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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ226

「大浦洞(テポドン)の発射準備はまだか」「燃料の注入を進めています」同じ頃、北朝鮮では長距離弾道ミサイル・テポドン2の発射準備が始まっていた。今朝の立野官房長官の臨時記者会見を受けてアメリカ軍による核施設への空襲が確実であることを韓国軍上層部の民族主義者=南北統一派から通報された最高指導者である書記長が先制的逆懲罰を決定したのだ。ただし、固体燃料のテポドン1と違って液体燃料のテポドン2は発射までにかなり時間を要する。地下格納庫では現在、保管庫からロシア製の中古の大型タンク車で運んできた超低温の液体燃料を本体に接続したパイプで注入を開始している。
「南軍(韓国軍=以前は傀儡軍と呼んでいた)の見解ではアメリカは日本の放射能汚染を止める名目で東海(日本海)に戦略爆撃機を飛来させた。その中に我が国を攻撃する爆弾を搭載している機体があるようだ。その前にグアム島の基地を叩く。日本国内のアメリカ軍基地は在日の同志が破壊する。そのためにも発射を急げ」作業を監督している技術者の横で軍の政治将校が長々と演説した。今回の行動が中国の指示によることは言うまでもない。中国共産党の現指導部は異例の任期延長を実現するため韓国に続き台湾と日本を支配下に置き、ハワイ以西の太平洋とインド洋を領海にする壮大な世界戦略を提唱した。そしてウクライナ侵攻でアメリカがロシアの核の恫喝に屈したのを見て台湾侵攻を決定した。ところが親中への転換を期待して成立させたアメリカの現政権は予想外の強硬姿勢を採り、「このままではアメリカと日本が協力して台湾を防衛する最悪の事態が生起する」と判断して日本における親台派の代表である元首相を狡猾な動機を演出して暗殺した。犯人が逮捕直後に口にした動機に元首相の祖父を絡ませているところは下手なドラマ以上の完成度だ。東京裁判でA級戦犯になりながら戦後政治で権力を奮った元首相の祖父こそ日台、日韓の同盟関係を構築した立役者なのだ。
「しかし、大浦洞2型ではグアム島内に落下させるだけの命中精度がないので通常弾頭では基地を破壊できる確証はありません」「お前は書記長陛下の決定に反対するのか」「いいえ、書記長陛下の御威光によって必ずグアム島の米帝基地の核弾薬庫に命中します。そして人民の怒りは日本の原子力発電所以上の大爆発になってグアム島は消滅するでしょう」「始めからそう言えば好いんだ」若い技術者が上司である中年の技術者に性能上の疑問を呈すると政治将校が苦言を割り込ませた。その時、右手が腰に吊った拳銃にかかったのは単なる癖のはずだ。敗戦後の日本の左翼軍隊映画では陸軍将校はすぐに軍刀を抜く凶暴な人種として描かれているが、北朝鮮軍の将校まで軍刀代わりに拳銃を抜いては困ってしまう。
「それにしても北京は日帝の警察軍(自衛隊)如きに何故、手をこまねいているんでしょうか」中年の技術者は部下である若い技術者を頭ごなしに叱責した政治将校が答えに窮するような質問を投げかけた。北朝鮮国内では国民に対して日韓の武力衝突を反日的に流布し、続く日中の衝突では日本に対する懲罰戦争を主張して「日本の滅亡は近い」と断定していた。ところが韓国軍だけでなく中国軍まで予想外に強固な日本の防衛体制に跳ね退けられて軍事進攻は頓挫し、以前から準備を進めていた拳銃による内戦を発生させている。その内戦も治安出動した自衛隊による取り締まりで制圧されつつあり、北朝鮮は損な役割を押しつけられた形だ。
「これから行う懲罰を中国は国際連合の場で我が人民共和国が悪逆非道なる米帝に下した正義の鉄槌であったと認定させる手筈になっている。やはり信ずるに足る盟邦は北京なんだよ」「緊急事態発生、東海より爆撃機が接近中」政治将校の独演会が終わるのに合わせるように弾道ミサイル格納庫内に緊急放送が流れた。それを耳にした作業員たちは驚いたように壁のスピーカーを注視した。弾道ミサイルの組み立て工場には陸海空軍で優秀な兵士を選抜して配置しているが、慌てたとは言えスピーカーの機械内部に発言している人物が存在すると考えるのは西側先進国でなくても遠い昔の笑い話のレベルだ。
「作業を中断するな」「持ち場を離れるな」「危険だから落ち着け」動揺が収まらない現場の作業員たちに技術者は矢継ぎ早に大声を張り上げた。それでも作業員たちは勝手に騒ぎ始めた。間もなくミサイル本体に接続していた液体燃料のパイプが緩んだようで、吹き出した液体燃料が気化して白い霧が立ち込め、それを吸った作業員たちが苦しそうに咳き込み始めた。
「気化した液体燃料は有毒です。作業員たちを退避させます」「駄目だ。書記長陛下の許可がなければ許されない」「我々も避難しなければ危険です」2人の技術者は白衣のポケットから取り出した白いハンカチを口に当てながら政治将校の許可を求めたが答えは想定外だった。
「構わん、全員、脱出しろ」「裏切りは許さん」中年の技術者が目の前で倒れた作業員に駆け寄ると政治将校は拳銃を抜いた。若い技術者が横からそれを奪おうとして揉み合いになり、やがて1発が発射され、銃口から噴いた炎が気化した液体燃料に引火した。
  1. 2022/08/24(水) 15:08:57|
  2. 夜の連続小説9
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