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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ357

「改良ホークでも射程ギリギリだな」「短SAMと交代したのは正解でした」「あれは国後を離陸したロスケ(ロシアの蔑称)のヘリが上空で広がるのを狙うつもりだったんだよ」国後島から48・7キロの知床半島では第1高射特科群でも島松駐屯地の2個中隊が羅臼町から北海道道87号線に沿って展開している。舗装されている道路上では地面を掘っての陣地構築は不可能で羅臼町で土砂を詰めた土嚢をトラックで運び、発射装置と予備弾の周囲に積み上げて小山を築いた。中でも予備弾は根室の第6高射群が予備弾の誘爆で全滅した教訓で特に念入りに分厚く防護している。中隊長の3佐は指揮所を若手の3尉に任せて副中隊長兼訓練幹部の2尉と道路上を歩いて陣地の構築状態を確認していた。この2尉は幹部候補生学校ではモリヤ佳織校長の門下生で3尉の急速練成に手腕を発揮してこの開戦を迎えている。
「それにしても道路を封鎖していた環境団体を道警が強制排除してくれて助かりましたね」「道知事が命令してくれたから道警も踏み切ることができたんだろう。別海(駐屯地)で待機したまま開戦になるとロスケも戦闘態勢を整えているから舞い上がった所の蠅叩きとはいかなかった」中隊長の絶妙な例えに2尉も苦笑した。羅臼町から根室海峡沿いに相涙橋まで伸びる北海道道87号線の入り口を閉鎖していた羽田からの民間機で押し寄せた環境団体の女性たちと同行していたマスコミ関係者の集団は根室の第6高射群の全滅とレーダーサイトの破壊を受けて北海道知事が機動隊を派遣して「危険防止」の名目で強制排除させた。しかし、男性たちはいまだに身柄を拘束できず、現在も道東から道南を結ぶ鉄道網や道路で破壊活動を続けている。入間基地から根室に向かっている第2移動警戒隊も帯広から先は通常のライトバン・業務車1号で護衛している熊谷基地の第2教育群が次々に銃撃を受けて駐屯地から駐屯地の尺取り虫状態になっている。現在はようやく根室の別海駐屯地に到着したところだ。
「遠軽の302(中隊)がロスケの戦闘機を脅して追い払ったじゃあないですか。あれは国後に着陸したそうですがこっちに来ませんかね」「離陸したところを落とせば我が第1高射特科群の武勲だな」2尉はヘリコプターとは比べ物にならない戦闘機の飛行性能と戦闘力への不安を口にしたが中隊長はむしろ獲物することを楽しみにしているような口ぶりで答えた。
「ピリカ1号、こちらピリカ3号、国後からヘリが離陸しました。送れ」その時、中隊長が肩から提げている小型無線機で指揮所内の3尉が連絡してきた。ピリカは森繁久彌作詞の大ヒット曲「知床旅情」の2番で「岩陰に寄れば ピリカが笑う」と唄うためアイヌが口の中で音色を反響させる木製の楽器のことだと思われがちだが、あの楽器は「ムックリ=口琴」と言う名前で、ピリカ自体は「良い」「美しい」「立派だ」「豊かだ」を意味する賛辞だ。
「こちらピリカ1号、304(中隊)はどう言ってる」「こちらピリカ3号、304の中隊長は上昇を終えた時点で交互に撃墜しようと言っておられます。送れ」「了解したと伝えろ。俺たちも指揮所に向かうが、お前は最初の1機を撃墜できるように準備を整えておけ。先に上昇を終えればお前の判断で撃墜しろ」「こちらピリカ3号、自分の判断で良いのですか・・・了解しました。送れ」若手だけに3尉は習った通りに無線で応答した。すると隊員たちの待機テントに連絡が入ったようで陸曹と陸士が掛け出してきて海とは反対側に設けてある土嚢の切れ目から改良ホークに取り付き、機械仕掛けのように手際よく迅速に発射準備を始めた。
ウーンッ、間もなく発射機が唸り声のような機械音を立てて土嚢の小山に沈めていた3発の弾体を押し上げて弾頭を少し斜め上方に向けた。
「ピリカ1号、レーダーの探知情報では最初のヘリが上昇を止めて前へ飛び始めました。射っても良ろしいですか。送れ」「先ほど言った通りだ」「はい、有り難うございます。ピリカ3号、射ちます」3尉はまだ年次射撃の実弾射撃は経験していないが「ゲーム・マニアなのでホーク部隊を希望した」と言うだけに意外な返事をした。2尉は耳に当てないで聞いている中隊長の無線で状況を確認すると発射準備を終えた現場指揮官の1曹が「準備完了」と報告する前に隊員たちを退避させ、自分も安全な位置に走り去ったことを再度確認した。
ブシュ―、中隊長と2尉は改良ホークの噴出炎と熱風が届かない位置から発射を注視した。すると土嚢の中で空気が金色に燃え、同時にガスボンベが機体を噴出した時の音を重くしたような轟音が響き、OD色の弾体が前進しながら浮き上がったのが見えた。次の瞬間、弾体は「シュー」と言う噴出音を置き土産にして「キ―ン」と鋭く空気を引き裂きながら海を突進していった。レモン色の噴出炎が猛獣が獲物を追い詰めるように目標に向かい数秒後、国後島の上空でオレンジ色の閃光が灯った。続いて北海道道87号線の奥から2発目の改良ホークが発射されて同じようにロシア軍のヘリコプターを撃墜した。この2機は地上掃射するためのミル28攻撃ヘリコプターだった。結局、国後島の司令官は輸送ヘリコプターを発進させなかった。
  1. 2023/01/03(火) 14:09:52|
  2. 夜の連続小説9
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