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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ243

「屯田くん、対馬はどうなってるんだろうね」屯田局員が栗野地区でも奥まった山間の集落に行くと庭の井戸で収穫してきた野菜を洗っている夫婦が声を掛けてきた。井戸の脇に山積みになっている野菜の量から見ると軽4トラックの荷台では目一杯だったはずだ。それはこの夫婦が畑を耕し、種を蒔き、水を撒いて草を引き、収穫した農作業の成果であり、この地での耕作に熟練してきたことの証明でもある。そんな夫婦が今更のように対馬の耕作地を心配するのが農家の出身ではない屯田局員には意外だった。
「対馬へは郵便物が送れない状況は続いています。空港や港は韓国人が押えていて日本の飛行機や船が近づくと鉄砲を射ってくるから危なくて何もできないみたいです」「自衛隊が攻撃して奪い返せば良いんだ。やまねこ軍団も九州でお巡りさんの手伝いじゃあ身体が鈍ってしまうだろう」立ち上がった夫は腰に提げているタオルで手を拭いて広告の封筒を受け取りながら言葉を荒げた。陸上自衛隊対馬警備隊=やまねこ軍団は全島民の避難を見届けて撤退し、西部方面隊の直轄部隊として治安出動の警察業務に当たっている部隊を支援しているが、それは対馬島民が期待していたことではない。それではやまねこ軍団を対馬に踏み止まらさせて残留した韓国系島民を拘束し、救出名目で襲来するであろう韓国軍と死闘を演じるべきだったのかと言えばそこまでは期待していない。やはり庶民には自衛隊員に「生命を捨てて戦え」と命じるのは重過ぎる。できるのは無責任な扇動に呼応するところまでだ。
「そう言えば対馬ヤマネコの剥製が韓国のネットで売り出されていましたけど大丈夫なんですかね」「ヤマネコが・・・太郎は無事かしら」郵便物を渡した屯田局員が局長がインターネットの通信販売サイトで発見した対馬関連の情報を伝えると井戸のポンプの射出口で野菜の土を洗い流している妻が顔を上げて怯えたように答えた。そこに封筒を家の中に置きに行った夫が戻ってくると「お父さん、太郎が」と泣きそうな声で訴えたので、対馬ではヤマネコに名前をつけて可愛がっていたらしい。対馬に残留した韓国人は日本人が移住すると2度の元寇や1419年の対馬侵攻を再現するように略奪と破壊を開始した。ヤマネコ保護センターに展示されていた剥製が高値で売れたことに味を占めて、飼育されていたヤマネコを殺して剥製として売り出したのに続き、インターネットで注文を取って販売するようになっている。ヤマネコの剥製は韓国国内では対馬を奪還したシンボルとして人気を集めているのでサイトは継続しているようだ。この事実を一般市民から指摘された日本の動物保護団体は無視を決め込み、非難声明すら発表していない。所詮、反戦平和=反核団体が批判するのは今は昔話になったアメリカとの戦争であり、人権団体は日本国内で粗探しした不平不満であり、環境と動物保護団体は日本人による環境破壊や動物虐待であって中国や韓国が犯す問題行為には関知しないのだ。
「加光寺の和尚はこの戦争は細く長く続くって言ってるけど最近は戦争中とは思えないよな」屯田局員は配達を終えて栗野局に戻りながら色々考えた。加光寺の傍樹森蔵和尚はフランス外人部隊の下士官としてフランスが介入したアフリカ各地や東欧の武力紛争で多くの実戦を経験している。、その壮絶な戦争体験では小説や映画で描かれるような戦闘は長い駐留期間のホンの一部に過ぎず、マスコミ報道はその部分だけを取り上げるので平和な場所で読む者は誤解するのだと言う。しかし、屯田局員は今日もバイクで粟野地区内を走り回って郵便物を配達し、郵便ポストで回収した郵便物を持ち帰って宛先に発送する。この以前と何も変わらない日常を過ごしていると銃撃を受けたことの方がフィクションに思えてくる。傍樹和尚は戦地で「毎日同じように巡回していた街角で突然銃撃を受けて仲間が死んだ」と言っていたが一歩間違えば屯田局員が同僚たちに思い出話として「突然銃撃を受けて死んだ」と語られることになったのかも知れない。何も変わらない日常生活の中で目に見えない戦争の気配が漂ってきているのではないか。銃撃を受けた時には先ほど対馬の心配をしていた夫婦が住む集落に続く森の中の道をバイクで走らせていた。傍樹和尚が言う通り、この地域が日本に潜入する韓国軍特殊部隊の上陸地点なら目の前の風景のどこかに潜み、こちらに銃口を向けている可能性がある。あの時、身を守ったのは傍樹和尚に習った銃撃を受けた時の回避行動だった。
「お疲れさまです」「おう、屯田くん。今日は無事に帰ってきたね」栗野局は海辺の山村の栗野地区でも漁港の一角にある。そのため帰るには山の谷間から海が見渡せる別世界の風景に入り、列車が滅多に通らない山陰本線の栗野駅前の集落を抜けていく。その途中にある駐在所の前で軽のパトロールカーでの巡回から戻ってきた警察官が声をかけてきた。この警察官とは銃撃事件以来、戦友のような気分で接している。
「あれから危ない人間は来ていませんか」「若狭湾の原発を使った核攻撃が失敗に終わったから次は島根原発を狙うんじゃあないかって警戒しているよ」やはりプロの意識は違うようだ。
  1. 2022/09/10(土) 15:38:19|
  2. 夜の連続小説9
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