「自衛隊があそこまで強硬な発言をして大丈夫なんですか」「部隊には先ほど電話で報告しておきました。岡野3曹を守るための緊急処置と言うことで理解はされました」安川2尉は宿営所に迎えにきた警部補と狭い取調室で引き出しがない事務机を挟んで座り、事情聴取を受けた。入口の脇の机では若い警察官が紙を広げて筆記の用意をしている。開口一番は安川2尉が警察署の正面玄関の前で待ち構えていたマスコミに写真撮影を禁止した時の罵声にも似た激しい言葉だった。マスコミが自由に出入りできない駐屯地・演習場・基地内で活動している自衛隊とは違い警察は常に市民の目に晒され、犯罪の発生件数や摘発率などで実績を上げても勝手な不満をメールで通報されれば批判を前提とする取材に基づいて一方的な世論操作を受ける。それが捜査への非協力に波及するため組織としてマスコミに媚を売らざるを得ないのだ。かつては自衛隊の方がマスコミからサンドバッグ状態にされていたが過剰なほど対策に万全を期し、騒音などの訴訟闘争は下火になり、おまけに阪神淡路大震災での粗探し報道に懸命な復興作業を見ている国民から批判の声が上がったため現在では及び腰になっている。
「しかし、私が言ったとおりテレビでは全国ニュースだけじゃなくて名古屋のローカル放送でも先日の爆破未遂と銃撃戦については全く報道しないで、自衛隊が負傷者を射殺したような印象を与えている。私としては警察や10師団が訂正させないことが理解できないんです」「前もって言っておきますが、我々は貴方たちを告発する側なんですよ。勿論、警察官が同様の事態に立ち至れば同僚を告発することになりますが」警部補の説明に安川2尉はかえって信頼を置いた。通常、刑事告発制度に無知な自衛官が警察官を味方と思い込んで不利になるような証言を口にするように誘導するのが犯罪捜査の常套手段のはずだが、あえて釘を刺したのは例え話にした「同僚を告発する」と同じ感情を抱いてくれているように推察した。ただし、警部補は安川2尉よりも一世代上のように見えるので狡猾な古狸の可能性もある。
「実は殺人未遂容疑で取り調べている生存者は犯行の動機を『同胞を殺した自衛隊に報復するためだった』と証言していました。それで前回の爆破未遂事件の犯人が大阪在住の在日半島人であることが判明しました。ところが弁護士が接見した途端に『自衛隊が高いところで作業しているのを見て脅かすつもりの悪戯だった』と証言を翻しています」「あそこから転落すれば絶対に死亡するんだから殺人目的以外の何物でもないでしょう」「その点は同感です。それでも法廷では手段を選ばないのが某政党が送り込む弁護士ですから要注意です」古狸の疑いが払拭できない警部補は意外な内部情報を漏洩してくれた。日本での共産革命を党是として発足した野党2党は朝鮮半島の南北の国家を分け合っていて在日の半島人が事件を起こせば即座に弁護士を派遣してくる。その弁護士は学園闘争時代に共産革命の洗脳を受けた日本でも最高峰の大学の出身なので全戦全勝の検察官でも流石に味噌を付けられることがある。東京大学出身の社人党の徳島水子は日本赤軍の女性指導者の顧問弁護士になると実行犯ではないことを前面に出して「テロとは無関係」との詭弁を弄し、検察側が海外での犯行の物的証拠を十分に揃えられないことを追及して極めて多くの人命を奪った凶悪犯でありながら不当に軽い有期刑の判決を奪い取っている。モリヤ中隊長はその福島水子に裁判で勝ったのだから現在の国際刑事裁判所の検察官と言う職務も適任なのだろう。
「それで作業に当たり、岡野3曹には武器使用に関してどのような指示を与えたんですか」「今朝、出発時に銃の作動点検を実施して安全管理上の注意事項は確認しました。武器使用に関しては原則として警察官職務執行法に基づく正当防衛と緊急避難に限定されることは警備任務の度に機会教育していますから改めては実施していません」この安川2尉の証言は敵意を持った司法手法では業務管理者としての落ち度に演出することは容易だ。おそらく安川2尉自身もそれは承知の上で事実を証言したのだろう。警部補は事情聴取で確認した年齢を同じ階級相当の立場に重ねて胸の内で安川2尉に敬意と羨望を感じてしまった。
「ところが岡野3曹は逃走阻止のために短機関銃を連射した。これは彼の独断ですね」「条件反射でしょう。目の前で田中1曹を殺害しようと発砲した。それを阻止しようにも車道を行き交う車両が途絶えなくて何もできなかった。そこで車両が途絶えたのと敵の逃走が同時に発生したのですから自衛官としては発砲するのが常識的対処方法です。おそらく岡野3曹は反射神経で銃を構え、車道の通行を確認しながら狙いをつけ、有効射程を外れる前に引き金を引いた。自衛隊としては訓練の成果と賞賛しなければなりません」「最後の発言は記述するな」警部補は振り返って記録係りの巡査に声をかけた。本来は事情聴取の内容を取捨選択することは刑事訴訟法に抵触するが、安川2尉はあくまでも参考人であり、検察側の司法警察職員である警部補の判断で明らかに不利になる発言を隠蔽したようだ。
- 2022/08/12(金) 14:56:33|
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