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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ258

「私は韓国語に堪能なので雑誌記者の夫の仕事に役に立つのではないかと思って演説を聞きに来たんです」知愛は被害者として警察で事情聴取を受けた。警察には松山1佐を通じて日本大使館の防衛駐在官・帖佐将補が手を回しているが3人死亡した暴力事件の参考人にもなっているので回避することはできなかった。そのおかげで警察病院の診断を受け、意識を喪失した時の後頭部の打撲と軽度の頚部の捻挫と診断されたものの性的暴行を受けていないことは証明された。知愛はパスポートを携帯していないことを叱責されたが「反日集会なので日本人であることが発覚して奪われることを警戒した」と言う弁明で警察官は納得してくれた。
「君は女性だったんだね」「失礼な、これでも妻ですよ。籍は入れてませんけど」別室では本間が目撃者として聴取を受けていた。机を挟んで向かい合ったベテラン警察官は帽子を取った本間の顔とパスポートを見比べながら率直な所見を口にした。化粧気がなく髪は耳の下までのショートボスにしていて灰色のトレーナーを着ている本間はやはり少年にしか見えない。
「日本人の君が反日集会に参加していた理由は何だね」「私は彼女の夫と同じ雑誌社の記者なので取材として潜入していました」「彼女と一緒にかね」「いいえ、彼女が来ていることは知りませんでした。彼女の夫は妻を非常に大切にしているので許すはずがありません」本間と知愛の証言はトイレで手短に申し合わせているが、岡倉の愛妻家は日常的に感じている本音だった。
「それでは彼女が拉致されてトイレでレイプされているのをどこで知ったのかね」「彼女はレイプされていません。そこは間違わないで下さい」本間の抗議を兼ねた指摘に警察官は机の上の書類の中から医師の診断書を見つけ出して確認した。
「私もトイレに行ったら男たちが倒れていて驚いたんです。そうしたら中から怒鳴り声と殴り合う音が聞こえてきて、覗いたら男が3人倒れていて床に彼女が裸で寝かされていたんです」「男たちは死んでいたのか」「いいえ、奥の2人は呻き声を吐きながらもがいていましたが間もなく痙攣を始めました」「流石は雑誌記者だけに冷静な観察だな」ベテラン警察官は本間の暴行への加担を疑ったようだが、見えている細い首と肩、膨らみがない胸を見て首を振った。
その時、取り調べ室のドアがノックされて別の机で証言を記録していた若い警察官が開けた。若い警察官は短いやり取りの後、受け取った書類をベテラン警察官に手渡した。ベテラン警察官は書類を速読しながら妙に口元をゆるめた。
「男たちの死因は1人が胸部を強打して折れた肋骨が心臓に刺さったこと、もう1人は顔面でも鼻部を強打して折れた鼻骨が脳髄を損傷させたこと。無傷の1人は急性心不全と言うことだ。君も雑誌記者ならこんな死因はあり得ないと思うだろう」本間もかなり無理があることは認識していた。殴り合っていた2人の片方がこの死因ならあり得るのかも知れないが、相打ちで致命傷を与え合うことは一撃必殺を標榜する極真会館でも不可能と言って差支えない。
「私は雑誌記者として韓国の跆拳道を取材したことがありますが、彼らの蹴り技は世界最強で一撃で相手を殺す威力があると豪語していました。だからお互いに放った一撃が致命傷になって同時に死んだのかも知れません」「ほう・・・跆拳道かね」本間は格闘技の練習中に松山裕美から大会での対戦相手だった跆拳道の選手の技を再現してもらって対抗策を研究したことがあるが、実際に体験したムエタイに比べれば格段に落ちると思っていた。蹴りの軽さは香港カンフーと共通する少林寺拳法並みでも派手な大振りの分、防御は簡単だ、しかし、ここは嘘でも跆拳道に罪を着せなければならない。
「つまり2人は跆拳道経験者で、その蹴り技で死亡したと言うんだね」「韓国軍では護身術として跆拳道を習いますから徴兵で経験したんでしょう」「なるほど助かったよ。仕事が片づいた」本間の見解に半信半疑のはずのべテラン警察官は皮肉に笑うと手を差し出して本間に握手を求めた。警察としても反日デモには手を焼いているようだ。
知愛は家に帰るとシャワーに駆け込み、ノズルからの水が湯になるのを待たずに全身を洗った。診察で性器を確認した女性医師は「レイプの痕跡はない」と断定したが、意識を取り戻した時に本間がGパンを履かせていた以上、岡倉にしか見せたことがない裸身を男たちに晒したことになる。肌に違和感はないが手で撫で回し、唾液を全身に塗り込められた可能性もある。知愛にとってはそれだけでも重大な汚辱だった。
「貴方、ごめんなさい。私・・・」「俺の命令に従わなかったのは残念だな・・・俺はお前には十分助けられているんだ。それを自覚しろ」その夜、ベッドに入った岡倉と知愛は仰向けに寝て窓明かりに照らされた天井を見ながら対話した。固く閉じた知愛の目から涙が零れると岡倉が覆いかぶさって唇を重ねてきた。差し入れられた舌を知愛は受け止め、返した舌を岡倉が噛んだ。寝る前に岡倉は杉本提供の特性栄養ドリンクを飲んでいた。
続・亜麻色の髪のドール・モリオ理美 イメージ画像
  1. 2022/09/25(日) 15:24:32|
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