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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ207

「急だがまた山に行くことになった」「猿が悪戯したの。それとも猪が壊しちゃったんでしょう」帰宅した安川2尉は妻の聡美に今日命ぜられた第10師団に派遣される任務を説明した。夕食の支度をしている聡美は高圧電線の点検整備を終えて帰宅した安川2尉が「あそこに侵入するのは猿か猪くらいしかいない」と言っていることを持ち出した。すると食卓でテレビを見ている穂高が隣りの梓に「これがお猿だよ。キャッキャッキャッ」と猿の真似をした。
防衛出動待機命令が発令されて間もない頃は全員が駐屯地待機になり、入浴時以外は半長靴を脱ぐことも許されなかった。ところが平時でも交代勤務している海上自衛隊と航空自衛隊が通常シフトを強化する長期戦の態勢に移行したことを受けて陸上幕僚長が同様の態勢への移行を指示したため各部隊で試行錯誤が始まった。その後に発令された治安出動の警察業務が少ない第13普通科連隊では小銃中隊は中隊単位で、その他の中隊は小隊単位で初動対処要員を確保し、それ以外の幹部と営舎外居住の陸曹は自宅から通勤させることになった。ただし、非常呼集に備えて全面的に禁酒だ。その点、営舎内居住の隊員たちは外出止めの替わりに駐屯地内の隊員クラブが利用できるので「妻と夜の営み」と「飲酒」で互いに羨ましがっている。
「今回は中部電力の高圧電線だから鈴鹿山脈に登るんだ」「御在所岳にも登るのね・・・でも気をつけてよ」迷彩服を脱いでスウェット上下を着てリビングに戻り、食卓の席に座ると台所でオカズの盛りつけている聡美との会話が再開した。自衛官の妻としては夫の任務の現場でも聡美にとっての鈴鹿山脈は高校1年生の夏休みに3年生の安川先輩と親に隠して出かけた1泊2日旅行の思い出の地だ。あの頃の両親はダブル不倫に溺れ切っていて優等生の弟には関心を向けても聡美は問題さえ起こさなければ完全に放置していた。だから「同級生3人と旅行する」と申告すればそれが男女4人の混合であっても気がつくことはなかった。
「問題なのは鈴鹿山脈が三重県と滋賀県の県境で若狭湾から近いことだ。風向きと強さによっては放射線が飛散してくる可能性がある」普通の自衛官の家庭では夫は妻に余計な不安を与えないため危険な任務は胡麻化さないまでも触れないものだ。しかし、聡美は多感な中学生の時に両親の不倫を知って自暴自棄になり、男子生徒の性玩具にされていた過去を知った上で交際を始め、自分を冒瀆した同級生と喧嘩して怪我をさせたことで志望していた進路を断念することになった安川2尉の全てを知る覚悟を持っている。だから安川2尉も秘匿義務を課せられる防衛秘密以外は包み隠さず話すことにしている。
「ウチの母は教員を定年退職した後、環境団体と人権団体で活動してるじゃない」「動物愛護団体にも入ってなかったか」「うん、それもあった」安川2尉の指摘に料理を運んできた聡美は両手に皿を持ったまま肩をすくめた。聡美の母親は愛知県の公立中学校の英語の教師だったが、教職員組合の闘志として市長や教育長への団体交渉では代表を務めていた。その一方で大学時代には山岳部の同級生と同棲生活を送り、地元の中学校では同僚の体育教師と不倫関係になり、勤務する高校の教え子に手をつけていた父親と裏切りを競い合っていた。それが定点退職後に環境保護団体に参加すると持ち前の英語力でヨーロッパの環境団体の広報雑誌を翻訳して会員に周知したことで頭角を現し、今では市の団体の代表になっている。さらに環境団体での活躍を知った人権団体にも勧誘され、こちらでは教職員組合での活動の延長だったこともあって直ぐに代表の座に就いて日本的道徳を否定する政治活動に邁進している。元々、ヨーロッパの市民団体は保守層が信奉するキリスト教的倫理を破壊することが活動目的であり、旧約聖書の創世記で人間が自然界を支配することを認めている記述を環境破壊と動物虐待、男女の性別と役割分担を男女同権から性別の否定にまで暴走している。
「今、母は北風が吹くとガイガー・カウンターを持って放射線量の測定に励んでいるの。それで少しでも高い数値が出ると市役所に電話をして原因の解明を要求しているわ。おまけに名古屋市内のマスコミにも電話をかけてニュースで取り上げないと団体で抗議に押しかけるから名古屋では有名人なの」「そのうち市長選挙に出るんじゃあないか」「父は失敗したけどね」同じく教職員組合の活動家だった聡美の父親は定年退官後、周囲におだてられて市議会議員に立候補しようとしたが、まだ現役だった母親や公立高校の教師の弟に「公務員は選挙活動に参加できない」と釘を刺されて断念したことがある。その時、父親は「自衛官の妻なら大丈夫だろう」と聡美に電話をかけてきたが、法律上は問題なくても出馬する某政党が問題外だった。
「母が大騒ぎしている測定値を聞くことがあるけど全然問題がない軽微な増減なの。貴方は防護衣を持っていくんでしょう。だから大丈夫よ」「その防護衣で動きが取れなくて転落した奴がいるらしいんだ」これは連隊3科で防衛秘密の秘匿電話を借りて第10師団司令部に確認した事故の概要だ。やはり精鋭レンジャーたちも事故直後には過剰反応したようだ。
に・安川聡美(金子恵)イメージ画像
  1. 2022/08/05(金) 14:36:58|
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