「総理に伺います。昨日、陸上自衛隊中部方面隊が原子力発電所から流出した放射能で汚染された地域に入り、多くの犠牲者の悲惨な遺骸の写真を公表しましたがご覧になりましたね」「内閣総理大臣、石田史雄くん」翌日、国会の衆議院予算員会では立権民衆党の湧水元太代表が質問していた。実態は社会人民党が看板を掛け替えたに過ぎない立権民衆党は治安出動した自衛隊が在日中国人を一斉捜索して中国が配分していた拳銃を迅速に押収して暴動・内乱を阻止していることを妨害するために災害派遣を利用しようとしている。
「はい、マスコミで公表された写真では見た方のPTSD発症防止と個人情報保護の観点から顔などは加工処理していましたが、私はそのままの画像を全て見ました」石田首相は湧水代表がテレビや新聞でしか遺骸の画像を見ていないことを皮肉にして答えた。実際、広島で生まれ育った石田首相は幼い頃から反核平和教育として被爆者の焼け焦げた遺骸や焼けただれた負傷者の写真を見せられていたが、外傷もなく死んでミイラ化した犠牲者たちの遺骸は日常生活がそのまま死の世界に運び込まれたような臨場感があり、背筋が凍りつく思いがした。
「湧水元太くん」「私もマスコミ関係者からそのままの画像を見せてもらいましたから総理が受けた衝撃は共有しております。そこで質問です。総理はあのような悲惨な遺骸をそのまま放置しておいて良いと言うお考えなんでしょうか。これまでも遺族たちは生存を切実に願いながら自衛隊が治安出動を優先して放置していたから諦めざるを得なかったんです。だから今回、自衛隊が現地に入ったことで遺骸が回収され、哀しい対面にはなりますが葬儀を執り行い、墓地に埋葬できると期待しているはずです。総理の口から『それが実現する』と約束して下さい」湧水代表は先ず石田首相の皮肉を打破することから始めた。それを質問の形を取った約束につなげたのは皮肉が奇襲だっただけに中々の反射神経だ。
「石田総理大臣」「遺族となられた方々の無念さは察するに余りあるものがありますが、残念ながら現在の自衛隊には核戦争に対処する専門部隊は存在しません。それは民政党政権が対処した福島原発の事故の時にも問題になりましたが、その後の野畑政権も放置したまま手つかずにしておりました。福島原発では炉心冷却のために航空自衛隊の化学消防車や陸上自衛隊のヘリコプターが放水を実施しましたが、隊員の放射能による健康被害は無視していました」ここで釜田防衛大臣が手を上げて委員長が指名した。
「釜田防衛大臣が発言を求めております。釜田防衛大臣」「現在、陸上自衛隊は第2次加倍政権下で関連装備品の導入を進めてきましたが専門部隊を設立する段階には至っていません。私も災害派遣中の中部方面隊に対して遺骸の収容の検討を命じましたが、今回の現地偵察で地上の放射線量が想像よりも高いことが判明したため保留しました」やはり釜田防衛大臣は独断で中部方面隊に遺骸の収容を命じたのであり、その命令の強制力を強めるため自分が石田首相の叱責を受けたことにしたようだ。釜田防衛大臣は前回の崇神航空幕僚長の作文問題でも記者のインタビューを受けると怒りを露わにして懲戒免職に言及したが、官僚から法令・規律違反がない懲戒免職は違法行為になると説明されて解任に変更したもののそれも無理と判って自主退職を強要している。マスコミ受けを探知するアンテナは父親譲りでも上滑りする傾向があるようだ。この答弁も石田首相があえて福島原発での放水に参加した隊員の健康被害を指摘して先走った命令の落とし所を作ってもらった。勿論、これが民政党の残党である立権民衆党の追及に対する予防策なのも確かだ。
「湧水くん」「先ほど防衛大臣は遺骸の回収を検討するように命じたと説明されましたが、結局、防衛省・自衛隊は今後も犠牲者の遺骸が鳥に啄(つい)ばまれ、野犬や野良猫に喰い千切られていくのを放置すると言うのですね」「釜田防衛大臣」「我々は東北の震災の犠牲者の慰霊を憲法違反の宗教行事として自衛隊だけでなく遺骸を保管している自治体にまで禁止した民政党政権とは違い魂魄に礼を尽くす気持ちは持っております。だから一刻でも早く遺骸を回収して遺族の元に送り届けて差し上げたいと願っているのです」「我々だって慰霊はするぞ」「加倍首相の国葬に反対したじゃないか」釜田防衛大臣の答弁に野党の委員席から野次が飛ぶと自民党の席から厳しい口調の反論が投げ返された。2022年に加倍元首相が暗殺されると海外から弔問の問い合わせが殺到したため石田政権は国葬の開催を決定したのだが野党の半分と市民団体が激しく反対して当日まで抗議活動が繰り返したことで海外に日本の分裂を喧伝する結果になった。正に死者を鞭打ったのだ。
「石田総理大臣」「ここで私から補足させていただきます。昭和20年の広島では被爆直後に市内で救援活動を行っていた陸海軍の将兵の多くが放射能障害を発症して死亡しております」やはり石田首相の認識はあくまでも被爆地「ヒロシマ」が基準のようだ。
- 2022/09/28(水) 14:59:05|
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