fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ219

「石田首相も喜んでいるだろう」会議の冒頭、アメリカ空軍の中佐が陸海空自衛隊の担当者を見回して声をかけた。政権中枢とは別系統でコンクリート詰め投下弾の完成を通知された在日アメリカ軍は横田基地で自衛隊との作戦計画策定を本格化させた。今回の作戦ではグアム島から発進するBー2戦略爆撃機2機にコンクリート詰め投下弾、1機に通常の大型爆弾を搭載し、日本海上空を待機空域としながら破壊された原子力発電所3基を反復通過して投下することになっているが、それに先立って海上自衛隊の護衛艦の艦砲で残存している建物を破壊させなければならない。そのため会議には統合幕僚監部から陸と海の担当者も出席している。会話は海空自衛隊が常用しているハワイ英語だ。
「何をだい」「何をって放射能漏れが遮断される上、北朝鮮の核の脅威も消滅するんだ。核問題に敏感な石田首相としてはこれ以上の政治成果はないだろう」顔見知りの航空自衛隊の2佐が質問すると中佐は当然のように国際軍事常識で答えた。自衛隊の担当者たちは中佐が嫌味を言っているのかと勘ぐって顔を見たが口元が緩んでいるのでどうやら本気らしい。この中佐は日本での勤務経験が短く、マスコミが演出する異常な世論を理解していないようだ。自衛隊の担当者たちは顔を見合せて説明する役を譲り合ったが、最初に確認した2佐が押しつけられて渋い顔で咳払いをした。
「実のところ日本政府は北朝鮮への武力行使をまだ決定していないんだ」「何故だ」2佐がためらいがちに日本政府の恥を告発するとアメリカ空軍でも着任して間もない人間たちが一斉に声を上げた。それは怒りよりも呆れて発した一言だった。
「我々は今回の核攻撃が発生した時点でホワイトハウスが北朝鮮の核施設の空襲・破壊を企図していることは伝えたはずだ。アメリカ政府としては安全保障理事会で北朝鮮の主張を否定して核攻撃と認定する国際世論を形成してきた。それは今回の懲罰を根拠づけるためなのは判っているだろう」「オフ・コース(勿論)」今度は最先任者の航空総隊司令部防衛部長の1佐が答えた。アメリカ空軍としては同じ階級以下の担当者たちとの問答のつもりで話しているので上官が反応したのには少し困惑した。
「それを防衛省や政府には報告しなかったんですか」「当然、防衛大臣から報告している。官房長官は理解を示したようだ。しかし、首相は難色を示したまま先送りして現在も結論を出していない」「所詮はコーチカイなんだ」再び2佐が説明すると別の2佐が日本語で呟いた。するとアメリカ軍は「コーチカーイ」と訊き返してきた。おそらくアメリカ軍はスポーツの指導者のコーチと混同してカイの意味を知りたかったのだろう。
「石田首相はウチの下院議長が台湾を訪問した時の中国の軍事演習で弾道ミサイルがEEZ内に落下しても記者会見を開かなかったよな」「国家安全保障会議も招集しなかった」「オーッ、コーチカイ」アメリカ軍たちは意味を知らないで石田首相の政治姿勢の代名詞として派閥の名称を使い始めた。尤もそれは的外れではない。石田首相が長を務める派閥は大蔵官僚出身で広島県選出だった首相が創設したため官僚出身の議員が多い。だから「事勿れ主義」「前例踏襲」の官僚気質が蔓延していて難局に当たり政治的決断をする気概が欠落している。その代表が石田首相は「尊敬している」と公言している大蔵官僚出身で広島県選出の後任の首相で韓国に恫喝されるままに宮沢談話、河野談話を発表し、野党の追及に屈服して国際常識から逸脱したPKO法を急造して禍根を残した。
「それどころか石田首相はBー2を使用することにも同意していない。戦略爆撃機はヒロシマに原爆を投下したBー29や北ベトナムを爆撃したBー52を連想させるから拙いと言ったままこれも放置している」「アメリカは加倍長期政権で日本が国際標準に追いついたと思っているかも知れないが実際は迷いながら後ろを追っかけている状態が再開している」「政治家が選挙を恐れてマスコミが捏造する世論に迎合している間は駄目だよ」自衛隊も英語であればかなり危険な発言も口にできるので政治批判が燃え上がってしまった。
「それで今回の作戦にBー2を使えるのか」「オフ・コース(勿論)」「北朝鮮の空襲は」「オフ・コース」珍しく自衛官たちが熱弁を奮い始めてアメリカ軍は逆に心配になってきた。アメリカでは大統領がサインしなければ何も始まらないのだ。ところがアメリカ軍の確認に自衛隊は呆気に取られるほど明解に即答した。
「そんなはずないだろう」「アメリカ政府が有無を言わさず申し入れれば石田首相は黙って従うしかない。加倍首相とは違うから昔の日本政府を操った時のように扱うことだ。何なら空襲のついでに拉致被害者奪還作戦でも立案しようか」自衛隊の冗談に日本での勤務が長い担当者は笑ってけしかけたが新参者たちは真顔を強張らせた。
  1. 2022/08/17(水) 15:33:44|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<8月18日・インド独立運動の指導者・ボースが事故死した? | ホーム | 8月17日・外交官的陸軍軍人・小野寺信少将の命日>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/7846-fee1b824
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)