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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ428

「デモ隊が民航の燃料エリアに侵入しています」航空自衛隊の那覇基地と共に那覇空港に同居している海上自衛隊の那覇航空基地の第5航空群ではアメリカ軍の偵察機によって確認された中国海軍の輸送艦隊の出撃に備えてPー1対潜哨戒機全機の発進準備を整え、指揮所では司令以下が航空自衛隊偵察航空隊のRQー4グローバルホークが送ってくる映像を注視していた。そこに航空自衛隊が民間空港との境界線に配備している警備要員から無線連絡が入った。
「民航の燃料エリアは隣接していますから直ちに警備隊を派遣します」「間に合うかな。警備要員は仮眠中だろう」運用幕僚の意見に先任伍長は小さく首を振った。那覇空港の民間航空用燃料地区は数百メートルの間隔を開けて海上自衛隊の航空基地に隣接しているから徒歩でも数分で到達する。一方、夜間はエプロン=駐機場で待機している完全武装のPー1を警備するため武装した隊員を配置しているが昼間は内務班で仮眠させている。
「今なら格納庫で勤務している隊員を武装させる方が間違いない」「確かに・・・整備補給隊に連絡しよう」先任伍長の意見に運用幕僚と警備を担当する訓練幕僚も同意した。問題は警備要員には武器使用などの対応を十分に教育しているが航空機整備員たちは半ば素人だ。訓練幕僚は武装を銃火器ではなく警棒にさせた。
「空港からって・・・CAB(国土交通省航空局)は何をやってるんだ」黙っている司令の隣りで首席幕僚が呟いた。しかし、パイロットやTACCO=戦術航空士の幕僚たちは国土交通省労組の嫌がらせには慣れているので反応しなかった。国土交通省労組の嫌がらせは日中の武力衝突が始まって以来、むしろ悪質で執拗になっているのだ。
「デモ隊は制服を着た女子ばかりの高校生、中学生に引率の教師、総員100名程度です・・・新聞記者が同行しています」訓練幕僚が整備補給隊にエプロン地区の自隊警備隊の配備、基地隊に警備隊の編制を指示した時、航空自衛隊の警備要員から完全に想定外の続報が入った。
「おそらく警備要員が阻止行動、排除行動を執れば性的暴行を受けたと主張するつもりなんでしょう。近づいただけでセクハラだって騒ぎ出しかねない」「そうなるとWAVEで対処した方が良いが100名を阻止するには人数が足りない」先任伍長と首席幕僚が話し合っていと「今、隊列を組んでいます」と続報が入った。
「黒塗りの高級車が到着しました・・・県知事です」「ケニーかッ」さらなる続報に今度は司令が一言を発して絶句した。ケニーとはケニー山城(やまき)沖縄県知事のことだ。ケニー山城知事は元コメディアンだが自民党の国会議員から那覇市長を経て沖縄県知事に当選・就任しながら辺野古への普天間基地の移設に反対するなど反自民党政権の政治姿勢を公然化していた前任者が癌に倒れた時、後継者に指名された人物だ。予想通り県知事に就任してからは中国を訪問して「琉球王国は中国の領土だった」と明言して今回の奄美諸島への侵攻の原因を作り、尖閣諸島の中国船の領海侵犯問題では海上保安庁の阻止行動を批判している。
「知事が先頭に立って歩き始めました。海上自衛隊のエプロンに向かいます」県知事のお出ましとなると基地司令が対応するしかない。那覇航空基地司令は海将補の第5航空群司令が兼務しているが航空自衛隊那覇基地は空将補の第9航空団司令でも基地内には空将の南西航空方面隊司令官が所在している。この極めて政治色が強い問題を場当たり的に対処するのは適切ではないのは明らかだ。司令が電話の受話器に手を伸ばすと先に呼び出し音が鳴った。
「ケニーは飛鳥田一雄になるつもりだな。私が会うから君はウチの基地司令と同行してくれ」やはり電話は南西航空方面隊司令官からだった。飛鳥田一雄は横浜市長だった昭和47年8月にアメリカ軍が相模原市にある補給廠で整備したM48戦車をベトナム戦争に再投入するため横浜市が管理する村雨橋を渡って輸送艦の桟橋に移動するのを市職員労組と人の盾を作って阻止した。この事件で知名度を上げた飛鳥田は市長在職のまま社会党委員長になっている。
「おまけに女子を盾に使うようです」「しかし、君のところのPー1も何時発進してもおかしくないんだろう。座り込みさせては厄介だぞ」「実力行使しなくても接近すればセクハラにされますから困ったものです。防衛のためにはセクハラ程度の批判は甘んじて受けるしかありません」南西航空方面隊司令官が何かを答えようとした時、警備の無線が騒ぎ出した。
「デモ隊が一列になってエプロンとタクシーウェイ(誘導路)の間を進んでいきます」「知事は中央です」「座りました」「排除します」無線が海上自衛隊の自隊警備隊からに替わったのを聞きながら第5航空群司令は官用車でエプロンに向かった。
「キャーッ、止めてェ」「この人、私の腕を掴んださァ」「胸に触ったよ」「腰に抱きついたわ」案の定、エプロンではセクハラ茶番劇がマスコミにテレビ中継されていた。おまけに女生徒たちは仰向けに寝転がって盾ならぬ人の地雷原になっていた。
  1. 2023/03/15(水) 13:53:52|
  2. 夜の連続小説9
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