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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ380

呂論島に派遣された陸上自衛隊は翌朝まで島内の中国軍を捜索して5名を射殺する一方で投降してきた8名を指揮官の孟少校以下の12名と一緒にヘリコプターで建軍駐屯地に連行して捕虜とした。取り調べは西部方面警務隊が実施している。
「これが呂論島で行われた島民虐殺です」統合幕僚監部は「閣議に間に合わせるため」と言う名目をつけて内局・釜田防衛大臣を通さずに立野官房長官宛てで報告を届けた。昨日の事態発生は政権内でも情報共有されているので続報ではある。
「これは漁港で殺害された漁業組合長と派出所の警察官です」「ひッ」立野官房長官は陸上自衛隊が撮影した現場写真をA4判の茶封筒に入れて首相以下の参加者に配ったが、あまりにも凄惨な遺骸を見て女性の閣僚は悲鳴も上げられずに引きつった呟き声を口にした。漁業組合長は孟少校が仕掛けた手榴弾のブービートラックの爆発で上半身が吹き飛び、巻き込まれた兵士と2人分の肉塊になっている。一方、警察官は燃料タンクに被弾して炎上した車体で運転席に座ったまま黒焦げになっていて、その車体には無数の弾痕が残っていた。
「この高齢者は逃げているところを背後から射たれたようです。こちらも同様です。こちらの家は連射で銃弾を射ち込まれていますが中では住民が死んでいました。おそらく窓から様子を窺っているのを見つかったのでしょう」頭越しの報告に不快感を露わにして茶封筒に手をつけなかった釜田防衛大臣も周囲の官僚たちのただならぬ反応を無視できなくなり、画像を見たが即座に顔を背けた。閣議後に防衛省内局の官僚は「朝から大臣を不快にさせないため写真は見せなかった」と弁明したがそれも納得できた。
「これは町役場です。1階ホールは多数の手榴弾が投げ込まれて徹底的に破壊されていました。この女性職員の遺骸には手榴弾のブービートップが仕掛けてあり、隊員が1名巻き込まれて死亡しました」「これは町長の遺骸です。中国軍と会話中に射殺されたようです」「2階の各課のドアには手榴弾が仕掛けてありました」「この女性は島内一斉放送をした直後に射殺されています」立野官房長官は写真を確認しただけで裏面の解説を読み上げているが閣僚たちは悲惨な光景を見続けることになり、苦痛に耐えられなくなってきた。
「これは牧場に仕掛けてあった落し穴のブービートラップで死亡した隊員です」「もう止めてくれ。PTSDになりそうだ」画像が町役場に続き、岡元牧場で落し穴に落ちて刃物に刺されて死んだ隊員の遺骸のなると最高齢の閣僚が職務離脱を申告した。
「まだ半分にもなっていませんが・・・後で確認しておいて下さい。これが我が国固有の領土である呂論島で中国軍が犯した島民虐殺なのです」「この事態を見ても総理は防衛出動を発令されませんか」効果を確かめた立野官房長官が席に戻ると代わって双木外務大臣が石田首相に決断を迫る質問を投げ掛けた。それを聞いて閣僚たちは厳しい顔で石田首相を注視した。
「指揮官も捕虜にしたようだが本当に中国政府の命令だと証言しているのか」石田首相は手早く残りの写真を確認するとその中にあった空港で拘束された孟少校の写真に目を止めて確認してきた。すると釜田防衛大臣ではなく双木外務大臣が答えた。
「指揮官の孟少校は日本が中国の常任理事国としての懲罰に反抗しているため個人として日中戦争の犯罪行為に報復しようと志願者を集めたと証言しています。つまり侵攻したのは孟少校の私兵だと言うことになります」「そうか・・・」双木外務大臣としてはこの事態を石田首相に防衛出動を決断させる圧力にしたいのだが歴史に汚点を残すような嘘はつけない。双木外務大臣も選挙区の山口県内では絶対に口にできないが、吉田松陰の扇動を受けて討幕を実現した明治の元勲たちは「尊皇攘夷」の狂気に駆られて海外に乗り出したため外国を全て敵視していた。そのため朝鮮王朝の内紛への不要な軍事介入で日清戦争を発生させ、帝政ロシアの満洲獲得の野望に過剰反応した日露戦争にまぐれ勝ちすると、その虚言癖が対米英戦争を引き起こしてこの国を滅ぼした。戦前の尊皇攘夷・忠君愛国教育を受けた世代が消滅した今の日本では明治維新そのものを薩長土肥による反乱と捉えて否定する公正中立な歴史観が常識化していて、知性派の双木外務大臣も秘かに賛同しているのだ。案の定、石田首相は安堵したような顔で黙っている釜田防衛大臣に視線を送った。
「自衛隊は投降してきた中国軍の軍人を捕虜にしたようですが、治安出動中の準・警察職員として身柄を拘留するのは合法どしても、法務省としては駐屯地を代用刑事施設(留置場)とする法的手続きを踏んでもらわないといけません。さらに今後、どの段階で地方検察庁に送検して身柄を拘置所に移すつもりですか」ここで法務大臣が必要だが的を外した問題を持ち出した。おそらく法務省内でも現在の武力衝突を受けて戦時を想定していない日本国憲法に基づく現行法では対応できない国際法との齟齬を検討しているのだろう。それでも国際法は外務省の方が専門なので回答者は元防衛大臣の双木外務大臣になった。
  1. 2023/01/26(木) 14:19:51|
  2. 夜の連続小説9
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