「レイプに夢中で反撃どころじゃなかったわね。跆拳道と他流乱取りし損なって残念」3人目の男が知愛の上に倒れるのを足で蹴って防いだ男子はサングラスを外した。それは本間郁子だった。格闘技の練習相手の松山裕美は極真会館の大会で跆拳道と対戦して負傷しながらも勝利したらしい。だから是非とも跆拳道とは一戦交えてみたかったのだ。
中国系華僑を担当している本間は岡倉と杉本とは別行動なので半島人の疑惑対象にはなっておらず単独で潜入していた。ただし、韓国語は不得手なので最近は脇に追いやられている中国系の参集者に紛れ込んでいて、背負われて運ばれて行く女性に気づき、杉本に見せられている韓国の愛国サイト「日本人女を慰安婦にしろ」と同じ行為がアメリカでも行われる現場を確認に来ただけだった。しかし、被害者が岡倉の妻・知愛と気づいたため救出に動いた。
「コイツも死んでるね。だったらアイツの靴に血をつけなくっちゃ」本間は男根を勃起させたまま倒れている3人目の男を仰向けにすると跳び上がって左胸に右膝から落ちた。細身で体重が軽い本間でも40キロはある。それが右膝の一点にかかれば相当な衝撃になる。
バキッ、鈍い音がして膝は深くめり込んだ。同時に男はもがき苦しんだ後、手足を痙攣させた。折れた肋骨が心臓に刺さり、機能停止したようだ。すると本間は3人目の男の右足の革靴を脱がして爪先に元兵士の鼻血を着けた。これで知愛をレイプする順番の争奪戦で顔面と胸部を蹴り合い、それが互いに致命傷になったと言う無理な筋書きができあがった。入口でスマートホンの男に射ったのはアフリカのコブラ科の毒蛇・マンバから採取した神経毒で過度の興奮状態から心不全を誘発する。自然界の成分なので鑑識の化学反応では検出されない。
「さてと旦那が来る前に服装を整えなくちゃ」本間は男3人の死亡を確認するとトイレの奥に投げ捨ててある知愛の下着とスニーカー、トレーナーとGパンを拾ってきた。本間は背負われていく女性が着ているトレーナーが花見の時に岡倉の妻・知愛が着ていた桜色だったことで疑念を抱き、すれ違うように接近して顔を確認した。すると意識を失って目を閉じていても知愛だった。本間もバンコクで路地に連れ込まれてムエタイにノックアウトされてレイプされかけたことがある。あの時は杉本に救ってもらったが、ここに岡倉はいない。このままでは岡倉を心から愛し、国を捨てて夫婦になった知愛が散々に性玩具にされて、その一部始終が韓国の愛国サイトに掲示されて世界中の男の欲情解消の材料にされてしまう。本間はニューヨーク市内のコリア・タウンに行っている岡倉の携帯電話に連絡すると公衆トイレに向かった。
「失礼・・・」本間は意識を戻さない知愛の脇にしゃがんで先ず下半身に下着をはかせた。黒い陰毛は本間も同じだが腰から尻、腿への曲線は女体の美を体現しているようだ。それにしてもスポーツ下着は本間も同じだ。やはりWACには共通アイテムなのかも知れない。
「綺麗・・・杉村(岡倉の偽名)が惚れ抜くのも当然ね」次は乳房に下着をつけた。筋肉質で脂肪分なしの自分に比べると知愛のアジア人女性らしく控え目でも柔らかな乳房は同性ながら見惚れてしまう。それでも夫の杉本は不満を言わず念入りに愛撫してくれるので安心している。その一方で本間の胸の膨らみが乏しいのは髪を短くて帽子をかぶれば少年に見える便利なところもある。今日もそれを利用して怪しまれずに接近できた。
「うん・・・」本間がGパンをはかせるのに苦労していると知愛が意識を戻した。両足をズボンに通して尻から腰に上げるには多少でも浮かさなければならず女の片手では無理があった。
「きゃッ、貴方は誰、私に何をしているの」朦朧としている意識が鮮明になってくると知愛は目の前でGパンを引っ張っている本間をレイプ犯の少年と間違えて突き倒した。
「知愛ったら」突き倒されて元兵士の遺骸の上に腰を下した本間は呆れて声をかけた。心臓が止まれば鮮血は吹かないので、こちらを見ている顔ではすでに凝固が始まっている。本間に名前を呼ばれた知愛は顔を注視すると「今田(本間の偽名)ね」と安堵した表情になった。
「どうして私、裸にされてるの・・・まさか」「大丈夫、何もされてないわ。でも危ないところだったのよ」次に知愛は脇に転がっている2人の男の遺骸が下半身を露出しているのに気づき両腕で胸を抱いて凍りついた。高校時代に同級生の売春を斡旋していた照子に騙されて純潔を失って以来、心から愛した愛知大学の先輩留学生・中央道(ゾン・ヤオドオ)以外にも多くの男性が身体を通り過ぎていた本間でさえ、タイでレイプされそうになった時には女性として存在することも否定したいほど打ちひしがれた。ましてや純潔を捧げた岡倉の妻となっている知愛であれば例え未遂であっても耐え難く汚らわしい出来事のはずだ。
「知愛、大丈夫か」知愛が服を着終わり、トイレの鏡で髪を整えて本間と外に出るとパトロール・カーの警告音が聞こえてきた。間もなくパトロール・ランプを点灯させたまま広場の横の路上に停車し、警察官と岡倉が走ってきた。岡倉はタクシー代わりに使ったようだ。
- 2022/09/24(土) 15:28:01|
- 夜の連続小説9
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