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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ387

「これは事前通告していない質問ですが、先ほど海上保安庁長官が記者会見を開いて昨夜第1管区海上保安本部が日本漁船20隻を撃沈したことを認めましたが大臣もご存知ですね」「国土交通大臣・西藤鋼夫(さいとうかねお)くん」国会の衆議院予算委員会では立権民衆党の湧水代表が唐突に昨夜発生して午前中に海上保安庁が公式発表したばかりの問題を追及した。通常、国会では事実誤認があれば政治問題に発展するため質問者は事前調査と文言の精査を行い、回答者側に準備をさせるため質問項目を事前通告する。このような無通告の質問は国民の関心を引いている間に影響を与えることを狙った奇襲攻撃に外ならない。
「昨夜のうちに海上保安庁から電話で第一報を受け、今朝になって国土交通省に来た海上保安庁次長から説明を受けました」国土交通大臣は公共工事や交通行政などの巨大利権に結びつくため連立与党の正大党から出ることが慣例になっている。西藤大臣も正大党だ。
「その第一報を受けた時、海上保安庁に対処に関する指揮を与えましたか」「西藤国土交通大臣」「報告内容に関しては幾つか質問しましたが、指揮は特に与えていません」湧水代表は「奇襲攻撃に長居は無用」と言う戦術原則を無視して追及を続ける。西藤国土交通大臣としては真意・目的が読めないだけに回答は慎重になった。
「今回の現場は得撫(ウルップ)島沖の太平洋上の公海と聞いています。得撫島は我が国固有の領土である北方4島から外れた完全なロシアの領土です。何らかの理由で得撫島を訪問した漁船が逃走したからと言って一方的に撃沈するのは警察権を逸脱した不当攻撃と考えますが如何ですか」「西藤国土交通大臣」「私は漁船から銃撃を受けたから応戦したと報告を受けています。であれば正当防衛が成立するでしょう」無通告の質問では政策秘書や官僚が大臣席の背後に座って助言を与えるものだがこれは即答した。
「確かに銃弾は巡視船の船橋に数発命中しているようですが使用したのはライフルかサブ・マシンガンのはずなので巡視船の1分間に6000発発射できる20ミリ機関砲で応戦するのは明らかに過剰防衛です。巡視船にも小銃を載せているのだからそれを使用するのが正当防衛の比例原則ではないですか」「西藤国土交通」「漁船にはかなりの人数の兵士が乗っていて軍用小銃を射ってきたのです。派遣していた高速巡視船は小型だったので乗員数が少なく小銃で応戦するには力不足です。したがって機関砲の使用は次善の策だったと考えます」ここは国土交通省の官僚の助言を受けて回答したが、むしろ湧水代表が持っている情報が詳し過ぎることが謎だ。京都の有名私立大学の法学部出身とは言え正当防衛を行使する手段や道具は加害者と同程度とする比例原則を知っていることは意外だ。自己調査能力に乏しい立権民衆党がマスコミを情報源にしているのは政治主張が報道の請け売りなのを見れば常識だが、この事件を出し抜いたA日新聞の記事自体が内部情報の漏洩を疑わなけれなならない。
「自衛隊には防衛大臣が指揮を執るシビリアン・コントロールの鉄則がありますが、海上保安庁長官は自衛隊で言えば幕僚長に相当する制服組でしょう。以前は国土交通省の官僚が就任していたから制服を着ていてもシビリアンでしたが現在は正真正銘の制服組だ。つまり組織内では制服組がトップに君臨していてシビアン・コントールは機能していないことになる。大臣が指揮を執らなければシビリアンは関与できません。海上保安庁が今回のような戦闘行為を繰り返すようならシビリアン・コントロールを導入する組織改革が必要ではないですか」「西藤国土交通大臣」「戦闘行為ではなくあくまでも警察権の執行です」この質問で情報の漏洩源が判ったような気がしたが回答は肩すかしにした。
「ここで総理に伺います。海上保安庁がここまで実力を発揮して我が国を防衛しているのであれば海上自衛隊に海上における警備行動を継続しておく必要はないのではないですか」「内閣総理大臣・石田史雄くん」この質問は石田首相にも無通告だったため複数の官僚と打ち合わせを始めた。首相の回答は些細な言い間違いでもマスコミは目敏く察知して政治生命を失うほど追求しかねないので教えられた台詞の確認も念入りだった。
「お答えします。海上自衛隊は日本海で弾道ミサイルの迎撃に成功しており、現在も即応態勢を維持しています。また太平洋を航行する貨物船団の護衛で我が国の資源の輸入や製品の輸出に大きく貢献しています。現在のように不測事態が続発している状況では特別命令の発令では対応し切れず、海上における警備行動を法的根拠にする必要があります」この回答は外務官僚の発案だった。防衛官僚ではここまで自衛隊の貢献を評価できない。しかし、数席置いた席で聞いている双木外務大臣としては「確かに防衛出動を発令すれば海上における警備行動は必要なくなる」と言わせたかったが、日頃から官僚が用意した答弁書の朗読しかできない石田首相には苛めにしかならない。一応は所属する派閥の長なのだ。
  1. 2023/02/02(木) 14:38:05|
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