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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ209

「13普連、安川和也2尉以下4名、只今、到着しました」深夜、守山駐屯地に到着した安川2尉は第10師団指揮所に顔を出した。すると非常呼集が発令されたのか師団長以下が出勤していて厳しい顔でモニターに投影されている深夜のニュース番組を見ていた。やはり鈴鹿山脈の高圧電線で発生した破壊工作と不審者の射殺への対応を協議しているようだ。
「君たちに活躍してもらう前に事件になってしまった。それでも警備は強化しなければならないから当分はよろしく頼む」指揮所では1佐の第3部長に申告した。指揮官が2尉であれば順当なところだが、人事担当の第1部長ではなく平時は演習・訓練、戦時には作戦・運用を担当する第3部長だったことが現在の事態を再認識させた。
「今から午前中は仮眠してもらう。明日の午後に担当業務の説明をして終わり次第、四日市市内の宿営地に移動、作業は明後日からだ。宿営地では33普連の緊急事態待機要員と一緒になるが、今夜も戦力不足は否めなかったから必要によって同行を依頼することになるだろう」申告後は第3部の運用担当幕僚と思われる3佐の説明を受けたが、松本から電話で確認した相手らしく声と口調に聴き覚えがあった。松本では緊急時の対応はあくまでも「可能性」の話だったが今では「次回は」になっている。戦時下の事態の推移は本当に目まぐるしい。
「結局、射殺されたのは何者だったんですか」「遺骸は収容したが警察の検屍が終わっただけで身元特定には至っていない。おそらく・・・韓国の市民団体が言っていることは知っているだろう」「日本はヒロシマとナガサキで強制労働させていた朝鮮人を被爆させたから放射能に苦しむのは天罰だって言う奴ですね」安川2尉の返事に3佐は忌々しげにうなずいた。アメリカが国際連合安全保障理事会で北朝鮮が発射実験と称して射ち上げた宇宙ロケットによって若狭湾の原子力発電所が破壊された事件を「弾道ミサイルによる新たな核攻撃」と断定して以来、韓国の市民団体は以前から要求していた戦時中の徴用工の賠償補償問題にからめてヒロシマとナガサキで被爆した半島人に対する日本政府の公式謝罪と日本人被爆者と同等の医療費、生活保証、巨額の見舞金の一括請求を主張し始めた。日本国内でも関西在住の南北半島人組織が関西電力の電力供給量の不足による業務上の損失を賠償請求する裁判を準備していて、その請求額を割り増しするために中部電力、中国電力からの電力量補完を阻止する動きがあることは第13普通科連隊の幹部限定回覧の資料だけでなく山岳レンジャーの保線業務で親しくなった東京電力の担当者からも聞いている。
「我が10師団の部隊は名古屋の35普連を筆頭に金沢の14普連、豊川の10特(第10特科連隊)は都市部にあるから治安出動の警察業務で手一杯なんだ。この手の陸上自衛隊的任務は久居の33普連に任せるしかないのが実情で、君たちにも松本からお出まし願った次第だ」3佐の口ぶりでは松本市が金沢市や豊川市よりも田舎で2015年に津市と合併した久居市並みの地方都市のようだが、松本市も人口は24万人超であり、46万人超の金沢市には敵わないまでも18万人超の豊川市には引けはとらない。その一方で安川2尉が新隊員教育を受けた第116教育大隊の久居駐屯地の周囲は実家がある愛知県の稲沢市よりも田舎だったのは確かだ。その後は北海道の第2師団に赴任したので金沢や豊川には縁がない。
「取りあえず今夜はユックリ休んでくれ。武器と弾薬はウチの陸曹が取りに行くから預けるように。夜間入浴できるように手配してある」「安川2尉は愛知県出身だそうだね」安川2尉は立ち話が区切りになったところで10度の敬礼をしたが横から別の3佐が声をかけてきた。迷彩服の名札の部隊欄には「10師司・1部」とあるから人事担当幕僚かも知れない。人事担当者は他の部隊から派遣されてくる隊員の品定めをするのも業務の内なので安川2尉が冬季戦技教育隊出身の冬季レンジャーの上、愛知県出身なのを知ってスカウトの食指を動かした可能性がある。しかし、第10師団への転属は希望していない安川2尉は無愛想に「はい」とだけ答えて回し右すると早足で退室した。第10師団でバイアスロン訓練を実施している普通科部隊は金沢駐屯地の第14普通科連隊だけだが第12師団管内の長野や新潟の雪でも粘り気が強く苦労しているので転属は絶対に断る。
「防弾チョッキを着ると重みが増していつも通りとはいきませんね」「この上に防護衣を着る可能性もあるんでしょう。身動きがとれませんよ」第10師団司令部で高圧線の管理整備任務の説明を受けて四日市市内の宿営地に向かう車内で山岳レンジャーたちは困惑していた。第10師団の担当者は第33普通科連隊のレンジャーが鉄塔から転落した事故の原因が放射線の飛散を警戒して防護衣を着用していたため動作が制約され、ザイルが滑って固定に失敗したことと説明した上で銃撃を警戒して防弾チョッキを常時着用し、放射線量の測定数値が上昇した時にはその上に防護衣を着用することを指導した。優先すべき比較対象がどこかおかしい。
  1. 2022/08/07(日) 14:52:15|
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