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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ385

「あれは日本の漁船だな」「12海里内です」志織中尉は日没後に副操縦士として千島列島沿いに太平洋側を哨戒飛行していた。すると後席のTACCO=戦術航空士たちが数隻の日本漁船が得撫(ウルップ=択捉島の北隣)島沖の海上で停船してしているのを発見した。Pー8ポセイドン対潜哨戒機ではオペレーターの下士官1名を含む5名(長時間の飛行では機上整備員や補助要員=雑用係、交代要員が加わることもある)の搭乗員のうち機長と副操縦士は運航士官、TACCO2名は戦術士官として同格で作戦行動では先任者が指揮を執る。
今回もロシアを無用に刺激しないため領海と主張している12海里よりも外を飛行しているから漁船が停船している理由は判別できないが、ウクライナ侵攻で経済制裁を受けて以降、日本漁船の北方領土近海での操業を許可していないので操業ではないはずだ。
「ロシア軍の小型艇が接近しています。臨検を受けるかも知れません」「日本のコーストガード(海上保安庁)に通報しろ」「ラージャ、ジャパン・コーストガード、ディス・イズ・US・ネービー(こちらアメリカ海軍)、オルカ(コールサイン=仮称)・スリー・エイト(888)・・・」TACCOの通話を背後に聞きながら機長と志織中尉は12海里ギリギリまで機体を接近させた。相手が航空自衛隊であれば無線による通告・警告に続き戦闘機が緊急発進してきて領空侵犯を阻止する要撃行動を始めるはずだ。ところがロシア防空軍は放置している。
1983年9月1日に領空侵犯した大韓航空機がサハリン上空で撃墜された時もソビエト連邦防空軍のレーダーは機能停止していたと言われている。しかし、日本に武力攻撃を加えていながらそれはないはずだ。仮にそうだとすれば日本は絶対に手出しをしないサンドバッグ国家と思われていることになる。むしろ殴られるのが好きなマゾヒスト国家なのかも知れない。
「ロシア軍の小型艇と漁船が接舷しているぞ。何か物資を受け渡ししているだろう」「いいえ、兵員が乗り移っているようです」後席の窓から超高感度望遠暗視眼鏡で確認した女性TACCOが叫ぶように報告した。実は運航士官の2名は漁船の位置を通過する時に操縦桿を切り、12海里内に進入して確認を容易にしたのだ。当然、ロシア軍が地対空ミサイルを発射してくる危険性があるので即座に離脱した。何かあれば操縦ミスで片づけることになる。
「漁船団と小型艇が離れました。小型艇は得撫島に戻ります。漁船団は無灯火で発進して速度を上げました」「我々に発見されたことは承知しているからな。追跡してコーストガードを誘導しよう」「ラージャ」今日の搭乗員では機長よりも先任の男性TACCOが指揮を執った。機長と志織中尉は指揮に従って暗夜の海面を逃走する漁船団を追跡した。その間に女性TACCOは無線機で根室海上保安部に位置や進路などの情報を連絡した。
「新月の暗夜に無灯火で航行されては危険極まりないですね」「よほど見つかりたくない荷物を積んでいるんだろう」根室海上保安部では小型高速巡視船・ふなしりを派遣していた。ふなしりは2012年に配属されたとから級巡視船の20番船で35ノットを超える高速度が自慢だが、月齢0の漆黒の海上を無灯火で航行してくる漁船団を発見してもチリヂリに分かれて逃走されては打つ手がない。
「ウチの探照灯だけでは不十分だからアメちゃんにも照明をリクエストしたいな」「飛行機のランディング・ライトは脚を下ろさないと点灯できませんよ。位置情報をもらっているだけで恩の字です」消灯している船橋では船長と副長を兼ねている航海長が双眼鏡で前方を注視しながら臨検要領を話し合っていた。
「前方500メートルに船団発見、20隻います」「探照灯、照射」レーダー員の報告を受けて船長は即座に命令した。同時に船橋の側面から探照灯の強烈な光線が前方を照らした。すると真っ黒い海面に漁船が立てる押し波(船首で掻き分ける波)が白く浮き上がった。
「停船命令」「了解、こちら根室海上保安部、巡視船ふなしり、本船前方の漁船20隻に停船を命令ずる。即座にエンジンを停止させなさい」航海長が通信機のマイクで停船命令を伝えると船長は双眼鏡が窓に接するほど身を乗り出して注視した。
「駄目だ。漁船はバラバラになって逃走を始めた。警告射撃伝達」「逃走すれば発砲する。停船しろ」カンカンカン・・・「漁船が発砲してきました」航海長が警告を言い終わる前に漁船の甲板に黄色い閃光がまたたき、船橋に弾丸が当たる乾いた金属音が響いてきた。
「あれはロシア軍を乗せている。応戦しろ」「VADSを使いますか」「構わん、エンジンを吹き飛ばせ」「甲板員に告ぐ、VADS射撃準備」ふなしりは戦闘機の20ミリ・バルカン砲を艦船用に改造したVADSを搭載している。船長としては2001年12月22日に九州南西海域で北朝鮮の工作船を追跡した巡視船が機関銃の銃撃を浴び、ロケット弾まで発射された事態の再現だけは避けたかった。そのためには圧倒的な火力を見せつける先制攻撃しかない。
  1. 2023/01/31(火) 15:44:51|
  2. 夜の連続小説9
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