fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

第117回月刊「宗教」講座・精進料理教室1時間目・胡麻豆腐

今回から月刊「宗教」講座はネタ切れにつき精進料理教室を開講します。戒律を持たない浄土真宗の門徒を除く日本の佛教徒が「精進料理」と聞くと寺で食されているはずの肉魚=動物性蛋白質を使っていない野菜・根菜・豆類だけを材料にした料理を思い浮かべますが、これは東アジア限定の戒律に由来するものです。
中国の南北朝でも南朝の梁の武帝・蕭衍(しょうえん)さんは「皇帝即菩薩(北朝=北魏の孝文帝は「皇帝即如来=絶対者」と称していた)」と呼ばれたほど深く佛教に帰依し、学び、実践していましたがある時、僧侶に「殺生戒を保っているはずの佛教者が動物の死肉を食べても良いのか」と質問したところ誰も答えられず、その結果、中国佛教では僧侶の肉食を禁じる独自の戒律ができて、朝鮮半島や日本でもそれを踏襲したため材料に肉魚を用いない「精進料理」が生み出されました。ちなみに東アジアの精進料理は修行僧の精力を低下させて不邪淫戒(女犯の禁止)を保つ副次的な効果も期待されて、植物でも精力を強める大蒜(ニンニク)や韮(ニラ)、辣韮(ラッキョウ)、葱(ネギ)、玉葱(タマネギ)なども材料として禁じられていて(最近は疲労を回復する食材として無視している)、禅寺の山門脇に立っている「禁薫酒入山門」の石碑の「薫」は匂いが強いこれらの野菜のことです。
一方、南方佛教では街中で托鉢して供養される食糧を口にするため材料を選り好みすることはできず「三種の淨肉」であれば食べることが許されます。この「三種の淨肉」とは「自分のために殺された生き物の肉ではないこと」「殺されるところを見ていないこと=助けなければならない」「疑いなくこの両者ではないこと」と言うもので、釋尊が般涅槃(逝去)された原因も南方佛教では豚肉による食あたりですが、東アジアの佛教では茸に改竄されています。
そんな訳で第1回の献立は精進料理の代名詞になっている「胡麻豆腐」です。最近はスーパー・マーケットなどでもパック入りで売っているようになったので有り難味が薄れましたが、野僧が小坊主をしていた祖父の寺では住職=師僧=祖父が法要の後に檀家に自慢の精進料理を披露することがあって胡麻豆腐は大人気でした。その後、全国各地の色々な宗派の寺に参学したため習った材料の量や作り方が混乱している可能性がありますからアシカラズ。しかし、京都の臨済宗の寺では参禅者に雲衲=修行僧が典座(臨済宗なので「てんざ」、曹洞宗なら「てんぞ」)で胡麻を擦る姿を見せても実際は出入りの料亭が納入していました。

胡麻豆腐・4人分程度(切り方次第)

材料
白胡麻・70から80グラム(安物の葛粉の時は黒胡麻でも可)
吉野葛粉(高級品ほど白くなる)・40グラムから45グラム
水・2カップ
醤油・大匙1杯
味醂・大匙1杯
好みで生姜(ショウガ)又は山葵(ワサビ)・少々

作り方
1、胡麻を擂り鉢で念入りに油が出るまで摺って味噌状にする(大量に作る本山や僧堂では電気ミキサーを使っていた)。
2、水を少しずつ加えながらのばす。
3、手拭や目が細かい笊(ざる)などで濾しながら鍋に搾り入れる(寺によっては水に浸して浮いた胡麻の皮を除いてから鍋に入れて水を足していた)。
4、葛粉を加えて中火にかけ、木べらでかき混ぜながら煮込む。
5、沸き立って底が見えるようになったら弱火にして十分程度加熱を続け、火を止めて金属製の型に流し込む。
6、表面が固まってくれば型のまま水に沈めて三十分程度冷やし、その後、冷蔵庫で十分に冷やす。
7、調味料を混ぜて付け汁を作り、好みによって生姜や山葵を擂り入れる。
8、型から出ない時はそのまま切れ目を入れて底に空気が入れば出る。

野僧は梁の武帝とは妙な法縁があります。法戦式で首座(曹洞宗だったので「しゅそ」、臨済宗なら「しゅざ」=修行僧のリーダー)を務めた時の問答の本則=主題が碧厳録冒頭の「武帝問達磨」の一節「廓然無聖(かくねんむしょう)」で、問答に先立って三方に載せた祖録(公案集)を掲げて「挙(こ)す。梁の武帝、達磨大師に問う、如何なるか聖諦第一義、磨曰く廓然無聖、帝重ねて問う、朕に対する者誰ぞ、磨応えて曰く不識、帝契(かな)わず江(=揚子江)を渡って少林に至り、面壁九年」と大声で叫んだのです。あれから35年以上が経っても思い出せるほど暗記したので他人のような気がしません。
117・法戦式(本則)「挙す!」(法戦式・本則)
  1. 2022/09/01(木) 16:00:48|
  2. 月刊「宗教」講座
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<続・振り向けばイエスタディ235 | ホーム | 続・振り向けばイエスタディ234>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/7879-cee8f5da
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)