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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ328

「本日、午前9時3分に発令しましたJアラームについてご説明させていただきます」首相官邸では立野官房長官がロシアの弾道ミサイルの発射を探知したのと同時に発令した全国瞬時警報システム・Jアラームについての記者会見を開いた。立野官房長官としては海上自衛隊による撃墜成功を大々的に発表して国民の不安を払拭したかったが、第一報を後回しにされたことを察した石田首相は撃墜成功の続報を受けて「大本営発表にするな」と釘を刺した。
「北朝鮮のミサイル工場が再稼働したんだな」「随分と早いな。今はロシアも余裕がないだろうに」出席している記者たちは「Jアラーム=北朝鮮の弾道ミサイル発射」と言う固定観念を持っているためアメリカ軍の若狭湾原発の原子炉封鎖作戦の時に組み立て工場、若しくは格納庫が爆発事故を起こして以来、途絶えていた弾道ミサイルの発射再開と受け取っていた。
「本日、午前9時3分にロシアが我が国に対して中距離弾道ミサイル4発を発射しました」「北朝鮮じゃあないのか」「ロシアです。発言は後ほど願います」記者の1人が話し合っていた隣席の記者に聞こえるように独り言を呟くとそれを耳にした立野官房長は念を押した。
「しかし、海上自衛隊のイージス護衛艦が迎撃して全弾撃破に成功しました」「ほーッ」念押しで他の記者たちが関心を示したのを見て取った立野官房長官がユックリとした口調で戦果を発表すると記者たちは感心したような声を漏らした。これは大本営発表のような戦意高揚ではなく不安解消の効果が絶大なはずだ。
「現場は防衛秘密に属するため公表できませんが、日本本土からは距離があるため破片等の落下はないでしょう。また護衛艦が周辺海域を確認しましたが民間船舶への被害もないようです」「場所くらい好いじゃないか」「護衛艦の配置を公表すれば攻撃目標にされてしまいます」今回も立野官房長官は記者の独り言に反応した。
「撃墜した護衛艦についても艦と乗員にとっては名誉なことですが発表は事態が終息してからとします」「イージス艦は何隻だったっけ」「10隻くらいじゃあないかな」大本営発表どころか全く中身がない情報提供に記者たちは苛立ち始めた。すると立野官房長官は表情を引き締めて深く息を吸うとテレビのカメラに向かって口を開いた。
「なお、イージス護衛艦は弾道ミサイルの迎撃任務を継続しますから国民の皆さまは安心して下さい。これ以上、お話しできることはありません」「それでは質疑応答に移ります」「防衛秘密に属する事項はお答えできないことはあらかじめ申し上げておきます」石田首相からは「大本営発表にするな」と言われたが情報隠蔽は禁じられていない。軍事常識を持ち合せていない記者たちも流石に「ロシア参戦」と言う緊急事態に立ち至っては平時の感覚で政府を批判することはできないはずだ。すでにテレビがこの記者会見を中継しているのだ。
「A日新聞の内山田です。ロシアが発射したのは核弾頭ではなかったのですね」「通常弾頭でした。したがって放射能汚染はありません」「それでも今後は限定的に戦術核兵器を使用する可能性はあるでしょう」「ロシアはウクライナ侵攻時に核兵器の使用で西側各国を脅しましたが、我々は屈することなくロシアの核を封じました。今回も西側各国は同様の対応をしてくれるものと確認しております」立野官房長官の回答は他力本願のようだが日本もロシアへの制裁に参加しているから半ば自力だ。流石に国民の不安を扇動することに全力を傾注しているA日新聞もその時の怨みを晴らされる危険性には触れなかった。
「M日新聞の前川です。航空自衛隊には弾道ミサイル破壊措置命令が下達されていなかったようですが海上には発令されていたのですが」「現在、海上自衛隊は海上における警備行動に基づいて行動しています。今回の措置は警察権における緊急避難の行使です」実は内閣府の情報衛星担当者から通報を受けた立野官房長官は護衛艦隊司令部と石田首相に続き釜田防衛大臣に連絡したのだが出勤直後の庁舎内移動中で連絡が着かず、内局の官僚の担当者も不在だったので決済=発令は迎撃に間に合わなかった。
「3K新聞の宮本です。ロシア軍には超々高速度の空中発射型のキンジャル中距離弾道ミサイルがあります。これを使用されると海上自衛隊のイージス・システムでも迎撃できないと言われていますがどうでしょう」「確かに現時点ではキンジャルは搭載している爆撃機を撃墜するしかありません」双木外務大臣と同じく立野官房長官も石田首相が興味を示さない軍事知識の吸収に励んでいるのでこの高度な質問にも答えることができた。逆に他社の記者たちが軍事に詳しい3K新聞の記者にキンジャルの説明を求めた。
「長官、別室にお願いします」その時、秘書官が会見場のドアを開けて声をかけた。記者会見を中座させると言うことは余程の事態だ。立野官房長官は睨むように視線を注いでくる記者たちを無視して足早に退室した。廊下では徒競争になった。
  1. 2022/12/05(月) 14:31:42|
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