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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ237

「不思議な光景ね。戦略爆撃機が平和のために活躍するなんて信じられないわ」岐阜県可児市では島田信長元准尉と妻の順子が居間のテレビで国営放送が比叡山ドライブウェイの山頂駐射場から中継しているアメリカ軍による原子炉封鎖作戦の特別番組を視聴していた。画面には京都方面の空に菱型の編隊を組んだ黒い点が4つ映り、それが大きく鮮明になってくるとBー2の翼がついた円盤のような不思議な機体であることが判り、通り過ぎて琵琶湖の向こうの山脈の向こうに姿を消した。すると東京のスタジオに替って日本政府が公式発表している作戦の概要やBー2の解説が始まって間をつなぎ、やがて戻ってきたBー2が通過する光景を中継する。その繰り返しで連続ドラマの昼の再放送や定時番組を潰した。
「爆撃機って熊本の空襲の時に焼夷弾を撒き散らしたBー29の印象しかないけど今度は原子炉の放射能を止めてくれるのね」「お前は赤ん坊だったじゃないか。それは親に聞いた話だろう。俺は防空壕に入らずに夜空を見上げていたが、夜空に伸びた照空灯の光の線がBー29を照らし出すと高射砲が射撃を始めるが、全く気にしないように焼夷弾を降らしていたな」島田元准尉は順子の感想の前に空襲の記憶の方を補足した。こうなると話が反れたまま発展してしまうのが元自衛官で現役のDJの習性なのは順子も解っている。
「俺はどちらかと言えばベトナム戦争の時の北爆の記憶の方が強いな。あれもベトナムの共産化を阻止するための正義の攻撃だったはずだが、ベトナム戦争はアメリカや日本のマスコミが言ってるような構造ではなかったようだ」「あの頃、貴方はベトナム戦争に反対している人たちが敵だったんだけど、どこかで勉強したの」「うん、モリヤ閣下に教えられた」夫婦の会話は反れたまま弾んできた。島田元准尉は地方ローカルFM局のDJとして公共電波に乗せて情報を発信するため放送前の事実確認を怠らない。大概は市の図書館に通い、インターネットで検索して調べているが、戦後史となると世に知られていない最高権威の世話になっている。それは今では陸上自衛隊教育訓練研究本部で部長を務めるモリヤ佳織将補の夫のモリヤニンジン元2佐なのだが、本人はオランダで暮らしているので東京のモリヤ将補を通じて問い合わせている。モリヤ元2佐によるとベトナムは第2次世界大戦でナチス・ドイツに降伏したフランスの植民地だったため他の東南アジア各地域のように独立に向けた政治機構と法制度の整備や国土建設と産業育成、何よりも国民の近代教育に着手することができなかった。ところがヨーロッパで連合軍の反攻が始まってベトナムのフランス軍が敵対すると一瞬のうちに放逐・占領して現地人の独立軍の育成に着手した。しかし、日本の降伏=敗戦が早かったため軍事組織は未完成の状態でフランス軍の再占領が始まり、多くの日本軍の将兵が独立軍の将兵育成と抵抗戦闘に参加した。この独立軍が建国したのが北ベトナムであり、南ベトナムはフランスによって樹立され、インドシナ戦争に敗れて撤退すると共産主義による統一を阻止するためにアメリカが軍事介入したと言うのが本当のベトナム戦争の構図らしい。ところが日本のベトナム戦争反対運動の活動家やマスコミは中国共産党の東南アジア支配を拡大することを目的にアメリカの軍事行動を妨害していたので島田3曹(当時)も北ベトナムを滅ぼすべき毛沢東の傀儡政権だと思っていたのだ。しかし、史実を知っても平和な名古屋で男女のデモ隊がギターを弾きながら反戦歌を合唱していた姿を思い出すと無性に腹が立ってくる。
「今回は鉛を混ぜたコンクリートを詰めた1トン爆弾で破壊された原子炉を埋めてしまう作戦だ。レーザー誘導の精密爆撃する成能はアメリカ軍のBー2がトップなんだろう」「ソ連はチェルノブイリではどうやってコンクリートを運んだのかしら」何度目かの間をつなぐ解説で「鉛を混入したコンクリートで原子炉を埋設する放射能の遮断方法はソ連がチェルノブイリで行った対策の踏襲・模倣だ」と聞いた夫婦は相変わらず違う視点から意見を述べ合った。この島田元准尉の見解は先ほどの順子の感想への回答になっているのだが、関心は別に移っていた。尤も夫婦の日常会話とはぞのようなものだろう。
「これで11回目になります。東京からの情報では現時点までBー2が投下した爆弾は全て原子炉内に命中しているそうです」テレビの画面は3ヶ所の原子力発電所にコンクリート詰め投下弾を投下し終えた3機のBー2が琵琶湖上空で編隊を組んで通過する光景が映っている。かつて中国の細菌兵器=新型コロナが急拡大して懸命の対応を続ける病院の医療関係者を激励するため航空自衛隊のブルー・インパルスが首都圏上空を編隊を組んで飛行したが、この3機のBー2の編隊は自ら人命を救う大きな貢献を果たしているはずだ。国営放送のアナウンサーはそのことには全く触れていない。島田元准尉は次の放送でこの事実を指摘しようと考えた。
「アメリカ軍ではこの作戦をホールインワン16と命名しているようです」「なるほどピッタリなネーミングですね」続く間をつなぐ解説で国営放送は妙に軽い話題でお茶を濁した。
  1. 2022/09/04(日) 15:03:48|
  2. 夜の連続小説9
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