「韓国とロシアはインターセプター(迎撃機)を上げたが北朝鮮はまだだな」Bー2による原子炉封鎖作戦が始まるとロシア軍と韓国軍は攻撃発始(ほっし)点になっている能登半島沖の日本海を監視するように戦闘機を発進させた。アメリカ軍は日本海上を飛行しているAWACSと入間基地の中部航空方面隊防空指揮所=センチュリーをリンク(通信接続)させて空域を防御している。現在は日本海と太平洋を往復するBー2の編隊に同行している10機の護衛とは別にFー15を離陸させて両軍の接近を阻止している。
「北朝鮮の対応が確認できないと作戦に踏み切れないな」「流石に大統領も就寝されたでしょう」この作戦を指揮統制している第5空軍指揮所では横田基地に同居している航空総隊司令官以下の主要幹部も同席している。第5空軍司令官はスクリーンで防空指揮群から送られてくる日本周辺の状況を注視しながら両隣の第5空軍参謀長と総隊司令官に声をかけた。日本とアメリカ東海岸の時差は13時間なので昼と夜が逆転している。作戦自体は大統領が実施命令にサインしているので指揮統制を委託されている第5航空軍司令官の所定で対処できるのだが、作戦成功の吉報はやはり直接の電話にしたい。
「5回目まで待って動きがなければ仕事を片づけよう」「トトトトかァ・・・」第5空軍司令官の決断を受けて総隊司令官が呟いたのは日本海軍が航空機に攻撃開始を指令する時に用いた無線信号「ト=・・ー・・」の連符のことだ。それでも帝国海軍を同じ海洋戦略の大家・アルフレッド・セイヤー・マハンの門下生でありながらアメリカ海軍に敗れた劣等生として自己否定している現在の海上自衛隊で口にする提督=将官はいないだろう。
「北朝鮮でも朝の官房長官の記者会見の映像は視聴できたはずだ。我が国の国連大使が安全保障理事会であれほど懲罰を明言しているんだ。この機会に攻撃されることを警戒するのは常識のはずだ」「書記長陛下が怯えてしまって地下室に閉じ篭って出てこないんじゃあないのか」「一部には拉致被害者を人の盾にするんじゃあないかって憶測もあったが、非常呼集が間に合わなかったのかな」日本のマスコミは北朝鮮の弾頭ミサイルによる原子炉破壊が発生して以来、放射能流出による健康被害で国民の不安を煽っていたが、福島第1原子力発電所の事故を受けて喧伝していた放射線による健康被害の情報が極めて低次元であったことが専門家に指摘されるようになって口をつぐんでしまった。その後はアメリカが国際連合で北朝鮮の宇宙ロケットの発射実験の失敗と言う説明を否定して弾道ミサイルによる新たな核攻撃であることを認知させて懲罰を表明するとこれを批判するために利用したのが北朝鮮による拉致被害者だった。マスコミは湾岸戦争の時、イラクのサダーム・フセイン大統領が多国籍軍の攻撃目標になる重要施設に在留外国人を配置すると脅迫した事例を紹介して北朝鮮も同じことを行うと報道し始めた。当然、拉致被害者家族に取材して不安の声を引き出していたが、「これで本人の存在が確認できる」と想定外の発言が出たためこれも中止した。
「4回目を始めます」「ラージャ」「ラージャ」ここでアメリカ軍のAWACSの機上指令官と交信している先任指令官がレシーバーで声をかけると第5空軍司令官と総隊司令官は声を揃えて了解した。2人とも戦闘機パイロットなのでこれは条件反射だった。
「4度目だぞ」「爆弾投下準備完了」「レーザー照準、セット完了」日本海上のBー2はAWACSが指定した担当する3基の原子炉に向かって進路を取った。機内では搭乗員たちが手順にも慣れた作業を確実に実施した。この作戦では方位の誤差を修正する距離上の余裕を確保するため日本海でも限界までロシア側の防空識別圏に接近している。ロシアには平和目的の原子炉封鎖作戦として通知しているが、空対空ミサイルを搭載している空軍の戦闘機は航空自衛隊のFー15と実戦態勢で対峙している。
「ボンブ・クルー(爆弾係)の退避確認」「投下ドア、オープン」Bー2は核爆弾や空対地核ミサイルを搭載するため爆弾倉の放射線の遮断は完璧だが、この作戦では投下ドアを開けると原子炉が流出させ続けている放射能が機内に入ってくる。
「投下5秒前、4、3、2、1、投下。誘導装置がレーザーを捕捉しました」「今度も命中するな」コクピットの側面に並ぶスクリーンで爆弾倉内から2000ポンド投下弾が1発消え、別のスクリーンで落下していく光景を注視しているボンブ・チーフ(爆弾係長)の大尉の報告を聞きながら機長と副操縦士は軽く溜息をついて顔を見合わせた。
「ミハマ(美浜)とオーイ(大飯)も3発命中だったんだよな」「戻ってくる時、上空から確認しましたが破壊孔内に落下したようです」「それなら誤差はインチ単位だろう」アメリカ軍が当初、レーザー誘導式のヘイプウェイを選択したのはGPS誘導方式よりも命中精度が高いことが理由だったが、今回の開発で誘導技術が急速に進歩したのかも知れない。
- 2022/08/23(火) 16:21:35|
- 夜の連続小説9
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