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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ353

「ノース(北部航空方面隊)はベアをキル(撃墜)したのか」「ベアだけじゃない。エスコート・ファイター(護衛戦闘機)もキルした」航空総隊指揮所が第3高射群の3尉の独断でECM型ツボレフ95ベアを撃墜し、代わってレーダー・サイトを攻撃してきた戦闘機を迎撃したことの弁明を話し合っていた時、同じ事態に対処しているセンターSOC(中部航空方面隊指揮所)が確認してきた。各航空方面隊指揮所では広範囲に及ぶ航空戦闘の全体像を把握するため指揮所内のレーダー・コンソールの1台は隣接する空域の画面を受像している。そこで稚内から伸びた長い航跡がオホーツク海上空のR(ロシア)のシンボルの冠した航跡に命中したのを見ていたのだ。センターは当然、オホーツク海からレーダー・サイトに向かっていたRの航跡にも同様の処置が実施された続編も認識しているが先ず確認すべきはECM型ベアからだ。
「それではウチもキルする」「ノースはインターセプター(迎撃機)が間に合わない緊急措置だったんだ。センターは日本海上だからスクランブルで対応できるだろう」「ノースの決定はノースが下したんだな。オーバー(終わり)」センターSOCの運用幕僚は総隊指揮所の運用幕僚の作戦指導を無視して通話を切った。入間基地のセンターは横田基地の総隊司令部と距離が近いだけに何度か酒を飲んだこともあるが、防衛大学校の1期違いの兵器管制幹部のこの3佐は「ファイター(戦闘機)・パイロットの頭にはエレメント(2機編隊)の空中戦までしかない。戦術を思考できるのは状況を客観視しているウェッポン・コントローラー(兵器管制幹部)の方だ」が持論だった。この態度では空中戦までしかない戦闘機パイロットの自分には思いつかない「戦術」を講じるはずだ。総隊指揮所の運用幕僚が防衛部長に今の対話を報告すると司令官と幕僚長の席に歩み寄って小声で話し合ったが特に指示はなかった。
「センチュリー、ディス・イズ・ゴールデン420、ジュディ・ターゲット」「ラージャ」センチュリーでは入間基地を発進したRCー2電子情報収集機と佐渡島付近で合流した小松基地・第6航空団の護衛戦闘機6機の編隊長がロシア軍の目標をレーダーで捕捉したことを報告していた。シベリアから発進して東に向かい東北地方に接近しているECM型ツボレフ95ベアと護衛戦闘機4機はオホーツク海の編隊が地対空ミサイルで全滅させられたことは通報されているはずだが行動に変化はない。
「もっと接近させてタリー(目標視認)しろ」「ラージャ」ここでセンターSOCの運用幕僚がセンチュリーのゴールデン420を管制している兵器指令官に指示を与えた。通常の対領空侵犯措置ではアンノウン(国籍不明機)に最接近してパイロットが肉眼で確認するのが基本動作だが準・戦時の現在は敵の空対空ミサイルを警戒して接近は回避可能な距離に留めるようになっている。しかし、兵器指令官は声の主の運用幕僚が兵器管制幹部であることを察したので高度な戦術判断を期待して黙って従った。この運用幕僚は夜勤の時には階下の防空管制隊の待機室に顔を出してWAFが淹れたコーヒーを飲みながら若手の兵器管制幹部たちと談笑しているので「是非、次のウチの防空管制隊長に」と期待されるほど尊敬されている。
「距離100マイル(160・934キロ)、ノー・タリホー(視認できない)・・・ターゲットがセパレート(分離)した」「ラージャ」「ダクト(空中戦)しろ、AAM(空対空ミサイル)使用許可」「ラージャ、ゴールデン420、ダクト・スタート、ユース・AAM・OK」「ラージャ、キル・ターゲット」センターSOCの運用幕僚はヘッド・セットを装着して兵器指令官に指示を与えているのでパイロットには直接伝わり、復唱ではない返事をした。
「後尾の2機はRCー2を離れるな。4機は1対1で交戦する。先手必勝でロック・オンでき次第、AAMを発射しろ」空中戦が始まると会話は日本語になる。編隊長は航空自衛隊の演習では許可されない先制攻撃を命ずることに緊張と同時に開放感を覚えていた。
「フォーメンション・リーダー(編隊長)にスペシャル・オーダー(特別命令)、キル・ベア(ベアを撃墜せよ)・ユース・AAM(空対空ミサイルで)」「なるほど・・・誤射ですな」運用幕僚の直接の指示に編隊長は意図を察した。つまり空中戦で発射した空対空ミサイルが誤ってツボレフ95ベアに命中して撃墜したことにするのだ。
「可能であればタリフォーして機種を確認しろ」「ラージャ・・・見るまでもなく旧式爆撃機です」機種が爆撃機であれば対領空侵犯措置の警察権でも日本への攻撃を阻止するための緊急避難が成立する。機体の使用目的が武力行使ではないECM型では緊急避難の適用は難しいが、撃墜してしまえば内部構造は識別できない。ツボレフ95ベアであれば実際は他の使用目的への改造型が大半でも爆撃機と断定しても問題はない。
「ビンゴ(撃墜した)」「ビンゴ」「ビンゴ、キル・オール・ターゲット」ロシア軍は航空自衛隊が先制攻撃してくるとは思っていなかったようでAAMを射ち遅れて一瞬のうちに全滅した。
  1. 2022/12/30(金) 14:22:25|
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