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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ411

「弾道ミサイルらし捕捉、1、2、3・・・12発確認」数日後の夜、日本海の中央海域で行動していたイージス護衛艦隊の旗艦・やまのCIC(戦闘指揮所)で監視係の海曹が叫ぶように報告した。艦隊では日本海での行動が長期化して艦の点検・整備と乗員の休養のために4隻のイージス護衛艦と5隻の通常型護衛艦を1隻ずつ母港に帰している。今はあまごが閉鎖中の舞鶴から移籍している大湊基地へ、のどあめは日本海を横切って佐世保基地に戻っている。
「やま、おはぐろ、あしから、可能な目標を迎撃せよ」「各艦に目標割り当てを実施します」「よろしい」「やまの担当1、2、3、4番目標、おはぐろ担当5、6、7、8番目標、あしから担当9、10、11、12番目標」日頃は氷のように冷静なやまの砲雷長が少し声を上ずらせて目標を割り当てた。それを海曹がキーボードを操作してデーターとして伝達した。弾道ミサイルの迎撃能力ではアメリカ海軍と双璧を為す海上自衛隊のイージス護衛艦のSM3ブロック2Aでも同時撃破は4発が限界と思われる。撃ち漏らした目標を受け持つ航空自衛隊のPAC3は首都圏防空のため埼玉県と千葉県、茨城県で待機している。
「SM3にデータ入力完了。操作員、退避完了。各艦、発射準備よろし」「新たに目標、弾道ミサイルらし捕捉、1、2、3、4、4発です」砲雷長が冷静さを取り戻して司令官に報告した時、監視係の海曹の悲鳴のような声が響いた。しかし、司令官は泰然自若、沈着冷静だった。
「この4発は放置するしかない。割り当てた12発の全弾撃破に集中しろ。自衛艦隊司令部に4発は日本に着弾する模様と報告」仮に先に発射した12発は囮(おとり)で、この4発に核弾頭を搭載していれば4つの都市が消滅する。それでもデーターの入力を終えたSM3ブロック2Aの誘導装置を新たな目標に変更することに要する時間と労力、人的ミスへの懸念を相殺すればこの12発の撃破に全力を傾注するべきなのかも知れない。それを察した砲雷長は先任者として各艦に「そのまま射て」と伝達した。
「弾道ミサイル、降下を始めました。高度・・・まだ大気圏外です。射程距離到達まで300秒」「やま、よし。おはぐろ、よし。あしから、よし。全艦、よろし」艦隊としての対応が決定すると各艦からの報告を伝える海曹の口調も日頃の訓練通りになった。海上自衛隊のイージス護衛艦はアメリカ海軍と世界で唯二(ゆいに)、大気圏外での弾道ミサイルの撃墜に成功していているがあの時は単体の目標だった。それを不安ではなく一段高い成果への挑戦として自分を鼓舞しているのは今も変わらぬ月月火水木金金の猛訓練の賜物だ。
「射程到達まで200秒、大気圏内に突入。上部ハッチ開放。SM3のエンジン作動開始」「各艦、発射用意、発射は各艦の判断とする」「やま、発射用意、60秒前」CICは艦橋ではないので肉眼では艦前部のSM3ブロック2Aの状況は見えないが、モニター画面の中継映像は甲板の4基のハッチが横に滑り、中から4つの炎を噴き出したのを映している。
「30秒、25秒、20秒、15秒、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、今」前回、砲雷長は5秒前に発射命令を下したが今回は発射と誘導に万全を期するため発射担当の海曹のカウントを守った。するとモニター画面がハッチから吹き上がる4本のオレンジ色の炎の柱を映し、中から黒い柱のようなSM3ブロック2Aが姿を現して加速しながら飛び去っていく中継映像を流した。同時に別のモニター画面でも他のイージス護衛艦が4発のSM3ブロック2Aを発射した映像が映った。暗い夜空に12本のオレンジ色の光の線が描かれた。
「第1、第2、第3、第4目標まで5、4、3、2、1、今・・・命中」射撃係の海曹の報告にCICの隊員たちがモニター画面を注視すると月明かりで解像度が落ちる夜空に二方向から描かれてきた12本ずつのオレンジ色の線が交差した瞬間に巨大な閃光が輝き、火の塊りが落ちていく光景を映した。さらに数秒の間隔で12回同じことが繰り返された。
「次の弾道ミサイル4発、上空を通過」「自衛艦隊司令部に報告」ロシア軍は全弾撃破に成功した安堵と歓喜に浸る暇を与えず次の苦悩を投げ与えてきた。確かにモニター画面では閃光が消えた夜空に4本のオレンジ色の線が長く引かれていくのが見えた。
「放射能検知始め」「了解、乗員に甲板に出ることを禁じます」「よろし」司令官は自らの判断で放置を決定した次の弾道ミサイルに囚われることなく艦橋の副長に次の指示を与えた。この弾道ミサイルが核弾頭を搭載していればこの距離では甚大な被害を受けるはずだ。
「検知器の放射線量に変化はありません。先ほどの閃光は核のものではありませんでしたから大丈夫でしょう」数秒後、マストの頂部に設置してある放射能検知器の数値に変化がないことを報告してきた副長は艦橋で目撃した先ほどの爆発の情景を補足した。核兵器の爆発の閃光は「天上の光」と形容されるほど美しく第2次世界大戦中にネバダ砂漠で行われたマンハッタン計画の爆発実験には見学ツアー客が押しかけて被爆による放射能障害を発症した。
  1. 2023/02/26(日) 14:02:19|
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