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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ382

「今回はマスコミにも我が国の領土内で行われている残虐行為の実態を認識していただくため現場から届いた画像を全面的に公開したいと思います。PTSDが心配な方は自己判断で見るのを控えて下さい」無意味に長引いた閣議を終えて立野官房長官は事前に召集していた臨時記者会見に臨んだ。閣議中に中国大使館が開いた記者会見のテレビ中継は視聴していて毎度の狡猾な印象操作は承知している。それを撃ち崩すだけの衝撃を与えるためには閣僚に配った現場写真の公開以外にないと考えたのだが情報の管理者である釜田防衛大臣は「国民の反戦世論を誘引する」と反対した。そこで双木外務大臣と2人がかりで論破して石田首相を渋々うなずかせたのだ。やはり大半の記者も茶封筒から出した画像を見て顔を背けた。
「画像番号1番は漁港で殺害された漁業組合長です。遺骸には手榴弾のブービートラップが仕掛けられていたようでそれを作動させた中国軍の兵士と一緒に吹き飛んだ様子が2番から5番の画像です」説明には壇上のスクリーンに投影した写真を見せることになるが、流石の立野官房長官も直視することは避けて原稿を読む振りをした。解説中に嘔吐すれば面目丸潰れだ。
「画像番号28番からは呂論町役場になります。先ず多くの手榴弾で破壊された1階ホールの住民課の状況です。続いて31番は庁舎の裏で殺害されていた職員と利用者の島民の遺骸です」31番からは陸曹が撮影した非常口の外で折り重なるように倒れている職員と利用者の遺骸だった。若い女性職員も目を開いたままの可愛い顔で写っている。
「38番は34番の女性の遺骸に仕掛けられていた手榴弾のブービートラップが爆発した結果です。この時、女性の目を閉じさせようとした隊員が巻き込まれて死亡しました」記者たちは遺骸とは言え顔は無傷の若い女性の写真に安堵していたのだが、それが無残に吹き飛び血液と千切れた肉片、脳漿や臓器などの内容物が四散している凄惨な光景になっていた。
「107番からは呂論空港です。警備員と事務所の男性職員は射殺されています」病院での高齢の入院患者たちの射殺された遺骸に続き、空港の画像になった。記者たちも流石に慣れてきたようで表情を変えることなく解説に合わせて用紙を繰った。
「ところが若い女性2名は待合ロビーのソファーの上で絞殺されていました」唐突に若い女性の全裸の写真になった。絞殺体なので今までの身体に弾孔が開き、貫通した側は皮膚が引き裂け、血みどろになっている悲惨な遺骸とは違う。その落差に男性記者たちは不謹慎ながら欲情を覚えてしまった。一方、女性記者は違う表情で目を反らしている。口にはしないが胸中では「自衛隊が女性を視姦した」と非難しているのかも知れない。
「184番は島内の牧場に作ってあった落し穴のブービートラップに落ちて死亡した隊員の遺骸です。隊員は運悪くうつ伏せの状態で落下したため全身に鋭利な刃物が突き刺さり、引き上げた時には死亡していました。建軍駐屯地に搬送してからの医官による検屍の結果、死因は心臓に刃物が刺さったことによる心停止、即死でした」死亡したのが自衛官だからなのか記者たちは冷ややかな視線で今まで以上に悲惨な遺骸を注視した。
「以上、321枚を配布します。どの写真も新聞、テレビ、各社のインターネット・サイトでの使用は任意としますが、あえて配布した趣旨を踏まえて画面の修正は控えて下さい」それからはFー2とAHー64の空襲による建物の損害、地上戦闘での日中の戦死者や捕虜、救出された島民の画像が続き解説だけで午後になってしまった。
「それでは質疑に移ります。手順はいつもの通りです」ここで司会進行の秘書官が声をかけたが、普段であれば会見の主導権を奪おうと即座に手を上げる記者たちが重苦しい顔で写真を収めた茶封筒を眺めている。やはり現場の惨状を共有して当事者である自衛隊を誹謗冒涜することが躊躇われるようだ。すると記者たちのスマートホンが一斉にメールの着信音を鳴らし始めた。
「M日新聞の三宅です。誠に申し上げにくいのですが、航空自衛隊の攻撃機が島内の集落を爆撃した法的根拠は何ですか」やはりメールは編集部からの質問の指示だった。編集部では中国大使館での記者会見から戻った記者の報告を受けて今回の自衛隊の行動を徹底的に批判して国民に反戦世論を扇動する方針を決定しているようだ。
「ご覧になったような島民の無差別虐殺を阻止するための緊急避難です。実際、F―2による攻撃で行動を妨害したことで島民が退避する時間を作られたのはご理解の通りです」編集部は対領空侵犯措置ではなくFー2を発進させて居住地域に爆弾を投下させた航空自衛隊の処置を追及させているのだが、それを口にする記者は他社を含めて誰もいなかった。
「中国は呂論島へ潜入したのは私的に日本に制裁しようとした将校と同調者だと言っていますが」「私的制裁でここまで殺るとなると本隊が来ればどうなるのか・・・」この答えで記者はPAC2の発射と中国軍輸送機の撃墜の質問のメールを読み上げなかった。
  1. 2023/01/28(土) 14:16:43|
  2. 夜の連続小説9
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