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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ211

「クレイムアの威力って凄いものだな」「地面までえぐってますよ」中部電力が車道からの急な斜面にコンクリート・プロックで作っている階段を下りて獣道を進むと間もなく高圧電線の鉄塔のフェンスに着いた。安川2尉が通用口の鍵を開けている間に周囲を確認している1曹と2曹は今更のように恐怖心を感じさせる口調で呟いた。17番のクレイムアは正方形のフェンスの奥の支柱に設置してあったようで敷地内の地面は放射線状に草が吹き飛び、鉄球がえぐった傷が無数についている。金属製のフェンスの支柱にも穴が開いている。この様子では高圧電線の鉄塔の損傷も確認しなければならないが強度が格段に違うはずだ。
「ここに血痕がある」「あの穴は誘爆した痕だな」不審者たちは軍用ヘルメットと防弾チョッキを身につけていたため20メートル程度の距離でクレイムアの指向式散弾を浴びても致命傷にはならず、スボンだけだった脚を負傷して動けなくなっていた。それでも倒れていたことで投げ込んだ爆弾が至近距離で誘爆しても死なず、現場確認に来た陸上自衛隊と警察の隊員に発砲した。自衛隊と警察も鉄帽と防弾チョッキを着用していたので深手にはならず、即座に応戦して不審者を射殺した。そんな実戦を経験した直後だから第10師団が鉄帽と防弾チョッキに固執するのも理解しなければならない。
「ところで中部方面隊はFV113じゃあなかったですか」通用口が開いて最後に中に入った2曹が意外なことを思い出した。2曹は群馬県から新潟県の山岳地帯で最初にクレイムアを設置した時、指導員として同行した施設大隊のレンジャーと親しくになり、この作業に関する裏話を聞いていた。その時の説明では陸上自衛隊は今回、九州を中心に奄美諸島と日本海側の中国地方を作戦正面と考え、武器の同一化を図るため同じ指向式手動地雷でもスウェーデン製をライセンス生産した新型で高性能なFV113を西部方面隊と中部方面隊に集中配備した。東部方面隊と東北方面隊、北部方面隊にはアメリカから供与を受けるクレイムアを補充することに決めた。ところが守山で受けた教育でも担当者は機種名ではなく「指向式地雷」と説明して第33普通科連隊から渡された現物も見慣れたクレイムアだった。
「その通りなんだ。中部方面隊は当初、FV113に統一する予定だったんだが、製造工場に出入りする車両が在日大陸人の攻撃を受けて破壊されたから増産が間に合わなかったそうだ。だから一番東の第10師団はクレイムアになったと言う訳だ」安川2尉もこの点には気がついて個人的に確認したようだ。あえて陸曹たちに言わなかったのはクレイムアであればこれまで取り扱ってきたので問題はないと考えたのだろう。
「ニュースや新聞では見ませんでしたよね」「危険性がない部品単位で運送しているので大事故にはならなかったそうだ。それでも国内の妨害活動は確実に影響を及ぼし始めてるな」鉄塔を登るため防弾チョッキを脱いでいる1曹の疑問に答えながら安川2尉は険しい顔をした。ここに来るまでも2005年に無料化されている鈴鹿スカイラインは安価な関西地方との輸送経路としてトラックが極めて多かった。仮に武器の部品を積んだトラックを狙うとすればあえて銃火器や爆発物を使用しなくても大型トラックで前に割り込んで急ブレーキを踏めば十分だ。さらに愛知・岐阜・三重の東海3県には銃器から戦車、戦闘機、輸送機、対潜哨戒機、電子部品などを独占的に製造している防衛産業が集中しているので第10師団が治安出動の警察業務に力を入れているのも至極当然だ。それでも安川2尉としては万に一つの銃撃や放射線の飛散よりも高所作業の安全確保を優先する信念に変わりはない。
「外観点検、異常なし。中電監視所との導通点検をお願いします」「こちらも導通点検、準備完了」1曹は鉄塔の梯子に沿って伸ばしてある電線がクレイムアの爆発で傷ついていないかを点検しながら登り、通信アンテナの外観を確認すると叫び声で依頼してきた。それを聞いて安川2尉が地上でクレイムアを設置している2曹を見ると電線2本を接続した試験機を見せた。これを外してクレイムアに接続すれば作業は終わる。
「中電四日市監視所、こちら陸自鈴鹿作業班、導通点検をお願いします」「こちら中部電力四日市監視所・・・」パーン。安川2尉が専用の携帯電話で中部電力の監視所を呼び出して相手が出た時、鈴鹿スカイラインの方から鋭い銃声が聞こえてきた。安川2尉と2曹が地面に伏せるとさらに数発の銃声が続き、間もなく思い切りアクセルを踏み込んだエンジン音が響くと短機関銃の連射音がそれを追った。
「田中1曹、無事か」「左腕にかすり傷です。ユックリ下ります」「出血しているだろう。今から登るから待っていろ」「それは助かります」安川2尉が見上げると鉄塔の上の方で道路とは反対側に回り込んだ1曹が小さな点のように見えた。どうやらスカイラインから鉄塔に登っている1曹を見つけた不審者が停車して発砲したようだ。
  1. 2022/08/09(火) 15:37:14|
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