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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ430

「キャーッ、助けて」「危険だからこっちに来なさい」「動けないさァ」動き始めたFー15が迫ってくると仰向けに寝転がっていた女生徒たちは一斉に悲鳴を上げた。この位置と姿勢ではF100エンジンの凄まじいジェット音だけでなく小刻みな振動を背中に感じ、タイヤの軋みと大量に吸入する空気が引き裂かれるような感覚が身体を覆うのだ。司令たちの合図を見て退避し始めていた警備要員が声をかけたが女生徒たちは上半身を起こしたまま硬直していた。
「早く立て」「恐い、立たせて」警備要員が駆け寄って手を差し出すと女生徒は掴んだ腕を手繰るように抱きついてきた。それを見て他の警備員たちは脇の下に手を差し入れて立ち上がらせると背中を押して「走れ」と声をかけた。女生徒たちは無事にエプロンの隅に退避した。
「知事も腰が抜けて動けませんか」通り過ぎてゆくパイロットたちがキャノピー(=風防ガラス)越しに敬礼してくるので航空方面隊司令官は答礼していた。そうして航空自衛隊側のエプロンに並んでいた発進予定の全機が通過すると座ったまま動かないケニー山城知事に声をかけた。その傍らには「若い警備要員に犯された」と自己申告した女性教師が立っていた。
「私はここで戦争を防ぐ盾としての務めを果たしているだけだ」「私も同じです」知事と教師は両手で耳を抑えてFー15に続いて海上自衛隊側のエプロンから出てくるPー1のジェット音を防ぎながら質問に答えた。それにしてもこの2人は女生徒たちが人の地雷としての任務を放棄して警備要員が抱き起こしたことは問題にしていない。その点は常識的だ。
するとPー1のコクピットからも航空方面隊司令官に敬礼してきた。航空方面隊司令官はパイロット・スーツ(=飛行服)を着ているが海上自衛隊の作法で制服姿の第5航空群司令よりも上位者であることが判ったようだ。沖縄の自衛隊では最上位者ではある。
「いよいよ戦争が始まるんですね」「あのパイロットたちは真珠湾に向かって空母を発進するゼロ戦を操縦している気分なんだろうな」「それは『永遠の0(ゼロ)』ですか」女性教師と知事は同行させてきたマスコミ関係者が出撃していくFー15とPー1の撮影に熱中しているのを見て冷めた会話を始めた。「永遠の0」は百田尚樹の小説とそれを原作にした2013年の冬休みの時期に公開された映画だが、百田自身は日頃の政治的発言から「右翼」と思われているためこの映画も「戦争賛美の有害作品」として生徒や児童に見ないように指導した教師が多かった。ところが実際は神風(しんぷう)特別攻撃隊を中心に戦争の愚かしさや残酷な実態を詳細に描いていることが判り、上映が終わってからレンタルDVDやインターネットでダウンロードして授業で視聴させる違法行為が横行したと言われている。この女性教師もその口かも知れない。どう見ても映画館で戦争映画を観賞するタイプとは思えない。
「ナハ・コントロール(那覇空港管制塔)、ディス・イズ・クラウン(第9航空団のコールサイン=仮称)001、リクエスト・ノーマル・テイクオフ(通常の離陸を要求する)、オーバー」今は北風のためタクシー・ウェイには南北に走る那覇空港の滑走路のサウス・エンド(南端)に向かってFー15とPー1が長蛇の列を作っていた。最初はクラウンの編隊長とエレメント(僚機)が滑走路に入って離陸を要求した。
「ラージャ(了解)、クラウン001、ノーマル・テイクオフ、オーバー」「何だ、あの燃料車は」「ラン・ウェイを封鎖しているぞ」管制塔が離陸許可を出した時、編隊長とエレメントは異様な光景を目の当たりにした。滑走路の中央に民間航空用の燃料車が侵入して停車したのだ。
「クラウン001、スタンバイ」「ラージャ、クラウン001、スタンバイ、オーバー」管制官も混乱しているようで通話の最後につける「オーバー(=日本語の通話では「送れ」)」を入れ忘れた。この声は国土交通省職員労組の組合員ではない。
「うわッ、何を始めるんだ。馬鹿、止めろ・・・」3000メートルの滑走路の中央付近なのでパイロットの超人的な視力でも停車した燃料車が何をやっているのかは判別できないが、コントロール・タワー(管制塔)の管制官は双眼鏡で状況を確認しているはずだ。無線から聞こえてくる管制官の声が引きつっていることで只ならぬ事態が発生していることは判った。
「エマージェンシー(緊急事態)、エマージェンシー、ナハ・エアポート(那覇空港)、クローズ(閉鎖)」前方の燃料車から火の手が上がり、巨大な炎が燃え上がるのと管制官が緊急事態を宣言するまでには数秒を要した。やはり「再度、状況確認をした」と言うよりも信じ難い事態に我が目を疑ったのだろう。どうやら燃料車から下りた運転手がホースを伸ばして航空燃料JP5(軍用はJP4)を散布して火を点けたのだ。現在の空港では旅客機への給油は地下のパイプのノズルに接続して行うため燃料車は離島便などの小型機用で搭載量はそれほど多くない。それでも滑走路を使用不能にするには十分だ。海上自衛隊那覇航空基地と航空自衛隊那覇基地は中国海軍輸送艦隊の出撃への初動対処を喪失してしまった。
  1. 2023/03/17(金) 15:37:30|
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