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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ423

ロシアが参戦して以来、ヨーロッパのマスコミも日本への武力行使を熱心に報道するようになっている。やはり中国がアジア圏内で猛威を奮ってもヨーロッパにとっては対岸=地球の裏側の火事だがロシアの出陣となると他人事では済まないようだ。
「モリヤ検察官に日本の法務省から帰国要請が入っているんだ」私も梢に受信可能な周辺各国の報道番組を録画させて生の同時通訳で注視しているが日本への侵攻は時間の問題と見ている。そんなある日、ハリム・カサド・カマド・ハーン首席検察官から思いがけない人事情報が伝えられた。私は相変わらず作務衣で勤務しているが無意識に「気をつけ」してしまった。
「私はジエ―タイから出向してきましたが、日本では個人資格の弁護士だったので法務省に人事権はないはずです」私は司法試験に合格して司法研修を受けた後は陸上幕僚監部法務官室に席が用意されていたので進路に悩む必要がなく法曹業界の人事制度に関する知識はないに等しい。裁判官や検察官に任官する弁護士がいることを考えると今も登録している東京弁護士会と法務省に人事的な関係があるのかも知れない。
「どうやら日本が戦場になって捕虜が発生した時の軍事法廷の検察官にしたいらしい。これは高根判事の見解だが」「法務省から出向している高根判事の内部情報なら間違いないでしょう。しかし、日本国憲法76条2項で特別裁判所は設置できないと明記していますから軍事法廷はありません。ウクライナ式に通常法廷で戦争犯罪を審理するのだ思います」私は着任した頃の戸崎久仁子判事は外交官らしい温和な雰囲気と知的な容貌が好きで親しくしていたが、現在の高根智子判事は法務省の裁判所長からの転任だけに妙につき合い辛い印象を受けて縁遠くなっていた。日本の法廷では法務省所属の裁判官と検察官が密接して弁護士が阻害されていることが99パーセント以上の勝訴率の原因と言われている。その意味では好き嫌いを言わずに密着しなければならなかったのかも知れないが、国際刑事裁判所の検察部には勝訴率を誇示する面子意識はないので問題はなかった。
「モリヤ検察官はウクライナの戦犯法廷に参加しているから適任だね。ウチとしてはリミッド検察官が退任したばかりだから困るが、母国のために働くのは軍人の美学だろうから止めることはしないよ。ましてや侵攻を受ければ傍観者ではいられないだろう」「私は愛国心なんぞは持ち合わせていませんが、日本で暮らしている息子たちが心配なのは確かです」ハーン検察官の評価に私は斜(しゃ)に構えて答えた。昭和の時代には愛国心の塊だった私は平成元年に陸上自衛隊の幹部候補生学校に入校して3等陸尉に任官して以来、幹部自衛官として勤務してきた。しかし、平成の時代はバブルの狂乱景気と崩壊後の長期不況によって日本人の美風は消滅して卑しい餓鬼畜生に堕ちてしまった。それを象徴していたのが天皇自身だった。私は平成の天皇がアメリカ人女性の家庭教師に刷り込まれた父親を戦争犯罪者として帝国陸海軍の行動を全て帝国主義の凶悪事とする断罪史観を顧みることなく、植民地を失ったヨーロッパだけでなく植民地支配から解放された東南アジアからの国賓にまで謝罪を繰り返したことで憎悪するようになった。その意味では日本と言う国家が消滅することに特別な感情はないが中国と韓国、北朝鮮、ロシアの軍門に下ることは容赦できない。
「それでは日本に帰ると言う前提で準備すれば良いんですね。現在、ここで担当している事案は判事部の審理に入っていますがウクライナの公判の方はかなり残っています」「ウクライナはロシア軍が戦争犯罪を常態化させてるから切りがないよね。同じことが日本で起こらないように願っているよ」私が現実に戻して解答するとハーン首席検察官は真顔でうなずいた。
「実はここでの仕事に限界を感じているんです。シベリアの基地で体験したロシア軍の犯罪行為を告発しようと準備を進めていましたが、国際連合常任理事国の刑事告発には抗し切れない圧力、越えられない妨害が加えられました。その点、日本国内の裁判であれば司法への政治の介入も原則的に否定されるでしょう」私の本音にハーン検察官は複雑な表情を浮かべた。梢の父・恵倫さんの最期を看取るため搭乗していたKLMオランダ航空321便が強制着陸させられたシベリアの空軍基地では日本人客室乗務員の小森希恵が自死した。その原因はウラジオストックで売春宿を経営している谷茶満庫が薬物を使って意識を操り、ロシア兵の性玩具にされたことだった。次に女性の乗客の中では最も若かった浅野望美が集団で暴行を受けたが基地の憲兵隊に保護を要請した。そして乗客たちは日本に攻撃に向かう爆撃機や歩兵を乗せて強行着陸を試みた輸送機に同乗させられて自衛隊による撃墜で死亡している。その後もKLMオランダ航空とオランダ政府、EUはロシアに対して乗客の安否の確認を続けているが解答は得ていないらしい。これらの犯罪行為の中で証拠が確保できているのは性器に異常な頻度の性交の痕跡が確認された小森希恵の検屍結果だけだったので私としても打つ手がなかったのだ。
  1. 2023/03/10(金) 15:09:14|
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