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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ280

「大きな荷物を持ってるわね。爆発物かしら」「250キロ爆弾の直撃に耐え得るシェルターを狙っているなら閉まっている扉の下から燃料を流し込んで放火する可能性があります。Fー15のジェット燃料に引火させれば爆発します」「なるほど・・・」玉城曹長は警衛副長と侵入者が映っている監視カメラの受像機の前に立ち、画像を注視しながら状況を分析した。
「おう、出番だな」そこに警衛副長が電話連絡した基地当直幹部の管理隊長が入ってきた。管理隊長は振り返って敬礼している玉城曹長に手を上げて応えるとカメラの前に並んで立った。
「音声でこちらが発見していることは伝えたのですが退去する様子はありません。あくまでもシェルター内のFー15を破壊するつもりのようです」「それで大荷物なんだな。しかし、シェルターの扉は飛行群のカード・キーと暗証番号を押さなければ開かないだろう」「おそらくガソリンなどを流し込んで放火するつもりなんでしょう。早く阻止しないと・・・」管理隊長の疑問には玉城曹長が請け売りで答えた。
「巡察車両で侵入者と同数の3名を急行させます」「今回は小銃と実弾を携帯させて下さい。後は鉄帽と防弾チョッキを着用させます」玉城増長が警衛隊長として指揮系統上の上司である基地当直幹部に報告すると横から警衛副長が補足した。
「実弾入り拳銃を持っている可能性があるから必要ね。許可します」「後は小銃と実弾を持った隊員を2名にキャブオール(小型トラック)で外柵の外の道路を確認させます」「どうして」「白昼堂々、監視カメラが設置されている基地に侵入してくる以上、敵は応戦する準備を整えていると考えるべきでしょう。下手すれば我々をおびき寄せているのかも知れません。おそらく拳銃以上に強力な武器を持っている。外柵の外に機関銃を設置している可能性も否定できない。そうなると警衛隊が保有している中で一番強力な武器で対処するしかありません」警衛副長の説明に玉城曹長は絶句し、管理隊長は満足そうにうなずいた。
「それから現時点でクレイムアの作動を準備します。隊長、営内者を呼集したいのですが」「うん、そうしてくれ」警衛副長は目で玉城曹長の許可を得ながら指揮権を代行した。すると警備職の若手空曹は警衛副長の指示事項を実施し始めた。
その手始めは警衛隊長が持っている実弾を収納してある金庫の鍵だった。若手空曹は玉城曹長から鍵を受け取ると警衛所の奥の書棚ロッカーの上の金庫の扉を開け、小銃の実弾の箱を取り出して中身の弾数を確認した。その間に警備職の空士が銃架の横の棚から小銃の弾倉を持って来て警衛副長の机の上で若手空曹と実弾を詰め始めた。ただし、若手空曹は小銃弾を横一列に並べて弾倉を押しつけて素早く装弾していくが、空士は指で詰めるので手間がかかる。
「よし、巡察車両で行く3名、鉄帽と防弾チョッキを点検」「異常なし」「小銃を渡す。銃点検」「1、2、3、シ―イ、5、6。異常なし」「実弾を渡す。弾数確認」やはり現場へは警備職の若手空曹と空士2名が向かうことになった。この隊員たちも警衛所内で管理隊長と玉城曹長に警衛副長が戦闘に発展する可能性を説明していたのを聞いていたはずだが当然のように出発準備を進めていく。これが第3術科学校の警備課程で「不沈空母・基地乗り組みの海兵隊員」として鍛えられ、使命感と言う覚悟を植えつけられた基地警備戦闘のプロたちなのだ。
「増加警衛の人たちも聞きなさい。警備職は今から侵入者対処に向かうのよ。不在になったゲートは貴方たちが守るのよ。それから半分は昼食を取ってないわね。残しておくから無事に帰るのよ」玉城曹長は出発の申告のため整列した3名の後ろで緊張した顔を向けている増加警衛の隊員たちにも声をかけた。この言葉にはどこか母心が漂っていた。
「侵入者、間もなくシェルターのフェンスに到着します。警告を継続していますが無視しています。巡察車両は間に合わないので8号3番のクレイムアを作動します」監視カメラ係の空士もキャブオールで出発させたため警衛副長が交代していた。千歳基地でも作動命令の権限は最初に使用した基地に習って警衛隊長になっている。そのため立ち会っている基地当直幹部の管理隊長も腕組みして怯えたような玉城曹長の顔を黙って見ていた。
「これで人が死んでしまうのね」「敵がです」「どうぞ」玉城曹長はすがるように管理隊長を見たが目つきを厳しくしただけだったので覚悟を決めた。警衛副長は呟くような玉城曹長の命令を受けて即座にスイッチを押した。その時、「プチッ」と口にしたのはご愛嬌だ。
ズーンッ、「クレイムア8号3番、作動」。ドーンッ「侵入者の荷物が爆発しました。炎上しています」「人間に燃え移ったようです。隊長(管理隊長)、元へ当直幹部、消防車と救急車を要請します」人間が火だるまになって転げ回っている監視カメラの悲愴な映像を報告しながら警衛副長は冷静に意見具申した。同じ映像を玉城曹長は「この惨劇を命じたのは自分なのだ」との自責の念に苛(さいな)まれて凍りついたように見ていた。
  1. 2022/10/18(火) 13:09:44|
  2. 夜の連続小説9
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