担当の専門家たちの議論も困惑が先に立ってしまう。
「時代の趨勢としてはGPS誘導かカメラ誘導になるが、命中精度の優劣ではレーザー誘導がトップなんだ」ヘイプウェイはベトナム戦争末期に採用されたレーザー誘導式爆弾だ。ミサイルはロケット推進するため炸薬の重量が制限されて対地攻撃用兵器としては破壊力が不十分なのに対して目標に向けて誘導できるヘイプウェイは「スマート爆弾(賢い爆弾)」と呼ばれて一躍注目を浴びた。しかし、ミサイルの大型化が進むと上空でレーザー・ビームを照射し続けばならないレーザー誘導方式の爆弾の開発は下火になり、投下した後は弾頭のカメラ映像で遠隔操作するカメラ誘導方式が取って替わった。さらに現在は衛星の位置情報を利用するGPS誘導方式が登場しているが、命中精度ではレーザー誘導方式が数メートルの誤差なのに対してGPS誘導方式は10数メートル、カメラ誘導方式は映像を見て操作している間に爆弾が落下しているため30数メートル以内の命中精度にすることは難しい。
「確かに破壊するなら10メートル程度の誤差は威力でカバーできるが、今回は封鎖ですから命中させなければ失敗だ」「1発で2000ポンド(約907キログラム)のコンクリートを注ぎ込むとすると何発で封鎖できるですか」現在、ヘイプウェイの製造メーカーでは炸薬を抜き、鉛剤を混合して水で練った速乾性のコンクリートを注入した封鎖用投下弾を試作しているが、中身が替わった後の重量の報告は受けていないのでこの技術者の見解は情報の継ぎ接ぎだ。製造メーカーとしては着弾した後に中身のコンクリートを原子炉内に注入する方法に苦慮していてまだ試作品は完成していない。第2次世界大戦中、アメリカ海軍は猫の水を嫌う性質を利用して爆弾の先端に入れて動きが尾翼に連動する爆弾を真面目に研究したことがあり、ベトナム戦争でも鳩が建物の屋根にとまるのに目をつけて「ピジョン・プロジェクト(鳩計画)」に着手している。あの時代であれば柔軟な発想で画期的な投下弾を開発したかも知れないが、今は株主を納得させることが企業の経営目的になっているので無駄になる可能性が高い研究開発が入る余地がない。これが第2次世界大戦中の日本であれば落下の衝撃で割れて中身が流れ落ちる陶器製の爆弾を開発したのかも知れない。
「ところで原子炉には上部の建造物が残っていたんじゃあないですか」「そうだったな。北朝鮮の弾道ミサイルは屋上を突き抜けて地下に達して爆発したんだった。地下室で核爆発は起きていないから上部建造物は残っているはずだ」計画的業務は役割分担を指定した上で筋道を立てた運営を進めるのでこのような基本的な抜けが発生する危険性は低い。現場のCBIRFは残っている上部建造物が作戦の妨げになることは認識しているかも知れないが調整機能が確立されていないので情報は届いていない。
「事前に破壊しておかないと拙いですよ」「在日アメリカ軍に連絡しておこう。通常の鉄筋コンクリート製の建物ならFー16の空対地ミサイルで十分だろう。下手に爆弾を使うと原子炉まで破壊しかねないからな」若手の設計担当者が唐突に気がついた問題点はペンタゴン=国防総省を通じてハワイの太平洋軍、横田基地の在日アメリカ軍司令部へ伝達された。
「Fー16・Fー2ブラザーズの登場かァ・・・」「タイミングが悪いな」横田基地では在日アメリカ軍司令部を兼ねている第5空軍司令部と航空総隊司令部では小松基地で待機しているCBIRFが1986年のチェルノブイリ発電所の原子炉爆発事故でソ連が実施した鉛入りコンクリートによる埋設を応用する対処方法を提案した時から上部構造物の破壊の必要性は議論になってきたが妙な難題を抱えていた。
「石田総理は納得してくれたのかな」「Bー52やBー2は核攻撃を連想させるから使用させるなって話だろう」CBIRFの提案を受けてアメリカ軍が策定した戦略爆撃機によるコンクリート投下弾による封鎖作戦を浜防衛大臣が石田首相に説明すると作戦そのものではなく使用する機種に異常な拒絶を示したのだ。
「広島の小中学高校でBー52は核爆弾を投下するための戦略爆撃機だって習ったらしい」「あの頃の子供雑誌には北爆で爆弾の雨を降らしている写真が載っていたから『あの爆弾が原子爆弾になったら』って石田少年は怯えたんだろうな」「そこにFー16・Fー2の登場となればこっちでやれってことになる」航空総隊とすれば今回の災害派遣で自衛隊が活躍する場面ができて安堵しているがヒロシマ出身者の核アレルギーには困り果ててしまった。
  1. 2022/07/30(土) 15:00:17|
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