海上自衛隊の自衛艦隊直轄部隊の情報業務群司令だったⅠ等海佐が特定秘密保護法と守秘義務を定めた自衛隊法違反の容疑で横浜地方検察庁に書類送検されました。
これまでも警視庁公安部は昭和55(1980)年の調査学校副校長だった宮永幸久元陸将補が在日ソビエト連邦大使館の駐在武官に自衛隊が持っている共産党中国に関する情報を渡したとされる事件以降、自衛隊の情報漏洩を摘発し、マスコミは「スパイ事件」として報道してきましたが今回の事件は全く趣(おもむき)が違うようです。
軍の諜報機関では「ミリタリー・トゥ・ミリタリー」と言う世界共通の不文律によって接触する相手も軍人(日本では自衛官)でなければならず互いが持っている情報の交換が基本です。そのため自衛官が外国の軍人に情報を漏洩した事件もこの情報交換だった可能性があります。ところが日本の国内法では諜報活動は非合法であり、そのため任務に従事する自衛官は公式の人事では退職しているので秘密情報を保有していること自体が「部外者」への情報漏洩に当たり公安警察の摘発対象になってしまうのです。実際、自衛隊の諜報活動は敗戦後も現地に留まっていた陸軍中野学校出身者から引き継ぐ形で海外ではかなり活躍していても日本国内では日蔭者として人目を避けて暮らさなければなりません。
一方、今回の情報漏洩は軍事評論家としてマスコミにも登場している自衛官隊司令官だった元海将が講演のために必要な資料の提供と疑問点の回答を元部下に当たる現役の海上自衛隊の首脳陣に寄せたため情報に精通している1佐に処置を指示したのです。ところがそれを受け取った元海将の講演に特定秘密に指定されている情報が含まれていることを何者かが告発したため事件になったようです。しかし、自衛隊の防衛秘密は添付資料を個別に指定している一部を除けば文書全体を一括して指定することが多く、日常の業務で無意識に口にしている事項が秘密文書からの引用であることは珍しくありません。特に野僧の場合、士官としての職種が兵器管制だったため対領空侵犯措置や航空作戦を学ぶ必要が生じ、オペレーションでの夜勤中に「秘」文書をノートに筆写して丸暗記しましたからうっかりキーが滑れば(パソコンなので口や筆ではない)、防衛秘密の内容を記している可能性はあります。その一方で野僧がブログで紹介することがある航空作戦は正式な文書は防衛秘密の「秘」に当たりますが、航空教育隊の新隊員用の普通文書の教程にそのまま引用されていてブログではこちらを採用していることにしています。
おそらくこの元情報業務群司令の1佐も日常的に防衛秘密に触れ過ぎていて何が特定秘密で何が防衛秘密の機密・極秘・秘なのかの識別できなくなり、特定秘密も例えば情報収集衛星の撮影画像はカメラの性能を秘匿するため漏れなく指定されるそうなので、日本周辺の軍事情勢の資料として元海将に渡してしまったのかも知れません。兎に角、記者会見した海上幕僚長が「どれが指定秘密なのか判らない」と答えているくらいですから元々が秘密保全には厳格だった自衛隊に上乗せした制度に無理があるのでしょう。
過去の実例から見て諜報要員の大半は問題が発覚する前に変死しているのでこの1佐は多分巻き添えで懲戒免職になって退職金がもらえないことに同情してしまいます。
- 2022/12/29(木) 15:38:18|
- 時事阿呆談
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