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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ202

「上部構造物の破壊なら特科の榴弾砲で十分だ。中部方面隊に出番を譲れ」「陸の面子を立てろって言うんだな。お恥ずかしい」横田基地では日米空軍が原子炉封鎖作戦の具体化を検討している。そこに今回の封鎖作戦を統括している統合幕僚監部から銃剣道では禁じ手の側面刺突=横槍が入った。そのメール画像に映っていたのは統合幕僚監部でも航空自衛隊の幕僚だったが流石に気まずそうな顔をしていて陸の上司に強制されたことが一目瞭然だった。それを受けた航空総隊司令部の幕僚はそれ以上に気まずそうな顔でアメリカ空軍の面々に頭を下げた。するとアメリカ空軍の幕僚たちは顔を見合せて肩をすくめた。
「確かに上部構造物を破壊するだけなら空対地ミサイルや爆弾よりも砲撃の方が効果的だ。ミサイルや爆弾では外れた時には再発射、再投下が必要になるが、複数の攻撃機を上空待機させるのは無駄がある。その点、砲撃なら連射はお手の物だ」「命中精度もグランド・ジエー隊(陸上自衛隊)の特科は神業と言われているから百発百中だろう」アメリカ軍は第5空軍司令官が在日アメリカ軍司令官を兼ねて陸海空軍海兵隊の指揮権を付与されているように地域で統合運用しているので他の軍の知識を共有しており、日本的な縄張り意識は薄い。
「グランド・ジエー隊もFH70を使用しているから有効射程(命中精度を確保できる射程距離)は24キロある。対放射線防護を万全にすれば砲撃は可能だ」この口ぶりでは在アメリカ空軍の軍人たちはかなり本格的に陸上自衛隊も学習しているらしい。ただし、富士教導連隊が火力展示演習で披露する神業を陸上自衛隊全体の技量水準だと思うのは大間違いだ。1992年の秋に西部方面隊が春に着任した方面総監の命令による火力展示演習を日出生台演習場で開催したことがあるが、半年間猛訓練したにも関わらず特科や戦車の砲弾とAHー1攻撃ヘリの機銃射撃は標的から大きく外れ、普通科の突撃は全く揃わず、偵察隊はバイクで転倒した隊員が負傷して衛生隊が救護する場面まで展示する羽目になった。
「しかし、若狭湾の地形では特科の大砲が射程距離まで接近にするのに放射能汚染地域を通らなければならないだろう」「そうなると観測点の確保も難しいな」航空自衛隊の幕僚の見解にアメリカ空軍の幕僚は専門知識で同調した。観測点とは発射線から目標の間に設けて着弾位置を確認・修正する要員で、日露戦争の旅順攻略戦で日本陸軍が203高地を奪取したのは28サンチ榴弾砲=要塞砲で旅順港内のロシア艦を砲撃するための観測点の確保が目的だった。今回は射撃線よりも前方のより放射能汚染が濃厚な地域に隊員を配置することになる。
「やはり陸の面子だな」「陸でも特科を知らない人間の思いつきだろう」航空自衛隊の幕僚2人の日本語の指摘に日本人は即座にうなずいたが、アメリカ人たちは冷ややかな目で見回してから苦笑した。航空自衛隊はアメリカ軍によって創設されたと言われているが、実際は単なる操縦馬鹿で部隊を指揮・運用する能力が欠落していて真珠湾やミッドウェイなどの航空作戦を失敗させたにも関わらず自己顕示欲は異常に強く、自己演出だけは長けていた源田実が入隊したため海軍出身者の多くは嫌って海上自衛隊航空隊に流れ、実質的に陸軍航空士官学校出身者が組織の主流になった。さらに警察予備隊、保安隊、陸上自衛隊が陸軍の戦争責任を断罪する世論の中で創設・改編されたため殊更に陸軍色を排除せざるを得なかった反動で航空自衛隊を濃厚に陸軍色に染め上げたので組織内には戦前の陸軍に蔓延った派閥意識が意外に強い。その後、陸上自衛隊も公職追放を解除された陸軍出身者が集まって亡霊を招くように陸軍色に塗装し直したので、どちらも陸軍臭が鼻を衝くことがある。
「ならば海から艦砲射撃した方が照準は容易だろう。射程距離も大差ないはずだ」「それはそうだな。市ヶ谷に観測点の疑問を指摘するついでに提案してやれ」思いがけず航空総隊司令部は統合幕僚監部に専門外の観測点への疑問と海上自衛隊による艦砲射撃の提案を連絡することになった。すると対応した先ほどの幕僚も何故か快哉の笑みを受かべて聞いていた。
「アメリカ軍はBー52かBー2で投下する方針を変えるつもりはないのか」「Fー16・Fー2ブラザーズでは2000ポンド爆弾は2発しか搭載できない。炉心を封鎖するのに原発1基あたり何発の命中が必要なのかは明らかではないが、仮に10発とすれば最低でも5機が必要になる。その点、戦略爆撃機ブラザーズなら1機でも数10発は搭載可能だ」航空自衛隊の質問にアメリカ空軍は妙に論理的に説明した。航空自衛隊としてはFー16とFー2による協同作戦でもグアムから飛来するBー52やBー2の護衛でも出番があることに変わりはないが、内局から航空幕僚監部を通じて石田首相の意向の反映を指示されているのだ。
「いっそのこと広島市上空を飛行ルートにしてやりたいけどな」「ブルー・インパルスなら歓迎されるかも知れないが、Bー52では平和目的でも許されないだろう」今回の作戦は災害派遣の一環なのだが、マスコミの印象操作に掛かれば何ともならない。
  1. 2022/07/31(日) 14:42:53|
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