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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ268

「栄養点滴だけで生きていても大便は出るんだよな・・・」「便は腸内の老廃物でもあるから、まだ新陳代謝している証拠よ」母が買い物に出ている間に父が排便したため梢が紙オムツを交換した。介護を始めた当初は父も娘に男性器を見られ、便を処置させることを羞恥して母を呼んでいたが、仮眠中だったことが重なると素直に任せるようになった。
梢は医者から指導されているようにゴム手袋をはめると淡々と湿った医療用ティッシュで肛門と睾丸、男性器を拭き、液状の便の色と内容物を確認してオムツを包むと容器が置いてあるトイレに行き、ついでに採尿管につなげた袋に溜まった尿も捨てて戻ってきた。
「昔は入院している先輩を見舞って同室の患者がオムツを交換されているのを見て『あんな惨めなことにはなりたくない』と思ったものだが、入院すればベッドに寝かされて流れ作業で否応なしにオムツを履かされていたよ」「女は子供のオムツを交換するから抵抗がないのよ。だから若い看護師にも淡々と処理できる本能が備わってるのかもね。その点、旦那さんは淳之介を育てているから大丈夫よ」モリヤは幹部候補生学校に入校中、美恵子が理容師の仕事に熱中して育児放棄したため3歳になっても失敗することがあった淳之介の排尿と排便を躾けている。そのためなのか淳之介も視覚障害者のあかりに代わって恵祥といりえのオムツ交換とトイレの躾けに励んでいた。実はその前にも2人で久米島に行った時、海が大荒れで梢は酷い船酔いで吐き続けることになったが、モリヤは嫌がることなく洗面器に吐いた汚物を小まめに片づけてくれた。今思えば遠い将来、2人が老々介護になっても大丈夫なつれ合いになることを実証する経験だったのかも知れない。
「ところでお前はモリヤさんをウチに泊めることになった時、性的能力は拘置所生活のストレスで失くしてしまったと言っていたが、折角、一緒に暮らせるようになってもそっちは駄目か」排便処理が終わり、再び梢が枕元の椅子に腰を下ろすと父は男性器に触れさせたからなのか唐突に立ち入った質問をしてきた。普通は父親にとって娘の性的経験は認めたくない事実であり、新婚旅行から帰って来宅した時、娘が眠そうにしていると母親は安堵し、父親は嫉妬すると言われている。しかし、梢の場合、モリヤに久米島で純潔を捧げて以来、絆を確かめるように肉体関係を重ねていたはずが両親と伯父母によって引き裂かれ、それに付け入った谷茶に強姦された上、脅迫を受けて結婚することになった。若し、モリヤに再び抱かれることができなければ梢の性的経験は谷茶に汚されたままになる。父親としてそれは辛過ぎる。
梢は高校では労組の活動家の教員に苛められていたが品行方正な優等生で、親の目で見ても美少女だった割に男女交際の経験はなかった。それが説明されても分らない切っ掛けでモリヤとつき合い始めると映画と史跡巡り、博物館通いのデートを満喫していた。そんな交際が続くと突然に母=妻が「梢がモリヤと久米島に一泊旅行すると言い出した」と八重山に電話をかけてきたのだ。やがて2人は梢のアパートで過ごすようになって週末同棲を始めた。母は父の単身赴任先に電話で報告していたが、帰宅時に梢を呼んで事情聴取すると真っ赤になりながらも正直に答えた。そんな様子を見て父は2人を八重山に呼ぶことを決めたのだった。
「実はオランダで暮らしていて一度だけあの人の・・・が起ったの。ベッドでよ。それであの人が・・・」梢は何故か恥じらった口調で説明を始めた。父が顔を向けると頬を真っ赤に染めている、こんな顔は帰宅して両親でモリヤとの交際を追及した時以来だ。
「つまりお前はモリヤさんのモノに戻れたんだな」「うん、旦那さんは私が人生最後の女になったって言ってるけど、法律的には離婚事由の不貞行為に当たるみたい。佳織を裏切ちゃった」父としては「妻に勝った」と思いたいところだが、妻・佳織と梢の義姉妹のような関係も理解不能なので安堵だけすることにした。それにしてもモリヤが性行為をする能力を喪失していることを前提にこの家では同室で眠らせ、オランダにも同行させたのだが、梢が言う通りならばその前提が崩れ、民法が定める不貞行為を犯し、何よりも妻の信用を裏切ることになった。
「それじゃあ不倫として妻には秘密にしてるんだな」「ううん、旦那さんが説明したわ。だから離婚も旦那さんからは請求できなくなって佳織を説得しようとしたのよ」この説明では梢も表情を引き締めた。日本の民法では不貞行為を犯した者が浮気相手と結婚する目的で離婚することを阻止するため請求権を認めていない。ただし、モリヤの場合は経緯、関係者などの事情が特殊過ぎて家庭裁判所が不貞行為と指弾する可能性は低い。先ずは理解不能だろう。
「ワシは70歳過ぎまで現役だったから次もあれば良いんだがな」「旦那さまは病的理由の性的不能だから無理よ。奇跡は1回だけで十分、あの1回で昔の絆が完全に戻って旦那さんも日本に残る決意を固めたの」梢の顔は恥じらいから幸せを噛み締める穏やかな微笑みになった。その顔を見て父の目からは涙が止め処(とめど)なく流れ始めた。
お・純名里沙イメージ画像
  1. 2022/10/05(水) 15:52:58|
  2. 夜の連続小説9
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