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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ362

エレナは夕食と朝食をWAF隊舎当直の空曹に連れられて基地の食堂でとり、隊舎内の浴場でシャワーを浴びると梅香学院大学の留学生寮を思い出した。それでも電話やメール、WAFたちとの会話は禁じられていて個室に置いてあるテレビを見て過ごし、消灯ラッパで就寝した。
「この交信は日本海沿岸のロシア軍の空軍基地で送受信しているものです」翌朝、エレナは昨日の到着時に出迎えた男性=染谷1尉の私有車で某基地の外れにある小象の檻に隣接した窓がない不思議な隊舎に行った。隊舎の玄関ロビーから右手に伸びる廊下には頑丈な鉄格子が設置されていて小部屋に仕切られているらしく狭い間隔でドアが並んでいる。染谷1尉はその中の1室にエレナを連れて行くと一見して高性能な録音機と市販品ではないデスクトップのパソコンを見せて操作方法を教育した。これからこの防音の部屋でロシア軍の交信を聴取して日本語に翻訳するようだ。染谷1尉はエレナの操作技量を確認すると部屋を出ていった。
「明日、(ツボレフ)95で日本に電子攻撃を仕掛けるんだが、この間の(ツボレフ)22みたいに全滅させられるんじゃあないのか」「お前は95専門のパイロットだから骨董品の出番はないと安心していたんだろう。そうは問屋が卸さなかったと言う訳だ」会話の内容から見てパイロット同士の私的な通話らしい。アメリカ軍の巨大な象の檻のアンテナに比べて小型な自衛隊の小象の檻の傍受装置の感度は個人所有のスマートホンの電波まで捕捉するようだ。
「それにしても22は謎だって軍司令部でも言ってるよ。日本の空軍の戦闘機の空対空ミサイルが届かない位置で全機が一瞬のうちに消滅したんだ。何か秘密兵器を開発しているのかも知れないな」「俺はもうすぐ日本へ向かって出撃するんだ。恐ろしいことを言わないでくれ」エレナはロシア軍のパイロットの怯えた顔が目に浮かんで苦笑してしまった。エレナはモスクワの高校生だった頃、街で青い軍服を着た防空軍のパイロットを見かけたことがある。一方、梅香学院大学時代、下関市内で腰までしかない7つボタンの詰襟の制服を着た若者たちに会い、日本人の同級生に訊ねると「海上自衛隊のパイロットの卵だ」と教えられた。同じ職業でも雰囲気が違うのを不思議に思ったものだ。その点、夫・信彦とチェチェンの実家に配達に来ていた郵便局員はどちらも気さくで生真面目な好青年でかなり共通性がある。
「本当はあの時、22で日本の空軍基地とレーダーサイトを破壊するはずが失敗したからやり直しだ」「それにしても弾道ミサイルは失敗、22は全滅、どちらも品切れ。それで今度は電子戦で目潰しときた。いくら中国に借りがあるとは言えウクライナで消耗し切っているところに参戦は無理なんだよ」ツボレフ95ベアのパイロットの嘆き節にエレナは安堵した。ロシア軍がウクライナ侵攻で苦戦して戦力を消耗した上、欧米からの経済制裁で電子部品が輸入できず兵器の製造も滞っていることは西側のマスコミが報じている。代用品として中国や北朝鮮から兵器を調達しているが性能と信頼性が落ちるのは何ともし難いようだ。
「電子戦要員は頭が良いからそうでもないが爆撃要員は下品で困るよ。22で出撃する時、日本人を人の盾に乗せただろう」「うん、効き目はなかったがな」この話題でエレナもテレビが「自衛隊は国民を殺した事実を隠蔽するために攻撃を否認している」と報じていたことに違和感を覚えたのを思い出した。チェチェンでは独立派の存在がロシア軍の進駐を招き、執拗な探索と強引な拘束、苛酷な拷問と無差別の迫害を引き起こしたのだが、独立を悲願とする国民に被害者意識はなく、むしろロシア軍に対する敵愾心が更に燃え上がっていた。それに比べて日本のマスコミの論調は理解以前に許し難い売国・亡国報道だ。
「あの中に浅野って比較的若い男がいたんだが、どうやら兵隊たちは浅野の女房を慰安婦にしたらしい。だから上空で浅野を落として、帰ったら使いまくるって盛り上がってやがった」「浅野夫婦は憲兵隊に保護されていたんじゃあないのか」「人の盾の人選は搭乗員の所定だから保護対象は女房だけってことにしたんだろう」ツボレフ95ベアはKLM321便が着陸させられたロシア軍極東軍管区司令部の所在基地に配備されているので裏情報にも詳しいようだ。
「それでも今回の作戦はお前たちがレーダー・サイトを目潰ししてその隙にサハリンから発進する(ミル)28ヘリが地上戦力を掃討する。続いて(ミル)26が歩兵連隊を空輸して橋頭堡を確保するんだ。さらに(イリューシン)76輸送機を州都の空港に強行着陸させて制圧する計画もある」「空軍とミサイルが品切れとなると次は地上部隊の出番か。昔は海軍が運ぶ作戦計画だったが、今は地上部隊も空輸するんだよな。モスクワは船なら沈められても泳げば助かるが、航空機は落とされれば終わりだって言うことが判ってないんじゃあないか」「確かに・・・」ここで2人の会話は途絶え、乾いた切断音を残して「プー」と言う使用停止の信号に変わった。
エレナがこの通話内容を日本語に訳して染谷1尉に手渡すと一読して表情を変え、鉄格子を押し開くと階段を駆け上って隊長室に向かった。
  1. 2023/01/08(日) 14:32:59|
  2. 夜の連続小説9
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