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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ342

日本海上でロシア軍がインターネットで日本人が同乗していることを公表していたツボレフ22バックファイヤーの10機編隊が突如として消滅し、その直後に稚内と根室のレーダー・サイトが地対地ミサイルによって破壊された翌日の朝刊の論調は両極端に分かれていた。A日新聞とM日新聞はロシア軍の動画の飛行服を着せられてバックファイヤーに乗り込む映像から人物を特定して「航空自衛隊がロシア軍機を撃墜?」「自衛隊に殺害された?日本人」と断定せずに非難する記事で1面を飾っていたのに対して読捨新聞や3K新聞は「防空の目は大丈夫か」「稚内と根室のレーダー破壊」とロシアの参戦に伴う危機的状況の発生を前面に押し出していた。昨日の日中に根室で発生した第6高射群の全滅が大々的に紙面に躍ったのは夕刊だけで、朝刊では2面以降の補足記事に押し出されていた。
「日本人が乗った爆撃機が全部消息を絶ったのはどう言う訳ですか」ロシア軍の参戦が現実になったのを受けて午前でも早い時間帯に首相官邸で石田首相による緊急記者会見が開かれた。しかし、海上自衛隊の通常型ミサイル護衛艦によるバックファイターの編隊の撃墜は自衛艦隊司令官の密命を受けた特別イージス艦隊司令官の独断なので事前情報を流した立野官房長官は結果で理解しても石田首相は何も知らなかった。当然、説明に中身はなく早々と質疑応答になったが記者の質問も推理・憶測の域を出ていない。
「夜が明けるのを待って調査を開始しましたから現時点では何も発見できていません」これ以上は答えられないことは記者も判っているので普段のような失望や嘲笑の声は上がらない。現在は陸海空自衛隊が被害状況と対応を隠蔽していて昨日の根室の高射部隊の全滅と稚内の不審者の射殺で現場に派遣された最寄り支局の記者は調査・取材できないでいる。
「根室で高射群が全滅した事件は何か判ったんですか」「警察が現場検証を進めていますが住民の避難を最優先しなければならない現状では人手不足です。あまりにも被害が甚大なので物証の採取にも着手できていないと報告を受けています」こんな時は記者の軍事的知識が欠落していることが有り難い。配置している高射部隊の片方が破壊され、もう片方は温存されたにも関わらず両方のレーダー・サイトが破壊された原因を追及されても石田首相には答えられない。
実際は稚内に展開している第3高射群は「根室の第6高射群が展開地で全滅した」と言う緊急情報を受けて安全な場所への移動を決定したが、新たな展開予定地に打診した直後に札幌の弁護士が拒否を申し入れ、インターネットに地図入りで「次の第3高射群の陣地」と書き込まれた。そのため移動準備を完了した状態で朝まで待機することになり、深夜に北からミサイル1発が飛来し、レドームが載った建物が破壊される光景を目撃していた。
「稚内と根室のレーダー・サイトが破壊されても大丈夫なんですか」「AWACSが飛んでいるから問題ありません」「AWACSが落とされる心配はないんですか」「戦闘機が護衛しています」「戦闘機で地対空ミサイルに対抗できるんですか」「・・・判りません」保守系の新聞社の記者はそれなりに勉強しているので質問も鋭い。空中警戒管制機のAWACSと言う名前を知っていただけでも恩の字の石田首相では対応できなくなった。
航空総隊では4機しかないAWACSを北部方面隊空域に固定することはできないため稚内に千歳基地から第1移動警戒隊を展開させることを決めたが、各航空方面隊に1個隊しかないので根室には入間基地の第2移動警戒隊を派遣しなければならない。
大型のCー2輸送機なら主要機材以外は迅速に空輸できるはずだが入間基地と根室の中標津空港の滑走路は2000メートルなので着陸できない。そうなると主要機材は陸路と青函フェリー、人員や付属品はCー1輸送機になる。かつてCー1輸送機が迷彩塗に装された時、網走のレーダー・サイトにROCP(要緊急補給レーダー部品)を届けるため網走空港に着陸すると管制官が「ソ連軍が来た」とパニックを起こしたことがあるが公務員労組の職員が多い地方空港が機能を維持しているかさえも判らない。
「最も重大な質問です。この事態に総理は防衛出動を決断されるのですか」「広島では移民による数万人単位の大規模な反戦デモが起こっています。ロシアと戦争になれば総理の地元の広島に2度目の核兵器が射ち込まれることを市民は真剣に恐れているのです」保守系の新聞社の記者の質問に反政府系の記者が勝手に補足して趣旨を変質させた。
広島では韓国との武力衝突以来、防衛出動待機命令、海上における警備行動の常態化、治安出動命令などの一連の対応を加倍政権の外務大臣だった石田首相が「好戦的な本性を現した」と非難する世論が湧き起こり、自宅が投石で破壊され、選挙事務所が放火されている。さらにデモの様子を見に来ていた高齢の後援者がデモ隊に取り囲まれて暴行を受け、重傷を負った。石田首相にとっては選挙での落選を待つまでもなく現実に身の危険を伴う決断になる。
  1. 2022/12/19(月) 15:24:03|
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