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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ235

「まだ閉鎖は不十分だ。コンクリート詰め弾を追加製造させて搬入される度に逐次投入するべきだ」CBIRFの派遣部隊指揮官のマックハウアー中佐は作戦終了後、ヘリコプーターで東京の横田基地へ飛び、在日アメリカ軍司令部での作戦会議で結果を報告した。会議には統合幕僚監部から派遣された陸海空自衛隊の担当者と航空総隊司令部の首脳陣も臨席している。
「RQー4の映像を見る限り、原子炉の埋設には成功したようだが・・・」「パイプが露出しているから内部の放射線が噴出する可能性は排除できない。勿論、流出量は大幅に減少するはずだが」在日アメリカ軍の高級幹部の呟きにマックハウアー中佐は語気を強めて反論した。英語における敬語は用いる単語や文章の変更ではなく語尾に「サー」を付けるのが基本形だが、今回は完全に省略していた。CBIRFとしては東北地区太平洋沖地震の福島第1原子力発電所の事故でアメリカ軍の参加そのものに消極的だった民政党政権=缶内閣に足を引っ張られていた時以上の成果を収めるつもりで来ているので、自衛隊は言うまでもなく身内である在日アメリカ軍司令部の上層部がこの戦果で妥協することは決して容認できないのだ。
「そのような少数の追加投下で効果が上がりますか」「次回からはヘリコプターによる手作業の投下になる。1機が上空でホバーリングしながらレーザーを照射して、もう1機から投下する。2000ポンド爆弾だから大型輸送ヘリになるだろう。兎に角、露出しているパイプの穴を封鎖しなければ駄目だ」マックハウアー中佐は航空総隊の2佐の幕僚の確認には丁寧に答えた。つまり今回の作戦で放射線量が減少すれば2000ポンド爆弾を搭載できる大型輸送ヘリコプターで接近することが可能になり、上空で後部扉を開けてロードマスター=機上輸送員が手動で投下すれば命中精度も格段に向上すると言うことだ。
「アメリカ軍としては今回のホールインワン16に製造した特殊投下弾を全て投入したから追加製造には時間がかかるだろう」「現在は対中国との戦争の危険が高まっている。だから通常爆弾の製造も中止できない」「戦略空軍としては今回のホールインワン16で遅れた分を取り戻すことを優先するはずだ」在日アメリカ軍の参謀たちはマックハウアー中佐の見解が区切りになったところで戦闘組織としての立場で反論を始めた。確かに今回の原子炉封鎖作戦=ホールインワン16はアメリカ政府が弾道ミサイルによる原子炉破壊を北朝鮮の新たな核攻撃と断定したことで始まった軍事作戦なので、軍の技術研究所と爆弾の製造メーカーも全力を投入してレーザー誘導式の鉛を混入したコンクリート詰め投下弾を開発・製造したが、本業はあくまでも殺戮兵器の研究開発と製造であって優先順位が低くなるのは仕方ないことだ。
「ところで北朝鮮に向かった予備機のBー2は何もしないで大戦果を上げたようですが、何をやったんですか」日本では災害派遣と認識されている原子炉封鎖作戦の会議が妙に殺伐とした雰囲気になってくるとマックハウアー中佐は軍人としての関心を示した。CBIRFも核と生物化学兵器による攻撃と事故に対処する軍の組織であって消防のように人命救助を主任務にしている訳ではない。日本では航空自衛隊のメディック=救難員を自らの危険を顧みず、嵐の海や吹雪の山岳で遭難者を救助する人命救助の英雄として賞賛しているが、実際は陸上自衛隊の空挺、レンジャーと海上自衛隊の潜水員の正規の課程教育を受けていて戦闘員としての能力も極めて高く、戦時には敵地に脱出・降下したパイロットを救出するため機銃掃射で地上の敵を制圧しながら着陸し、負傷していれば担架でヘリコプターまで搬送して応急処置をする。
「あれは謎なんだ。我々はJASDFが何かやったんだろうと思っているんだが、絶対に口を割らない。あれだけの大爆発を起こしたんだから液体燃料の弾道ミサイルを破壊したのは間違いないのだが、奴らもテポドン2を何回か射ち上げているから素人ではない。取り扱いには十分に注意するだろう。JASDFよ、本当に何をやったんだ」マックハウアー中佐の疑問には思いがけず在日アメリカ軍の副司令官が回答した。この口ぶりでは軍事秘密を隠蔽しているのではなく本当に原因不明の謎らしい。それにしても長距離弾道ミサイルが格納庫内で爆発して燃料貯蔵庫まで誘爆した大事故の原因がアメリカ軍をして現時点でも推察できていないと言うのは下手な小説並みのミステリーだ。
「発射命令が北京の指令を受けた書記長陛下の鶴の一声だったのは毎度のことだが、封鎖作戦の実施を日本政府が発表したのは当日の朝だったからかなり唐突な発射命令だったんじゃあないかな。そんな慌ただしい作業中に突発事故で液体燃料に引火した。そんなところで納得してくれ」在日アメリカ軍副司令官の顔が必ずしも冗談ではないことを見て取った航空総隊の幕僚長がなだめるように見解を述べた。しかし、幕僚長自身もこれ以上の推理を働かす情報は持っていない。この謎が憶測を呼び、敵対する者同士で相手の犯行とする疑惑を呼び起こし、それが憎悪にまで暴走するのは人間社会では当然の流れだ。
  1. 2022/09/02(金) 14:08:23|
  2. 夜の連続小説9
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