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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ202

「島村(岡倉の偽名)、ホワイトハウスは重大な決定を下すかも知れないぞ」岡倉はアメリカ軍が急ピッチで開発を進めている破壊された原子炉を鉛を混合したコンクリートで埋める投下弾の情報を収集するため空軍の東海岸の戦略爆撃機部隊の知り合いの中佐に接触している。岡倉もアメリカ生活が20年を超えると基本的に国防総省と陸海空軍の参謀本部に限定される防衛駐在官とは比べ物にならない人脈を構築し、親しさから雑談的に情報を受け取ることができる。今回も中佐から爆弾の製造メーカーの技術者たちが試行錯誤=悪戦苦闘している様子を聞いて同情していると唐突に水滴のような漏洩よりも明解に情報を開示してきた。
「重大な決定と言うと在日アメリカ軍の参戦か」岡倉は職場で国際連合本部での議事を傍聴している松山1佐からアメリカが今回の若狭湾の原発の破壊を北朝鮮の弾道ミサイルによる核攻撃と断定した上で精密な誘導を可能にしたのは中国やロシアの技術供与があったと示唆したことは聞いている。これまでホワイトハウスはアメリカ国内で続いている大規模な反日デモが暴動に発展することを恐れて韓国軍と中国軍による一連の武力行使に対する態度を曖昧にして日米安全保障条約の発動にも慎重だったが、あらためて「決断を下す」となると現在は太平洋上の海軍限定になっている日米協同作戦が在日アメリカ軍全体に拡大されることが期待される。それは防衛出動の下令を前提とする日米安全保障条約の発動ではない。
「それは近いが当たってないぞ。ゴルフで言えばピンに弾かれて入らなかったホールインワンのようなものだ」「ニアピン賞はもらえそうだな」岡倉も上級士官との人脈を作るため杉本と一緒にゴルフを嗜むようになったが経費は情報を入手した時しか公務扱いにならず決定権者の松山1佐も誘い込むことを画策している。それにしてもゴルフを始めてみて雑談しながらできるスポーツなのを実感し、上流階層が愛好する理由が初めて理解できた。
「ホワイトハウスとすればヒラリーの尻拭い、我が空軍としては1992年7月14日に実施予定だった作戦の拡大再実施ってところだな」「1992年か、それはまた古い20世紀の話だな・・・」中佐のヒントに岡倉は困惑してしまった。1992年と言えば岡倉は2等陸尉で地対空ミサイル・ホークの高射特科幹部から調査幹部に職種転換を命じられて調査学校に入校した頃だ。その時期にアメリカ軍が軍事介入した事例を思い返してみたが、当時はモンロー主義の再現を外交理念にしていたクリントン政権だったので南アメリカ大陸内の紛争に地上部隊を派遣していても空軍が本格的に介入した作戦は思い当たらない。
「お前の国のために我が空軍が一肌脱ごうとした作戦だぞ」腕組みして考え込んでしまった岡倉に中佐は少し語気を強めて思い出すことを催促した。これはヒントの追加のつもりかも知れないが余計に混乱するだけだ。
「チーン」その時、岡倉の頭の中でアニメ「一休さん」のように鐘が鳴った。そう言えば思案中も木魚が鳴っていたような気がする。同期のモリヤは幹部候補生学校で思案しなければならない場面になると椅子に座って背筋を伸ばし、臍の前で法界定印を結んでいたのでWACたちは「一休さんが始まった」と嘲笑していたが、モリヤに惚れていた伊藤佳織候補生は帰国子女なのでアニメを見たことがなく真顔で見詰めていた。あの時のモリヤの頭の中でも木魚が鳴っていたのだろうか。鐘は澄んだ「チーン」ではなく重い「ゴーン」の方が似合う。
「判った。北朝鮮の核開発だな」「そうだ。あの時は北朝鮮の核開発を阻止するために核施設を空襲して破壊する作戦を在日アメリカ軍が提案したんだ。ところが中国は単独訪中の時にハニー・トラップで籠絡していたヒラリーに反対させた。するとクリントンは女子大生の実習生に手を出したことが発覚した直後だったから国家的決定を簡単に引っ込めてジミー・カーターを派遣したんだ」正解を解説しながら中佐は忌々しげに舌打ちした。
「クリントン政権は民主党だから北朝鮮が核開発問題を起こす度に議会で共和党に責任を追及される」「大統領はオバマ政権の副大統領として放置した責任も加わってこの問題には悩まされ続けていると言う訳だ」岡倉としては北朝鮮の国王との首脳会談を繰り返しながら韓国の前政権に阿って(おもねって)何もしなかったバイデン政権の責任の方が重いと思ったが、この中佐は共和党支持者なのかそれには触れなかった。
「そこに今回の核攻撃だ。コンクリート投下弾の他に1機に通常爆弾を搭載して日本海で空中待機するように見せかけて攻撃すれば一挙解決」「臭(くさ)いに臭(にお)いは元から断たなきゃ駄目」岡倉は合いの手で古い日本のCMソングを口ずさんでしまったが、日本語だったので通じなかった。確かに今回の弾道ミサイルによる原子炉破壊を新たな核攻撃と国際社会に認定させればアメリカは再発防止を目的とする先制的自衛権の行使だけでなく核兵器を使用しない懲罰・制裁としても受け入れられる可能性が高い。
  1. 2022/08/01(月) 14:04:21|
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