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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ377

「オール・クラウン、ホット・スクランブル、オリ□ン(緊急発進増強)20発令」築城基地に帰投する第8航空団のギャオス03が奄美諸島上空で陸上自衛隊のヘリコプターの編隊とすれ違った頃、那覇基地では中国空軍機の大編隊が尖閣諸島空域に出現したため第9航空団の飛行隊・マンタに全ての戦闘機による緊急発進が発令されていた。南西航空方面隊では第9航空団が唯一の戦闘機部隊のため即応力維持しながら飛行時間による点検・検査と両立させるのは至難の業だが、1週間交代で1個飛行隊の全機を武装・待機させることで対応している。
「クラウン01、スタンバイ」「馬鹿な、ホット・スクランブルだぞ」「着陸する旅客機がある。管制に従え」滑走路に向かうタクシー・ウェイ(誘導路)にはクラウンのFー15が発進前点検を終えた順番に列を作っているが、タワー(管制塔)の国土交通省の管制官は発進を許可しなかった。パイロットはこのような嫌がらせには慣れているもののコクピットから着陸してくる南側の空を見ても主脚を下ろせば点灯するランディング・ライトの光はなく、機影は点にもなっていない。この距離であれば千歳や小松、三沢、百里の自衛官の管制官なら着陸機を上空待機させて緊急発進を優先するはずだ。
「このままではガッツとトライ(パイロットのタック・ネーム=実在するが別人)は2人で大編隊に立ち向かうことになる。アイツらのことだから真正面から突っ込むんじゃあないか」先頭のFー15=クラウン010のパイロットは東シナ海上空でCAP(戦術空中哨戒)していて尖閣空域に指向された同僚2人を思い出していた。中国空軍は武力衝突以前にも村山政権が漏洩させた防衛秘密指定の内部規則の規定を確認する挑発飛行を繰り返して対領空侵犯措置の法的限界を検証した。民政党政権が提供したレーダーサイトや戦闘機の性能諸元の数値を確認した上で弱点を探るように空中戦をしかけてきた。それが今は事実上の戦時だ。
「テイク・オフ(離陸)したらタワーに突っ込んでやろうか」ようやく旅客機の機影が沖縄の明るい空に浮かび上がったのを見てパイロットは逆の方向にあるタワーを憎々しげに睨みつけた。国土交通省の労働組合員の嫌がらせは管制官だけでなくCAB=航空局も執拗で、スクランブル機が滑走路に出てからもライトバンによる滑走路の点検を中断せず、中央で車両を止めて下車したドライバーが何かを拾う動作を演じることもある。そのため3分以内に発進準備を終えても離陸までに10分以上掛かるのが那覇基地の緊急発進なのだ。
「別の編隊が低空で奄美方面に向かっています。ポジション(位置)、ノース27(北緯27度)、イースト125(東経25度、ヘディング090(進行方向90度)」「アルチュード(高度)は」「エンジェル(高度)3000(フィート=914・4メートル)、スピード500ノット(マッハ0・75=時速926キロ))」レーダーの画面ですでに尖閣上空に達している中国軍の大編隊に接近する2機のFー15を管制しながら那覇基地の位置にスクランブル機の航跡が集中しているのを見て苛立っているサンセット(南西防空指令所)で監視係の空士が大声を上げ、即座に識別係の空曹が確認した。
「この速度なら爆撃機かも知れない」「世論島に中国軍が上陸したと言う通報があっただろう。中国はギャオスが制圧したことを知らずに輸送機で占領部隊を送った可能性もある」サウス・ウェストSOC(南西航空方面隊指揮所)では尖閣での危急事態に意識が向かいFー2が任務を終えて築城基地に戻っている世論島での対処は忘れかけていた。府中基地の航空総隊指揮所でも北海道と沖縄の2正面作戦になっていて情報収集に追われているので中国軍が同時侵攻を加えてきた意図を推理する余裕はなかった。
「この位置ではクラウンを向かわせても間に合わないな。ギャオスの後続も駄目だ」「PAC2の射程距離内に入り次第、迎撃しましょう。稚内に展開している3高群がオホーツク海でECM用ベアを撃墜したじゃあないですか」「しかし、あれは職権乱用の規律違反で射撃係の3尉が逮捕されている」「構わん。射て」防衛部の運用幕僚たちの議論が熱を帯びて声量が大きくなるとそれを耳にした航空方面隊司令官が決断した。稚内でロシア軍のECM用ツボレフ95ベアを撃墜した第3高射群の永坂3尉は旭川駐屯地の地方警務隊に逮捕されて取り調べを受けているが「第6高射群の恋人が根室半島で殺された私怨」と言う本当の動機は語らず、「国家存亡の危機に対処するための独断専行」と強弁して聞く者を感動させていた。大日本陸海軍でも血気にはやる青年将校の純粋な訴えを自分の野望に利用した上層部は多いが、自衛隊の場合は必要な決定を回避している政権を動かし得ない無力さを自責している上層部にとって現場指揮官にこのような独断専行を繰り返させないためにはこの場で決断するしかなかった。数分後、知念、那覇、恩納の各高射隊から発射されたPAC2(PAC3は弾道ミサイル用に温存した)は輸送機の編隊を全滅させた。開戦初頭の輸送艦隊の二の舞だった。
  1. 2023/01/22(日) 13:57:57|
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