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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ340

「ここから先は進入禁止だ」根室で第6高射群の3個高射隊が全滅させられた頃、稚内の第3高射群の展開地にも不審な男たちが乗った4輪駆動車が近づいた。しかし、稚内地区は防衛拠点として治安出動している旭川駐屯地の陸上自衛隊第52普通科連隊第2中隊の即応予備自衛官が警備している。根室でも同様に帯広駐屯地の第52普通科連隊第3中隊が派遣されているが、細長い地形のためレーダーサイトと展開地が離れていて第6高射群は自隊警備とされていた。
「猟銃が載ってるな」「これから鹿を射ちに行くんだ。市内の仲間を迎えに行くところだ」停車させた分哨長の堀井予備2曹はは運転手が「寒い」と窓を開けることを拒否したためスモークを貼ったガラスに顔を付けて確認した。すると後席には猟銃でも長いライフル銃3丁が載っていた。
「危ない、しゃがめ」その時、4輪駆動車の後ろに立っている森田謙作予備3曹が声をかけ、構えていた89式小銃を発砲した。後部ガラスに小さな穴が開き、車内では後部座席に座っていた男がのけ反ってドアのガラスに後頭部を打ちつけて崩れ落ちた。
「糞」運転手は捨て台詞を吐くと急発進して前に立ちはだかった堀井予備2曹をボンネットに乗せたまま逃走した。森田予備3曹はその場で膝射ちの姿勢を取ると車輪を狙って発砲した。続いて春木予備3曹も同じように発砲した。すると4輪駆動車は両方の後輪が破裂して尻を振るようにして停車した。同時に堀井予備2曹は前に滑り下りて身を隠した。
バババババ・・・、運転席と助手席から下車した男2人は立った姿勢のまま短機関銃を連射し始め、森田予備3曹と春木予備3曹はその場に伏せた。頭の上を弾丸が通り過ぎ、熱い空気の塊りが続き、銃声が念を押した。それでも距離が近いので全てほぼ同時になる。
「射殺しても良いかな」「短機関銃だろう。もうすぐ弾丸(たま)が終わるよ」アスファルトの路上に大の字に伏せながら森田予備3曹と春木予備3曹は顔を見合わせて冷静に話し合った。男たちは2人を射殺しようと銃口を下に向けているがその間も無駄射ちは続いている。
一般的に短機関銃の弾倉の装弾数は30発だが、ロシアのPP19には円筒形で64発装弾できるスパイラル・マガジンがある。しかし、千歳基地で押収されたのを皮切りにして北海道内で摘発されているPP19は全て通常のボックス・マガジンで30発だ。
「そう言えば堀井2曹が背後にいるな」「運転席のドアの向こうで見ているよ」頭を上げることは命取りなので路面に顔を着けたまま前を見ている2人は射撃に夢中になっている男たちの背後で堀井予備2曹が迫っているのを確認して苦笑を交わした。
「しまった弾丸切れだ」「動くな。銃を捨てろ」助手席の男が引き金を圧しても弾丸が出なくなったのに気づいて嘆き声を上げると顔を向けた運転席の男の背後に出た堀井予備2曹が威圧するように声をかけた。素人ではないので銃口を背中に圧し付けたりはしない。
「銃を捨てろ。射つぞ」バーン、堀井予備2曹は未練がましく短機関銃を放そうとしない2人の顔の高さに銃口を向けると発砲した。すると先ほどまで森田予備3曹と春木予備3曹の上で起きていた現象が数百倍の迫力で発生した。至近距離の上、89式小銃の5・56ミリのNATO小銃弾と9ミリのマカロフ拳銃弾の違いは圧倒的だ。特に後頭部で発砲された運転席の男は銃口炎と熱風で左頬を焼かれ、左耳は銃声の轟音で聞こえなくなり、弾丸が引き裂いた真空の鎌鼬(かまいたち)で頬骨の肉が切れた。ただし、現代医学では鎌鼬は真空が原因ではなく突発的で急激なアカギレのような生理現象とする説が一般的だ。
「銃を捨てろ」「手を上げろ」「森田3曹は助手席(の男)を捕獲しろ。春木3曹は運転手だ」堀井予備2曹は2人が短機関銃を地面に落したのを確認すると両手を上げさせて森田予備3曹と春木予備3曹に捕獲を指示した。
「こっちへ来い。その場に腹這いになれ。両手両足を広げろ」2人の前に歩み寄った森田予備3曹と春木予備3曹は小銃を向けながら同じ指示を与えた。4人が4輪駆動車を離れたのを見て堀井予備2曹は落ちているPP19短機関銃を拾った。2人の発射弾数を数えていた堀井予備2曹は弾倉を外して運転手が27発しか射っていない=3発残っていることを確認した。
「お前、小便を漏らしたのか」「こっちもだ」「すみません」4輪駆動車から5メートル離れた路面に這わせた男たちの背中を膝で押さえながら片手で身体を検査していた森田予備3曹がズボンの股間が塗れていることを発見すると春木予備3曹も同調した。
「根室で空自の高射特科が全滅・・・こちらでも同じことをやろうとしたのかも知れません」森田予備3曹と春木予備3曹が社会的地位の高そうな初老2人の失態に苦笑していると歩哨所に無線で連絡した堀井予備2曹は驚くべき事態を知らされた。
さらに3人はその夜、サハリンからの地対地ミサイルで航空自衛隊のレーダー・サイトが破壊されるのを目撃することになった。
  1. 2022/12/17(土) 14:15:06|
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