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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ239

翌日、昭和一郎=島田元准尉が次の放送のため市内のローカルFM局に顔を出すとラジオ・メールが殺到していて、長いつき合いになっているアシスタント・ディレクターの女性がプリント・アウト(印刷)しておいてくれたメールは束になっていた。
「最近は老人ホームが新型コロナで入所者同士の接触を制限しているから僕のラジオのリスナー(聴取者)が増えているとは聞いてたけど、年寄りはメールができないからリクエスト数には反映されなかったんだよな」「どこかのホームでスマホの講習会でもやったのかしら」女性ディレクターは以前、届いたメールを先に通読していたが、昭和一郎に「自分宛てのメールを先に読むのは信書の秘密に抵触する」と叱責されて以来、プリント・アウトするだけにしている。このディレクターは平成になって間もない生まれなので昭和的日本人の美意識は知らないはずだが、家にはいない祖父の世代の昭和一郎の薫陶を受けたおかげで絵に描いたような日本女性に脱皮して幸せな家庭を築いている。
「ふーん、こうしてラジオ・ネームに目を通すと若い世代が多いようだね」「キラキラ・ネームですか」「それじゃあお手上げだが、今人気のタレントの名前を借りたのが多いな」説明しながら昭和一郎はメールの本文を速読し始めた。女性ディレクターが机の反対側の席で顔を観察していると表情が次第に険しくなってきた。以前も加倍政権が安全保障関連法案を国会に提出して大手マスコミが徹底的な批判を展開した時、教員に岐阜市内での反対デモに誘われた高校生から意見を求めるメールが届き、昭和一郎は市役所の担当者から政治的発言は禁止されていたため日時と市内の場所を指定して直接話し合う機会を設けていた。それは日韓日中の武力衝突でも繰り返されたのだが今回は理由が思い当たらない。
「市内の中学高校では今回の破壊された原子炉をコンクリートで埋設する作戦をアメリカ軍が北朝鮮を攻撃する口実だったと教育したらしい。最近はテレビでも自衛隊を悪者にする報道は目立たなくなっているが、学校の教員の洗脳教育は止められないようだ」「北朝鮮のミサイル工場の爆発はアメリカ軍が巡航ミサイルで攻撃したなんて北朝鮮と中国が後で発表した通りじゃあないですか」昭和一郎から受け取ったメールに目を通した女性ディレクターも口元を歪ませて非難の声を上げた。ただし、このメールを送ってきた生徒はスマートホンでの報道サイトが絶賛しているアメリカ軍のBー2の戦果と教員の見解があまりにも掛け離れているため先輩たちから申し送られている昭和一郎に助言を求めてきたらしい。
「三重県の鈴鹿山脈の高圧電線で陸上自衛隊が高架の上で銃撃されて犯人を射殺した時も市役所の職員や学校の教員が『自衛隊による殺人事件』ってビラを市内で配っていましたけど」「あの事件は結局、名古屋の弁護士団体が刑事告発したから裁判になっているよ。そんなことは新聞の隅に小さく載っただけだったがね」鈴鹿山脈を越える高圧電線電の保安用指向式散弾地雷・クレイムアの点検・補修のため松本から派遣されていた安川2尉以下の山岳レンジャーが高所作業中に鈴鹿スカイラインから銃撃を受け、田中1曹が上腕部裂傷の重傷を負い、逃走した犯人の車両を道路上で警備に当たっていた岡野3曹が銃撃して実行犯を射殺した事案は名古屋市の弁護士団体が「殺人罪」で刑事告発したため裁判になっている。しかし、防衛省・陸上自衛隊が依頼したモリヤ元2佐の盟友・牧野弁護士の「物的証拠は全て警察が管理しているから隠滅の可能性はない」と言う主張が認められて被告人となった岡野3曹は松本駐屯地内で生活し、形式的に警務隊の監視下に置かれている。
「本当は戦略爆撃機も災害派遣で活躍することがあるって話をしたかったんだが、これだけ同じ内容のメールが集まっているとこちらを優先しない訳にはいかないな」「政治色抜きで話せますか」市役所の担当者は「地方自治体は政治的中立を保たなければならない」と言う建前で政治色を帯びた発言を禁止しているが、実際は職場の公務員労組の批判や反戦平和運動に参加している市民からの苦情を懼れているのだ。また市内での懇談会の案内で終わりそうだ。
「この曲は平成の歌ですけどどうしましょう。学校で教員が教えている曲だそうです」「何って歌だい・・・中島みゆきのノーバディー・イス・ライトかァ、聞いたことないな」ここで女性ディレクターがメールに記されているリクエスト曲を採用するかを相談してきたが、基本的にフォーク嫌いの昭和一郎は知らなかった。そこでディレクターはパソコンを操作してインターネットでこの曲を検索するとスタジオのヘッド・ホーンに接続した。
「ノーバディー・イズ・ライト、ノーバディー・・・(16回)、もしも私が全て正しく とても正しくて周りを見れば・・・争う人は正しさを説く 正しさ故の争いを説く その正しさは気分が好いか・・・」この曲を反戦歌と聞いた昭和一郎は「挑戦者たち」の「地上の星」「ヘッドライト・テイルライト」以来、比較的好きになっていた中島みゆきに幻滅してしまった。
エリナ・86・5・28(FM沖縄)イメージ画像
  1. 2022/09/05(月) 15:03:15|
  2. 夜の連続小説9
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