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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ222

「本日の正午前を目途(もくと)にアメリカ軍による北朝鮮の弾道ミサイルによって破壊された原子炉3基の封鎖作戦を実施します」DーDAY=作戦実施日の朝、立野官房長官は在東京のマスコミ各社を招集して臨時記者会見を開いた。記者たちはグアム島のアンダーセン基地に保有数21機の大半のBー2戦略爆撃機が展開したニュースで予想していたのか呆れるほど無反応で毎度の如くスマートホンを突き出していた。
「実施要領としては間もなくBー2爆撃機4機がグアム島のアメリカ軍基地を離陸しまして太平洋上で航空自衛隊の空中給油機から燃料補給を受けて我が国に向かいます」ここで立野官房長官は会見場の壇上に設置してあるスクリーンに投影されている赤道以北の太平洋の地図でグアム島の位置を示した。日本人の多くはグアム島をハワイとの中間辺りにあると思っているが実際はフィリピンの東なので日本への飛行経路は沖縄と小笠原の間の空域になる。
「そのまま四国、関西上空を通過して日本海に向かいます。この時、投下目標である3基の原子力発電所を上空から確認します。したがって国民の皆さまには見慣れない大型機を目撃しても動揺しないようにあらかじめ連絡申し上げておきます」「ホーッ」ここで壇上のスクリーンはBー2の画像に切り替わり、ニュース映像で見ているはずの日本人の記者たちが何故か歓声をあげた。確かにステルス機のBー2は見るからに恐ろしげなBー29やBー52とは異なり、黒く巨大な空飛ぶエイのようで妙にユーモラスだ。
「作戦は日本海から1機ずつ3基の原子力発電所の上空を通過してレーザー・ビームを照射、レーザー誘導式の投下弾を投下します。それを搭載している投下弾が終わるまで繰り返して破壊されている原子炉を封鎖すると言う手順です」立野官房長官はスクリーンが関西から北陸に拡大した地図に換わるとレーザー・ビームで飛行範囲を示した。
「この模様は国営放送が滋賀県の比叡山スカイラインから中継して映像を各社に提供することになっています。国営放送はまだ現地に入ってないんだろう」「はい、取材者の被放射線量を最小限にするため作戦開始に間に合うように京都側から登ります。予定では後15分ほどで出発します」立野官房長官が国営放送の記者に確認するとスマートホンに編集部からの質問事項が届いていた記者たちが一斉に手を上げた。
「A日新聞の尾崎です。投下する爆弾の1発の重量は何キロですか」「まだ私の説明は終わっていないんだが・・・仕方ない質問の時間を取ろう」記者たちの強引な質問攻勢に立野官房長官は困惑したが仕方なく応じることにした。
「1発の重量は2000ポンドです。キログラム換算では910キロになります」「1トン爆弾だな・・・」「これだけの量の鉛入りコンクリートを投下するから効果が期待できるんです」別の記者が爆弾の恐怖心を煽る俗称を口にしたため立野官房長官は即座に打ち消した。
「M日新聞の市川です。Bー2は250キロ爆弾なら80発搭載できるはずですが、あえて1トン爆弾を16発にした理由は何でしょうか」「アメリカ軍の担当者からは当初はレーザー誘導式の500ポンド爆弾を改造する予定でしたが実用試験で不具合が発生したため試作品の改良よりも2000ポンド爆弾の新規改造の方が時間がかからなかったことが理由と説明を受けています。そのおかげで4機分の製造が間に合いました」ここで立野官房長官は虚偽の説明をした。実際に製造できたのは3機分であり、予備の1機には空対地ミサイルを搭載している。これは後回しになった予備機の役割の説明につなげる大嘘だ。
「3K新聞の入江です。この作戦に使用するBー2は4機なのにアメリカ軍が20機もグアム島へ移動させた目的はやはり中国への牽制でしょうか」「官房長官、国営放送が海上自衛隊の原子炉建屋破壊の艦砲射撃の中継を始めました」保守系の3K新聞の記者が比較的高度な質問をしてきたところで内閣官房の補佐官が声をかけてきて、画面を国営放送の中継に切り替えた。すると防護衣を着た若い男性アナウンサーが護衛艦の待機室と思われる部屋で艦内放送の映像が映っている大型テレビの前で中継していた。画面には艦首から撮影した艦橋よりも前の様子が映っているが主砲は右を向いて発射準備を終えている。
「ここは若狭湾沖10数キロの海域を航行する護衛艦・すずかぜの待機室です。ただ今からアメリカ軍の爆撃機が原子炉内に鉛入りコンクリート投下弾を投入するのに邪魔になる原子炉建屋を破壊するため艦砲射撃を開始します。安全確認のため手元のガイガー・カウンターで現在の放射線量を測定します・・・室内でも24ミリ・シーベルトです」「艦砲、射撃用意」その時、艦内放送が流れ、画面は艦首からの外部映像に切り替わった。
「3、2、1・・・テーッ(射て)」砲雷長の発射号令と共に12.7サンチ砲の砲口から火焔と黒煙が噴き出し、反動で砲身が後退した。数秒後、「初弾命中」の放送が入った。
  1. 2022/08/20(土) 15:16:18|
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