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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ363

ロシア軍のヘリコプターによる攻撃が終わると稚内から猿払村にかけての海面には冬の流氷のように人間の遺骸が漂って一部は海岸に打ち上げられた。市長・村長以下住民の大半は札幌以南に避難=疎開して残っているのは自衛隊と消防だけなので、釜田防衛大臣の厳命による遺骸の収容は稚内分屯基地の担当になり、作業は翌朝からになった。
「流石に3000人ともなると夥しい数だな」「90人ずつ30機、それを全機撃墜したんですからね」早朝の海岸で隊員たちはロシア兵の遺骸を担架に乗せてトラックに積む作業を始めた。遺骸は比較的低高度で撃墜されたため人間の形を留めているが、上空で爆発した火炎が被服や背のうに燃え移ったので露出している顔面は無残に焼けただれている。
「土葬するんでしょう。場所が足りますかね」「ジュネーブ条約で土葬することにきまっているんだそうだ。後で掘り起こして遺骸を母国に送り返すためだってよ。だから認識票を口に咥えさせなきゃあいかん」若い兵士の遺骸を荷台に運び上げると空曹の指示で頭の方を持って寝かせた空士は首のチェーンで小判型金属製の認識票を引き出して絶叫したまま開けている口の中に差し込んだ。実は遺骸の収容と同時進行で別に郊外の市有地に墓穴を掘る作業も始まっているが、こちらは施設班のパワーシャベルで掘って形を整えるだけだ。
「担架から転がすんじゃあない。頭と足を持って静かに寝かすんだ。人間の遺骸なんだからもう少し丁寧に扱え」ベテランの空曹の中には東北地区太平洋沖地震の災害派遣で三陸の津波の犠牲者の遺骸の収容を経験した者も多く冷静に作業しているが、平成生まれの若い隊員たちは「PTSDの防止」として動物の死骸さえも見ることなく育ったため生命活動を終えた人間を単なる物体として取り扱い、逆に礼節を指導することになっている。
「それにしてもロシア軍の攻撃直前に携SAMが大量に届いたでしょう。何か情報を入手してたんですかね」「確かに陸のCH―47が携SAMを満載して飛んで来たのは空襲の前の日だったな。俺はロスケのヘリのエンジン音を聞いても陸がまた来たのかと思って安心してたよ」次の遺骸を運んできた2人組の話題は戦闘の分析だ。ロシア軍のヘリコプターの大編隊が襲来する前日、唐突に陸上自衛隊の大型輸送ヘリコプター=CHー47チヌークが稚内分屯基地のヘリポートに飛来して多くの携SAMを置いていった。すると受領に来ていた陸上自衛隊は分屯基地内に展開している第3高射群を警備している1個小隊に20基を引き渡して残りはトラックに積んで運び去った。翌日のロシア軍の大編隊の襲来では分屯基地と対岸の宗谷岬の陸上自衛隊が携SAMで応戦して全滅させたが、今思えばこの若い空曹が言う通り、準備万端整えて待ち構えていたかのようだ。それが中国地方の日本海側の某基地で屯田エレナが傍受交信を翻訳した情報によることは現場の人間たちは誰も知らない。
「今朝、下番した警備の連中が海面に青い火の玉が飛び回っていたって言ってましたよ」「それは人魂って言うんだ。死んだ人の魂が青い炎になって飛ぶんだよ。この人たちも浮かばれないよな」担架の足側を持っている空曹は顔を横に向けている遺骸に声を掛けた。平成に入ってからテレビや雑誌はオカルトを非科学的と否定するようになり、昭和の間はブームを画策扇動していた謎の飛行物体UFOや未知なる生物ネッシーに雪男、さらに夏の定番だった心霊体験や視聴者が投稿した心霊写真などの特集番組を全く放送しなくなった。その結果、日本ではUFOの目撃談や心霊体験の話題は一掃されて否定派の科学者が唱える暗示説が証明されることになったが、やはり心霊現象は発生するのだ。
「これはトドが喰い千切ったんですかね。足がありません」「オホーツク海にはシャチやホオジロザメもいるから判らないぞ」「このまま海岸に放置すればヒグマやキツネが喰い荒らすでしょう。防衛大臣もたまには良いこと言いますね」今朝の分屯基地では防衛出動待機命令が発令されて以来、連日連夜の激務に追われている隊員に新たな仕事を追加した釜田防衛大臣の遺骸回収命令に反発する隊員が多かったが、こうして必要性を実感すると納得せざるを得なかった。
「1号車は一杯になりましたから出発します」「卸下(しゃか)の隊員はあちらにいるんだな」「はい、穴を掘ってる人間が兼ねています」「作業止め」作業指揮官の運用訓練班長は運転手に確認すると次々に遺骸を運んでくる作業員たちに指示した。
「全員、その場で合掌、礼」この運用班長は島根県出身で地元には日本海海戦のロシア海軍バルチック艦隊の戦没者慰霊碑があった。そして子供の頃から日本海海戦が行われた5月27日の直前の日曜日には寺で催される慰霊供養の法要に参列していた。だから戦没者たちがロシア正教の信者であったとしても慰霊の気持ちが大切であることを理解していた。
それにしても遺骸が荷台に一杯になると毛布をかけて上に重ねることになった。これで漁船を借りて海面で収用した遺骸が加われば凄まじい数になるはずだ。
  1. 2023/01/09(月) 14:57:52|
  2. 夜の連続小説9
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