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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ230

「親父、昨日と今日にアメリカ軍の黒い大きな爆撃機が何機も南へ飛んで行ったんだけどあれは何をしてるんだ」職場の昼休みに梢手作りの弁当を食べ始めると唐突に淳之介から電話が入った。普段、日本とオランダの8時間の時差と平日の私の日程を知っている淳之介は勤務時間中の電話は遠慮しているので余程の緊急事態らしい。
「Bー2が若狭湾の原発にコンクリート詰め爆弾を投下したんだろう。作戦が終わってグアムに帰ったんだよ」「原発の作戦に参加したのは4機だってニュースで言っていたよ。それは昨日終わって帰ったんだ。一緒に嘉手納に6機、フィリピンに10機来たのもニュースで見たけど実物が空を覆うように飛んでいくのを見ると流石に不気味だったよ」オランダでもアメリカ軍がBー2爆撃機で鉛を混入したコンクリート詰め投下弾をレーザー誘導で破壊された原子炉内に投下して密閉する作戦は大きく取り上げられていて、全弾命中の快挙を「人類破滅の危機が回避された」と絶賛していた。その一方で嘉手納とフィリンピンへのBー2の派遣については触れていなかった。淳之介が口にした数字を合計するとアメリカ軍が保有・運用するBー2のほぼ全機に相当する全力展開になる。
「嘉手納に6機か。今はSRー71がいないから迫力があっただろうな。そう言えばワシが空曹だった頃にはBー52が来たぞ」「どちらも親父から名前は聞いたけど実物は見たことがないよ。黒いマンタ(巨大な糸巻きエイ)みたいな飛行機が6機編隊で通過していくのは怪獣映画みたいだった」SRー71偵察機はマンタと言うよりも長く突き出した機種と3角形の後部がウルトラホーク1号のような機影で、嘉手納基地に着陸するため急旋回(那覇空港の空域は避けた)する姿を見てエプロン(=駐機場)で勤務していた整備員たちは大歓声を上げてしまった。一方、Bー52は「黒い悪魔」と呼ぶのが相応しい迫力があり、異常に長い主翼が「折れるのではないか」と思うほどしなり、着陸した時には両端が地面をこすっていた。
「多分、中国の動きを封印するための威圧じゃあないかな。ついでに太平洋に緊急展開する演習も兼ねている。このままオーストラリアに寄って帰るか、ディエゴガルシアに回って世界を1周する可能性もある」「ディエゴガルシアって志織が行ってるインド洋の離島の基地だね。志織は向こうからの片道通信しかできなくて質問できなかったんだ」アメリカ海軍の対潜哨戒機パイロットの志織はアフリカへの物資輸送のためインド洋で活動する中国船と潜水艦を監視するためディエゴガルシア島に展開しているが、こちらから電話する機会はないので淳之介が言う片道通信には気がつかなかった。アメリカ軍は準戦時態勢を敷くと軍用機の搭乗員の動向を漏らさないため指定場所以外からの私用電話は制限すると聞いたことがあるので志織もそんな防護措置の中にいるようだ。それにしても淳之介から志織に電話をかけているのは意外だった。以前はブラザー・コンプレックスの志織が一方的に思いを寄せていたが、淳之介も応えるようになったのが兄妹愛ならば喜ばしいことだか男女の恋愛感情なら大問題だ。異母兄妹の2人は志織の「戦地で捕虜になってレイプされる前に純潔を愛する淳之介に捧げたい」と言う願いを私が認めて1度だけの肉体関係を持っているのだ。
「職場の電話だからこの辺で切るぞ。あまり役に立たなかっただろうが、あかりにも心配しないで大丈夫だって言っておけ」「うん、あかりも聞いたことがない爆音を聞いて不安だったみたいだ。俺が帰ったら親父に電話してくれって頼んできたんだ」これで勤務時間中の職場に電話をかけてきた理由が判った。視覚障害者のあかりはおそらく八重山上空で編隊を組んだBー2の聞いたことがない爆音を聞き、地元ラジオのニュースが殊更に煽る「戦争の危機」が現実のものとして迫り、全身が震えるような不安の中で1日を過ごしたのだ。
「あかりには沖縄のラジオは聴かせない方が好いかも知れないな。相変わらず事実を歪曲して不安になるように報道してるんだろう」「最近は国営放送も沖縄支局が作ってる番組は滅茶苦茶だよ。親父や玉城松泉さんから聞いた体験談とは全く違う、学校で組合員の教師が洗脳教育していたような嘘ばかりだ。だからあかりも台湾語を勉強してニュースは台湾のラジオを聞くようにしているよ」「流石は梢の娘だな」あかりは沖縄本島で梢と暮らしていた頃にはアメリカ軍放送のFENを聴いていたが、八重山では電波が届かないので仕方なく国営放送のラジオ番組を聴くようになった。しかし、私としては沖縄の国営放送が本土復帰時に送り込まれた反日活動家の局員によって民間放送以上に偏向されたことを知っているので不安だったのだ。その点、現在の台湾のラジオ番組であればある程度は安心できる。
「この間、お義母さんが送ってくれた水着を着て家族で島のビーチに行ったんだ。セクシーだったよ。痛いッ」「そろそろ3人目かな。またね」電話の向こうで2人が痴話喧嘩を始めたのを察して私は電話を切った。確かに梢がオランダでも着たあの水着は私たち両親のお気に入りだ。
と・モリヤあかりイメージ画像
  1. 2022/08/28(日) 14:54:39|
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