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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ425

「ボンズ(坊主)、母国が危ないのに元陸軍中佐(2等陸佐)が帰らなくて良いんですか」「だから身体を鍛えているんでしょう」最近、警察官たちはニュースが報じる日本の危機的状況を真剣に心配してくれている。それは梢がつき合っている商店の小父さん・小母さんたちも同様で、それどころか2人で街を歩いていると知らない通行人から「日本の勝利を信じているよ」と声をかけられる。私たちが赴任してきた頃には第2次世界大戦の緒戦でインドネシアの植民地を失った敗北を逆恨みして捕虜虐待を捏造していた反日団体が抗議活動に励んでいたが、それが在オランダの中国人や韓国人に利用されたことで国民の支持を失って大人しくなった。その在オランダの中国人たちも共産党指導部がロシアのウクライナ侵攻の共犯者として非難されるようになって表面上は息を潜めている。
「そのうち日本政府に呼ばれるかも知れないな。そうしたらお別れだよ」「奥さんは置いて行って下さい。私たちが守りますから」私の返事に今夜は女性だった若い方の警察官が答えた。確かに梢の安全を考えれば残していくことも選択肢だが、現在の国際刑事裁判所の宿舎は私が退任すれば出なければならず、梢はこちらで借家の家賃を含めた給与を得られる職業を探すことになる。梢の語学力と能力なら仕事は見つかるかも知れないが本人が承知しない。
「そう言えば日本のエンペラー(天皇)の妻と娘が我が国に亡命してくるそうですね」「そうなのか。知らなかったよ」「ニュースでは言ってなかったわ」意外な話に私と梢が代わる代わる答えてしまった。私たちが着任した時、今の天皇の妻の父親は同じスフラーフェン・ハーグにある国際司法裁判所の判事だったので精神的に不安定だった妻は療養と称して娘と非公式に来訪していた。現地では皇太子だった夫が公式訪問して合流するとプロテスタントの妻一家と一緒に教会の礼拝に出かける姿が報道されていたが、父親の先代の天皇もヨーロッパを訪問すると視察経路のカソリックの聖堂で妻と並んで祈っていたそうなので特別な感想はなかった。先代の天皇の在位中に異常な頻度で巨大災害が続発したのは日本固有の八百万の神々の天罰に違いない。当然、今後もかなり危ない。
「オランダでは第2次世界大戦でナチスに占領される前に女王一家が亡命しているから抵抗はないだろうけどデヴァイン・ワールド(神世=昭和)生まれの日本人としては容認できないな」昭和天皇は日本が1945年5月8日にナチス・ドイツが降伏した後も世界を相手に戦争を継続したため亡命先がなく敗戦後も国内に留まった。占領軍はヨーロッパの敗北して逃げ遅れた国王たちのように日本人の手で殺害されると予想していてあえて戦争犯罪者にしなかったと言われている。ところが昭和天皇が日本全国を巡幸すると国民は廃墟の中で盛大に歓迎しながら礼節を失わなかった。それを見て占領軍司令部は「戦争犯罪者にしていれば暴動が起こっていた」とマックアーサー最高司令官の判断を賞賛した。そんな昭和を知る者から見れば妻と娘とは言え皇族が国を捨てることは許し難い背信行為だ。
「ウィルヘルミナ女王陛下はイギリス国王に出兵を要請したんですが、チェンバレン政権がナチスとの全面戦争を恐れて反対したので亡命せざるを得なかったんですよ。当時、ユリアナ女王陛下は出産1年後とは言え30歳で若くて美しかったからナチスに捕らわれればどのような凌辱を受けるか判らない。母親としては苦渋の決断だったと思います」やはり女性警察官の見解は女性の立場を尊重している。天皇の妻も娘の貞操を心配しているとすれば理解してやれないことはない。しかし、ロシア軍や中国軍、在日暴徒の毒牙にかかるとすればアイドル的美女として評判が高い天皇の弟の下の娘の方ではないか。それでも同級生との色狂いの果てにアメリカへ駆け落ちした姉と同じキリスト教系大学に通学していたので貞操を心配する必要はないのかも知れない。と考えた私は何と不謹慎な国民だろう。
「日本は戦場になってしまうのね」夜の散歩を終え、2人でシャワーを浴びてソファーで酒を飲み始めると梢は重い口調で話を切り出した。やはり警察官から聞いた天皇の妻と娘の亡命の話は衝撃的だったようだ。あの後、警察官は「そうなったら警備をどうすると言う警察内の噂話だ」と弁明していたが火種がなければ煙は立たないはずだ。
「そうなるとお前が心配だな。首里のマンションで待っているか」私としては石垣島での弁護士事務所の開業が延期になる以上、高齢の義母の生活を支える方法として考えていた代案だったが、梢はグラスを口から離して首を振った。
「私はお婆ちゃんだから襲われる心配はないわ。貴方と一緒に死ぬことが40年来の夢なのよ。今度こそ離れないわ」40年来と言えば愛知の伯父と両親に引き裂かれて私が万座毛での心中を口にした時だ。梢は私を死なせないために別れを切り出したが本人はその覚悟を決めていたようだ。私はソファーに押し倒してしまった。勿論、できるのは口づけと愛撫だけだ。
ほ・純名里沙イメージ画像
  1. 2023/03/12(日) 14:18:19|
  2. 夜の連続小説9
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