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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ282

「ポンッ、ポンッ・・・バーンッ、バーンッ。別の2名が手榴弾を投げようとしたので射殺しました」「そうか、正当防衛だな・・・手榴弾も持っていたか」続いて残った2人を射殺した銃声2発と4秒後に爆発音が2回、そして報告が入った。「手榴弾」は音読みで統一して「しゅりゅうだん」と呼ぶことも多いが、自衛隊では「てりゅうだん」と湯桶(ゆとう)読みにしている(=訓と音の組み合わせ。逆は重箱よみ)。
「こちらの監視カメラでは他に人影は見当たらないが、撮影範囲から外れた草むらに潜んでいないか」「キャブオールで近づいて確認してみます」「不審者が生きている可能性があるから手前から徒歩で接近しろ」警衛副長は無線機でキャブオールの隊員に指示を与えながら警衛隊長と基地当直幹部が不在になっていることに気づいた。一般的な基地警衛規則では職務執行の権限を警衛隊長に与えていても空曹への権限拡大を避けて不在時の代行者を規定せずに基地当直幹部の指示を仰ぐことにしていることが多い。つまり警衛副長が戦闘を指揮し、民間人と思われる3名を殺害させたことは規則を逸脱した越権行為になる。
警衛副長は防府の新隊員課程を卒業して第3術科学校の警備課程に入校する時、班長連中から「戦争ごっこのプロにされる」と嘲笑されたが、実際は課程主任を兼務する7課長の森田敬作3佐がアメリカ空軍の横田基地憲兵隊で学んだ基地警備戦闘に警察の機動隊の警備手法を加えた日本版航空陸戦隊課程だった。午前中は警察官職務執行法や刑法などの警備関係法令だけでなくベトナム戦争のゲリラ戦術や日本の成田紛争、最近のテロ事件などの警備史の座学を受け、午後からは基本教練と警棒・徒手格闘、ラッパや交通統制など練習の他には隊舎地区と雑木林での捜索と捕獲の警備訓練の繰り返しだった。空曹になってからのアドバンス(上級課程)ではそれらの指揮と弛まぬ研究を叩き込まれたが、そのプロの仕事が今回は行き過ぎたのかも知れない。銃を向け、手榴弾を投げようとした人間を射殺した行為は正当防衛と確信しているが、手順としての確認が不十分だった可能性はある。
「パラパラパッパッパー(何かが起きッたー)、パラパラパッパッパー」その時、一斉放送のスイッチを入れた雑音に続いて非常呼集ラッパが響いた。聞き慣れている呼集ラッパと違って調音2回の「訓練冠譜」がないので実動と言うことになる。管理隊長が基地司令から指示を受けて基地当直室に帰ってから多少時間が経っているが、警衛隊長の玉城曹長から新たな事態の報告を受けていたのだろう。それを続報として基地司令に連絡していたのかも知れない。
「増加警衛、ゲートを両側入門にする。1人は出門側の車線をセフティ・コーンで封鎖しろ」「はい」警衛副長は監視カメラの映像でキャブオールが現場に到着したのを確認してから増加警衛の隊員たちに指示を与えた。大規模な基地では正門ゲートを入出門用の両開きにしているが(小規模な基地は片側半開き)、正門前の道路事情が赦せば非常呼集が発令時は両側から進入させることもある。これが警備職であれば士長クラスでも「××します」と申告してくるのを受けるだけですむのだが、全員が増加警衛では事細かな指示が必要不可欠だ。
「そう言えば隊長は警務隊に連絡してくれたかな・・・」警衛副長は増加警衛を倉庫に連れていったセフティ・コーンを3個持たせて出門側の車線に並べさせるのを指導しながら大切なことに思いが至った。本来はクレイムアを作動させた直後に消防小隊と衛生小隊と一緒に警務隊にも連絡しなければならなかったが、映像とは言え火だるまになって死んでいく侵入者の悲惨な姿を目の当たりにしているとこの2つしか思い当たらなかった。そう言えば現場に急行する消防車と救急車のサイレン音は耳にしたが、その時はキャブオールの戦闘指揮に掛かり切りでそれどころではなかった。警衛副長が電話すると案の定、警務当直には連絡が入っていなかった。
「これは中国製の拳銃ではないな」「おそらくロシア製のPP19サブマシンガンでしょう」自宅宿直の警務当直の1曹は呼集された隊員たちに巻き込まれることを避け、外柵の外の現場に直行してキャブオールの隊員たちに合流した。警務当直は投げ損なって地面で爆発した手榴弾で損壊した不審者たちの遺骸の写真を撮りながら最初の遺骸が握っている銃器と手榴弾に気がついた。銃器は中国が日本国内に大量に持ち込んで在日中国人と半島人に内乱を起こさせようとしたM92拳銃=92式手槍ではなく自衛隊のM9に類する短機関銃だった。
「この手榴弾も自衛隊やアメリカの物ではないな」「これもロシア製のPGP5のようです」「今の警備の兵隊は凄いね。そんなに勉強してるんだ」警務当直は見たこともない銃器の名称を次々に口にする警備職の若手空曹に感服したように声をかけた。その後、シェルター付近の現地検分=現場検証でも短観銃と手榴弾が発見されたので侵入者はFー15戦闘機の破壊と同時に警衛隊員をおびき寄せての殺害を狙っており、今までの破壊工作から一歩踏み出した本格的基地攻撃だったことが推察された。玉城曹長が自責の念に思い悩んでいる場合ではなかった。
  1. 2022/10/20(木) 15:13:31|
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